104:秘密結社
≪マーシェ、今電話出来る?≫
≪問題ないです≫
サクセサー商事を買収して、神州丸からの技術を輸出する窓口としてはどうかという良光の提案を聞き、艦治はすぐに雅絵に連絡を入れた。
≪電話じゃなくて直接話した方が良くない? ここに来てもらって、みんなで話したらどうかな。良光君とか亘君とか、色んな意見出してくれそうだし≫
まなみの提案により、マーシェ(雅絵)がワープゲートを通って、皆が待つ浜辺へとやって来た。
「お初にお目に掛かります。マーシェと申します」
「僕らの秘書をしてくれてる。とある女性が遠隔操作してるんだ」
雅絵の所属を言ってしまうと、皆が驚いて話が進まない可能性があるので、艦治とまなみの秘書をお願いしている人、という説明に留めた。
「金髪の妖精さんだ……」
テーブルの上に乗ってお辞儀をしてみせたマーシェを見て、亘がいたく感動している。
亘の妖精ガチャは人型妖精だな、と艦治が密かにナギへ指示を出した。
「お休みだって言ってたのに呼び出してごめんね。
ちょっと聞きたいんだけど、神州丸の技術が詰まった製品やサービスを売る為の窓口企業として、上場会社を買収しようかという話になったんだ。
その事についてマーシェに聞いてもらいたくて」
「企業買収ですか……。
例えば、何を売ろうと思われていますか?」
「空飛ぶ車とか、医療用ポッドとかかな」
マーシェ(雅絵)は表情を曇らせる。
「ご存知の通り、空飛ぶ車も医療用ポッドも法整備が完了していない為、日本国内で流通させる事が出来ません」
「じゃあ法整備するよう圧力掛ければ良くね?」
良光は雅絵の事を知っているので、圧力を掛ける事が可能であると知っている。
「それはそうなのですが、医療用ポッドについては日本の科学技術では解析する事が可能なのでしょうか?
安全であると確認が出来ないと、厚生労働省から認可を得る事は出来ません」
神州丸の科学技術は、現代の人類が理解出来る範疇を越えている。
三ノ宮伊之助が生まれた世界の地球においても、AIがAI開発を行うという技術的特異点を越えた遥か先の時代だった為、あちらの人類も理解出来ないまま利用していた。
「安全を確認するのが人間である以上、神州丸の科学技術を理解出来ないから、安全を確認する事が出来ないというジレンマが発生するんだね」
亘がため息を吐く。
「どちらにしても、医療用ポッドは一般発売出来る種類の商品じゃないし、当分除外するしかないんじゃないかな。
もし法律的に売れるってなったとしても、そうそう買えるような金額じゃないよね?」
艦治が抱えている事情、妹の治奈の件を知らされていない望海が、医療用ポッドは販売しない方向で考えるべきだと主張する。
「……それもそうだね。
そもそも、医療用ポッドを売る必要なんてなくて、治療希望者を募って神州丸に呼び込めば良いだけだしね」
艦治の両親、治樹と治佳が希望するならば、今すぐにでも動くつもりの艦治だが、二人はあくまで自分達の手で治奈を蘇生させたいと願っている為、今は待つしかない状況だ。
「じゃあワープゲートはー?」
恵美の提案も即座に否定される。
「ワープゲートを発生させる装置の安全性を証明する為には、やはり仕組みを理解する必要があります」
人類が解明する事の出来ない神州丸由来の科学技術は、そう簡単に広められそうにない。
「そう言えば、エーテルコンバータはどういう扱いになっているんだい?」
亘が電力事情について質問する。
迷宮に出現する妨害生物を倒す事で得られるモンスターコア。そのモンスターコアから電力を取り出す装置がエーテルコンバータだ。
エーテルコンバータは現在、世界各地で広く利用されている神州丸の技術だ。
マーシェ(雅絵)がエーテルコンバータが世界的に普及した理由について詳しい説明をする。
「既存のエネルギー産業が神州丸の報復攻撃で大打撃を受けた為、利用せざるを得ない状況になったのです。
世界各国が法律を変えるか一時的に利用可能なように解釈して、エーテルコンバータを受け入れているのが現状です」
神州丸に対して攻撃をして来た国に対し、ナギは報復攻撃を行っている。
その余波で、発電施設だけでなく送電線や上下水道、ガスパイプラインなどの生活に必要な設備が機能しなくなってしまった。
ナギはそれらの国へエーテルコンバータの供与をし、復興に力を貸した。
これは善意からの行動ではなく、エーテルコンバータに入れるモンスターコアを神州丸が握っている以上、こちらに反抗的な態度を取れないようにする為だ。
日本などの報復攻撃の対象になっていない国々も、エネルギー問題が解決するならばという事で、エーテルコンバータを導入している。
「つまり、働き掛ける方法さえ選べば、神州丸の技術を広める事は可能なんじゃないかな?」
「一度世界を更地にするってか?
恨まれてまで世界の技術レベルを上げてやる必要はねぇだろ」
それもそうか、と亘が良光の言葉に頷く。
結局、サクセサー商事を窓口として神州丸の技術を急速に世界へ広めるという案は、形にはならなかった。
「引き続きそれぞれ考えてみよう。
何か良い案や売れそうな商品やサービスがあれば、艦治に連絡するという事で」
「何か世界を裏で操る秘密結社みたいだねー」
恵美が楽し気にそう話す。
「じゃあ皆は秘密結社の初期メンバーだね。
秘密を漏らしたら……、分かってるよね?」
「止めろ、お前が言ったら洒落になんねぇ」
皆でひとしきり笑った後、テスト勉強へ戻るのだった。




