106:男三人
上空千メートルでパラシュートが開き、自動操縦で浜辺へ向けて滑るように移動する一同。
「泣きじゃくってないかい?」
「あー、ホントだ」
地上に残った亘と彩は、ビーチチェアにもたれながら家事ヒューマノイドに渡された双眼鏡で皆の様子を窺っている。
輝は興奮した様子で右手で一本指を立てており、良光は泣きじゃくっている望海に呼び掛けている。
艦治が先頭になって亘と彩が待つ浜辺へと向かっており、まなみはその後を追っている。
パラシュートは浜辺上空をくるくると旋回した後、高度が下がったところで波打ち際ぎりぎりの海中へ着水した。
「ん? 自動操縦で安全だって言ってなかったかい?」
「あー、何か事情があるんじゃないです?」
良光に背を向けて未だ泣きじゃくっている望海を見て、何かを察した彩。
「事情って何だい?」
「……亘さんってカッコ良いのにモテなさそうですね」
「突然酷い事言うね。モテないのは事実だけど」
パラシュートが海中に着水してしまうというアクシデントがあったので、温泉のある区画へと移動する事になった。
「ナギ、直接脱衣所に繋いで」
「了承致しました」
二つのワープゲートが出現し、まなみが望海の手を引いて右側のワープゲートへ入って行った。
艦治と良光と亘は、もう一方のワープゲートへと進んだ。
脱衣所で待機していた家事ヒューマノイドに脱いだ衣類を任せて、三人は頭と身体を洗ってから露天風呂へと浸かった。
足を伸ばし、空を見上げる良光に、艦治が声を掛ける。
「ごめんね」
「いや、お前が謝る事じゃねぇけどよ……」
「一体何があったんだい?」
艦治と良光が亘の顔を眺め、深いため息を吐く。
「亘は彼女とかいねぇのか?」
「いないよ。
……ちょうど君の妹にモテなさそうだって言われたところだよ」
「まぁそれは良いじゃん。
亘は内部進学する予定?」
艦治が未だピンと来ていない亘に話を振り、話題を変える。
「そうだね。付属の大学に行くつもりだよ。
法学部に進むつもりで考えているんだ」
「法学部か、レベル高ぇよな」
≪かんち、夜空にして花火上げても良い?≫
≪うん、良いよ。
ナギ、お願い≫
≪了承致しました≫
艦治がナギに指示を出すと、すぐに空が暗くなり、ぴゅるるる~~~という音と共に打ち上げ花火が上がった。
ドンッ!!
「うわっ!?」
突如夜空に咲き誇った花火を見て、亘が驚きの声を上げる。
「亘ってまぁまぁビビリだよな」
「いやびっくりするだろう!
眼鏡してないから花火もよく見えないし!!」
「ごめんごめん、事前に言えば良かったね」
艦治が苦笑いを浮かべながら謝る。
家事ヒューマノイドが亘の眼鏡を持ってきて、亘へ差し出した。
亘はそれを受け取って、眼鏡を掛けて花火を見上げる。
「艦治は空が暗くなる事も、花火が上がる事も知っていたのかい?」
「うん、まなみが電脳通話で花火上げたいって言ったからね。
僕がナギにお願いしたんだ」
「電脳通話か……。
良いな、早くインプラントを入れたいよ」
亘はまだ十八歳になっておらず、インプラント埋入手術を受ける事が出来ない。
「入れれば良いじゃねぇか。
艦治、お前なら出来んだろ?」
「いやいやいや、そんな勝手な事出来ないよ。
ご両親が反対したらどうするのさ」
亘が簡単に言うが、艦治は慎重な姿勢を示す。
インプラントを入れるには、日本の法律上十八歳の誕生日を迎える事と共に、高校生である限りは保護者の承諾が必要になる。
「そんなん関係なくね?」
「ダメだよ。
それに夏休みになったら亘は誕生日が来るんだから。承諾を取れば手術は出来るよ」
「家に帰ったらちゃんと両親と話すよ。
艦治のそういう所、信頼に値するね」
亘が決まり事をしっかりと守る艦治の態度を褒める。
それを受けて艦治が亘から距離を取る。
「ごめん、そっちの趣味はないので……」
「そんな意味で言ったんじゃないよ!
世界一の科学技術と軍事力を持ってても、艦治の芯はしっかりしてるんだなって感心したのに損した気分だよ」
「ふふっ、ごめんごめん」
艦治が笑って謝る。
「世界一なのは科学と軍事だけじゃねぇぞ?
こいつは資産額も世界一だからな」
「そう言えばそうか。エーテルコンバータもモンスターコアも、本来は艦治が好きに売る事が出来るんだから、石油王どころの話じゃないだろうね」
「艦治がナギの主だって世界に知れたら、どうなると思う?」
「どうなるだろうね。
まずは大陸がどう出るかにもよるだろうけど……」
良光と亘がもしもの話で盛り上がっていると、また艦治にまなみから電脳通話が入った。
≪輝ちゃん達に全スキルのインストールしても良い?≫
≪うん、良いよ。
でも彩ちゃんはダメだからね。まだ十四歳だし≫
≪りょーかい。
じゃあお風呂上がったらナミに病院に連れてってもらうね≫
≪分かった、案内よろしくね≫
女性陣を待つ時間が出来てしまったので、艦治は良光と亘にしたい事を訪ねる事にした。
「良光と亘は次何がしたい?
せっかくだし三人だけでどっか行こうよ」
「おっ、良いな。
次こそ空飛ぶカーレースしようぜ!」
「すまないが、空を飛ぶのはパスしたい」
亘が眉間に皺を寄せ、心底嫌そうな表情になる。
「じゃあ何すんだ?」
「ゲームセンターがあるって言ってたよね?
僕、行った事ないんだ」
「よし、じゃあゲームセンターにしよう!」
三人は湯舟から出て上がり湯をし、ナギが用意していた浴衣に着替えた。
ワープゲートを抜けて、広大なフロアに様々な筐体が置かれた区画へやって来た。
「種類があり過ぎて選べないな……」
「ちょっとこれ見ろよ、ゲームなら空飛ぶカーレース出来るだろ?」
三人はレースゲームから楽しむ事にした。
「リアル過ぎて漏らしそうなんだが!?
……そういう事か」
「「今さら気付かなくて良い」」




