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超巨大宇宙船が落ちて来てから十八年が経ちました:今日からあなたが艦長です!!  作者: なつのさんち
二〇四七年

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107:浜辺の夜

 医療施設に行っていた女性陣と、ゲームセンターで遊んでいた男性陣が浜辺で合流した。

 (あきら)の希望で、浜辺で夜を過ごす事になっている。

 合流する前に、艦治(かんじ)がナギへ指示をして、グランピング施設のような大型テントやベッドなどを複数設営済みだ。

 男性陣だけでなく女性陣も全員浴衣姿で涼しげな雰囲気だ。


 家事ヒューマノイドが料理した品々がテーブルに並べられており、バイキングのように自分で食べたいものを取りに行くスタイルの夕食が用意されている。

 流しそうめんや天ぷら、ミニラーメンや寿司などありとあらゆる料理が所狭しと並べられ、さらには噴水のような大きさのチョコフォンデュのファウンテンまで稼働している。


「絶対に食べ切れない量だけど、大丈夫?」


「そっか、(あや)ちゃんはまだ亜空間収納持ってないもんね。

 ここに入れておけばいつでも食べられるから、作り置き出来るんだ」


 艦治が取り出したのは、まなみが握って入れておいたおにぎりだ。

 ラップを取って齧り付く艦治を見て、まなみの口角が若干上がった。


「良いなぁ、私も早く大人になりたーい」


「……十年早い」


「まなみさんヒドくない!?」


 そんなやり取りをしているすぐ隣に、空を見上げる亘がいた。


「夢のようだね……」


 夜空には絶え間なく降り続ける流れ星が煌めいており、亘は食事の手を止めて見入っていた。

 しかし、そんな亘と一緒に夜空を見上げてくれる相手がいない事に気付き、亘は一人寂しくため息を吐く。


「この景色を恋人と一緒に見ようと思っても、艦治とまなみさんのお眼鏡に適わないとダメなのか。

 随分ハードルが高そうだなぁ」


 一方、輝は夕食を早めに切り上げて、本格的なダイバー装備を担いで一人で夜の海に潜りに行った。

 発光クラゲが海中を照らし、イルカやクジラやシャチだけでなく、イワシやナポレオンフィッシュ、ウミガメなどが輝の周りを賑やかしている。



 一通り食事を楽しんだ後、輝以外はテスト勉強の続きをする事にした。

 今も降り続いている流れ星の下、ランタンで手元を照らしてシャーペンを走らせる。

 彩も中学の期末テストが近いので、家に戻って取って来たノートを見返している。


「そう言えば、艦治と良光(よしみつ)の希望する学部はどこなんだい?」


 静かに勉強していた一同だったが、亘が自分の希望する学部は伝えたが、艦治と良光が行きたい学部を聞いていなかった事に気付いた。


「僕らは国際日本学部にしようかって、まなみと話してるんだ」


「……一緒なら、どこでも」


 先ほど感じた寂しさから、つい話し掛けてしまった亘だが、二人の仲の良さを見せつけられてしまい、余計に寂しさが増してしまった。


「俺は元々経済学部に進むつもりだったけど、望海(のぞみ)は?」


「私は文系ならどこでも良いかなぁって」


 もう一組カップルがいた事を思い出し、亘が白目を剥く。


「亘さん、付き合ってあげましょうか?」


「止めてくれ、捕まりたくない」


「えぇっ!? 捕まるような事するつもりだったんです!?」


「「うわぁ……」」


 艦治と良光が亘に白い目を向ける。


「嵌められた!?」


≪ハメるつもりだったのにねぇー≫


「ぶふっ……!!」


 まなみの電脳通話で、望海が吹き出した。



 時刻は夜の十時を過ぎ、勉強の続きは明日の朝にしようという事になった。

 海から戻った輝が彩と恵美(えみ)を連れてまた温泉へ向かい、亘は拗ねて一人でボートを漕いで沖に出て行った。


 艦治と良光、まなみと望海の二組がキャンプファイヤーを挟んで向かい合わせにして座っている。


≪なぁ、お前らはもう済ませてんだろ?≫


≪……うん≫


 ゆらゆらと形を変える炎を見つめながら、艦治は茶化さずに良光の問い掛けに答えた。


≪童貞の考えかも知れんが、ちょっとまだ早い気がしてんだよな≫


≪分かるよ。僕らはまだ高校生だしね≫


≪望海も焦ってる訳じゃないんだろうけどよ……≫


≪多分まなみの影響だね。何かもうホントごめん≫


≪いや、俺も男だからな。そういうの向こうから言ってくれるのは嬉しいんだけど、なぁ?≫


≪分かる、分かるよ≫


≪でも大事だからこそ、本気で好きだからこそ簡単には手を出せねぇもんじゃねぇか!?≫


≪すごく分かる。分かりみしかない≫


≪でよ、そこで相談なんだ。

 お前、仮想空間でもした事あるんだってな≫


≪何でも言うじゃん……。

 まぁあるよ≫


≪現実世界には全く影響ないんだろ?

 って事はだ。俺と望海が仮想空間でやったとしても、現実では童貞と処女のままって事だよな!?≫


≪現実では何も変わらないよ。

 めちゃくちゃリアルだし、五感全て本物みたいに感じるけど、そこは仮想空間だからね。

 まぁ二人の心の距離とかには影響するかもだけど、そればっかりは当事者次第だし≫


 艦治の言葉を聞いて、良光が勢い良く立ち上がり、炎の向こう側にいた望海へと歩み寄る。


「望海、俺と一緒に仮想空間行かねぇか?」


「……良いよ」


 良光が差し出した右手を、望海は俯いたまま握り返した。

 二人は大型テントの一つに入り、内側からジッパーを閉めた。


≪仮想空間行かなくても良くない?≫


≪二人には二人のやり方があるんだよ≫


 隣の椅子に移動し、寄り掛かって来たまなみの肩を抱く艦治。


≪じゃあ今から私達のやり方しよっか!!≫


≪今日はダメ。まなみの可愛い声が聞かれちゃう≫


≪……え? 私声なんて出してた?≫


≪今度録画してあげるね≫


≪それがかんちのやり方か……!!≫



 翌朝、テントを開けて浴衣姿のまま海に走って飛び込む良光の姿が目撃された。


 その日を境に、孤島迷宮では半魚人の妨害生物(モンスター)が出現するようになった、とかならなかったとか。

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