102:打ち明ける
「ねぇ司。司は艦治のどこが好きなの?」
「司さんは何で男装されているんです?」
「あははは……」
艦治が手土産として持って来た洋菓子をお皿に盛り、皆が勉強する応接間に運んで来た良光の姉、輝と、輝にくっ付いて来た妹の彩が司を質問攻めにしている。
まなみも何と返せば良いか分からず、苦笑いを浮かべる事しか出来ない。
「俺らテスト勉強中なんだけど」
「はぁ? あんたらどうせ勉強なんてしなくても良い点取るんでしょ?
それより恋バナ聞かせなさいよ!」
「そーだそーだ!」
良光が何を言っても輝と彩には勝てそうにない。
「えっと、良光の妹さん。
司が男装してるってどういう意味? 司は男なんだが」
亘が心底不思議そうに彩に尋ねる。
「司さんの所作って女性っぽいじゃないですか。見れば分かります」
「所作……?」
亘だけでなく恵美も、彩が何を言っているのか理解出来ずに首を傾げている。
「所作もそうだけど、司が女だと思う根拠は大学で聞いた噂なんだ。
遠隔操作っていう珍しいスキルがあるらしいってのと、付属高校の男子生徒が連れてる人型妖精を、付き合ってる彼女が遠隔操作して騒ぎを起こしたらしいってな」
「あ、おねえ! ネタバレ早過ぎ!!」
彩が正直過ぎる輝に怒る。
輝はそんな彩を適当にあしらいつつ、司に詰め寄る。
「で? 司を操作してる艦治の彼女はどこにいんの?」
≪あーあ、もうこうなったら聞かねぇぞ≫
≪まぁ仕方ないよね。呼んでも大丈夫?≫
≪いや、俺は良いけどまなみさんに聞けよ≫
艦治は良光に断りを入れてから、司へ向き直る。
「まなみ、どうする?」
「うーん、お邪魔じゃなかったら来ても良い?」
「良光は大丈夫だって」
艦治と司のやり取りを見て、望海がため息を吐く。
亘と恵美は引き続き何の事が分からないまま、皆の様子を窺っている。
「お? 彼女呼ぶ?」
「艦治さんの彼女さん、早く来ないと艦治さん盗っちゃいますよー!」
「……それはダメ」
艦治に抱き着こうとしていた彩を、突然現れたまなみが割って入って止める。
「えっ!? いつの間に来たんです!?」
「……黒い壁から出て来たよな?」
輝はまなみがワープゲートから出て来たのを目撃していた。
「えーっと、私は加見里まなみです。突然お邪魔してしまってごめんなさい。
あと、表情と口が上手に動かせないので、遠隔操作で司を通じてお話させてもらいますね」
まなみは司を腹話術のように使って、自分が言いたい事を皆に伝える。
「えーっと、何が起こってるの分からないんだけどー」
「……ちょっとこれは自分の目を疑うね」
驚いている恵美と亘を見て、艦治が何と説明したものかと迷う。
望海も大きくリアクションはしていないが、まさかまなみがワープして来るとは思っていなかったので、驚いた目をまなみに向けている。
「艦治、もう面倒だ。全部話しちまえ」
「……そうだね」
良光の投げやりな提案に、艦治が頷いた。
≪ごめんっ! 彩ちゃんの煽りに乗っちゃった……≫
≪いや、蒼井さんと亘にはいずれ話す事になっただろうし、気にしなくて良いよ≫
≪恵美ちゃんは良いの? 輝ちゃんと彩ちゃんは?≫
≪……何とかなるでしょ≫
恵美にはすでにトカゲ型支援妖精のレウスが付いており、ナギが全ての言動を監視する事が出来る。
輝と彩は良光の家族で、艦治とも旧知の仲だ。悪いようにはならないだろうと判断した。
「んんっ」
艦治は立ち上がり、咳払いして皆の注目を集める。
「ナギ、ちょっと良いかな?」
艦治の言葉を聞いて、皆が艦治の肩に座っている妖精ナギを見つめる。
「失礼致します」
しかし、艦治が呼び掛けたナギは、妖精の方ではなく外交大使の方のナギだった。
まなみと同じようにワープゲートを使って現れた外交大使ナギを目にして、望海と亘と恵美と輝と彩が目を剥く。
「「皆様、改めてまして井尻艦治様にお仕えしております、ナギでございます。
以後お見知りおき下さいませ」」
支援妖精のナギと外交大使のナギが同一人物である事を分かりやすく打ち明けた事で、後の説明がとても簡単になった。
艦治が神州丸と、その母艦である鳳翔の前艦長と同じDNAを持っていた事を伝えると、皆が理解を示した。
「あと、確実に僕が神州丸や鳳翔の艦長なんだって理解出来る方法があるんだけど、体験してみる?」
「何が体験出来るって言うんだい?」
艦治の言葉に、亘が問い返した。
「宇宙遊泳」
「えっ、宇宙遊泳って宇宙服着て宇宙船の外に出るヤツだよね!? 私やりたい!!」
真っ先に彩が手を挙げる。
それに続き、皆も体験出来るものならやってみたいと希望した。
「じゃあ行こうか。宇宙」
ワープゲートを使って鳳翔へ飛び、家事ヒューマノイドが手伝って、宇宙遊泳を希望した皆が宇宙服を着用する。
「ここが神州丸よりも大きな宇宙船の中だって言われてもなぁ」
神州丸のロビーに似た風景を見て、輝が不思議そうに呟く。
「じゃ、行ってらっしゃい」
小型の宇宙船に乗り込む皆を、艦治とまなみが見送る。
≪何でお前は乗らねぇんだ?≫
≪いや、僕らはこの前見たから≫
良光の問い掛けに、艦治が笑顔を浮かべて答える。その隣でまなみがこくこくと頷いている。
≪何企んでるの?≫
≪行けば分かるよー、楽しんでねー≫
疑いの目を向ける望海を、まなみが手を振って見送る。
「「「「「「ぎゃああああああああああーーー!!」」」」」」
木星の渦は、今日も不気味に蠢いているように見えた。




