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超巨大宇宙船が落ちて来てから十八年が経ちました:今日からあなたが艦長です!!  作者: なつのさんち
二〇四七年

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100/166

100:ライブ鑑賞

「……ねぇ、何であの人はノリノリで歌ってんの?

 あんまり上手とは言えないと思うんだけど」


≪おっきなスタジアムだねぇー≫


 支援妖精の視界を意識しながらの組手を終えた後、穂波(ほなみ)真美(まみ)はナギが開いたワープゲートで自宅のマンションへ帰った。

 艦治(かんじ)とまなみは、ナギが元々いた日本の映像が見てみたいという事で、海中秘密基地にて動画鑑賞をしている。


「こちらは三ノ宮家(さんのみやけ)始祖、伊吹(いぶき)様です」


 ナギが二人へ見せる動画として選んだのが、三ノ宮(さんのみや)伊之助(いのすけ)直系の祖先にあたる、伊吹がサッカースタジアムの中心で歌っている映像だった。


≪ふふっ、そんな言い方しないでよ。本人は一生懸命やってたんだよ?≫


 艦治のあまりの言い様に、白雲を遠隔操作している翔太(しょうた)からツッコミが入った。


「え? 翔太さん、もしかしてあの会場にいたんですか?」


≪いや、厳密にはいなかったけどね。ふふっ≫


「翔太様は、伊吹様のお姿を元に作られたアバターで、翔太様の前身となったAI開発を指揮されたのも伊吹様なのです」


 ナギが伊吹に対する詳しい説明を始める。


「伊吹様は二十九歳の時、前世でお亡くなりになって、異世界転生して生まれ変わられました」


「異世界転生?」


「大日本皇国の次期皇太子のご長男としてお生まれになったのですが、母君が訳あって皇居を離れられ、山奥でひっそりとご出産されたのです」


≪大日本皇国?≫


「皇太子……?」


「紆余曲折ありまして、正妻である藍子(あいこ)様と共にVividColors株式会社を通じて、世界中に愛と夢と希望と生きる意味をもたらされたのです」


≪正妻ってどういう事なのかな? そこんとこ詳しく教えてもらわないといけないなぁ≫


「伊吹様がお生まれになった頃、世界の男女比率は男性一に対し、女性が三万という非常に偏った数字になっておりました。

 法律で、男性は最低でも三人の妻を娶るように定められておりました」


「……そうじゃないと人口が維持出来ないって事か。

 僕はまなみさえいれば他に誰もいらないよ」


≪ほんとーかなーーー≫


 まなみは艦治に抱き寄せられ、満更でもないように見える。ただし無表情である事に変わりはないが。


「全ての男性は大事に大事に育てられ、社会に出る事なく一生を終えられる方が多かったのです。

 しかし、伊吹様の前世はこの世界と同じように、男女比一対一の世界でした。

 伊吹様は世の女性を楽しませたい、世界に彩りをもらたしたいとお考えになり、Vtuner(ブイチューナー)として活動を開始されたました」


「Vtunerってどういう事?」


神州丸(しんしゅうまる)が提供しているサービス、YourTunes(ゆあちゅうんず)も|YoungNatterやんなったーも元は伊吹様の世界で発展したものを流用しております。

 伊吹様がYourTunesにて配信活動を始められる際、顔を出さずにアバターを使って配信する、バーチャルYourTuner(ユアチューナー)としてデビューされました」


 その後、ナギは伊吹の活躍を艦治とまなみに説明していく。

 伊吹の活躍があったからこそ、ナギもナミも存在し、神州丸と鳳翔(ほうしょう)が存在するという、歴史の話でもある。


「じゃあこの伊吹さんの子孫が伊之助で、DNA的には僕も子孫であると言えるって事なんだね」


「そう捉えて頂ければ幸いです」


≪伊之助さんの奥さんは久我(くが)莉枝子(りえこ)さん以外にもいっぱいいたの?≫


「いえ、伊之助様の奥様は莉枝子(りえこ)様だけです。

 伊吹様のご活躍のお陰で、早々に地球の男女比は一対一へと改善されましたので」


「ご活躍のお陰って? それはVtunerの活躍の事?」


「そちらの活躍ももちろんですが、伊吹様の子作りでのご活躍が主な要因ですね。

 伊吹様が妻として娶られたのが三十六名。肉体関係を持った人数は数え切れず、その子供も正式に認められた者だけでも千名以上。

 そして、一対三万の比率であるはずの希少な男子が五十名以上お生まれになり、さらにその方々が子作りに励まれてと、減少し続けていた地球人口はようやく盛り返す事となったのです」


「え? 伊吹さんが生まれた頃って地球の人口が少なかったって事?」


「はい。こちらの世界の西暦で言うところの一九一〇年に、ある国が開発したバイオ兵器が世界中に蔓延した結果、多くの男性が死亡したのです。

 それ以降生まれる子供は女子ばかりで、たくさんの国が消滅しました」


「そんな世界でVtunerとして活躍してたんだね。

 いやちょっと待って、皇族なんだよね? 皇太子の長男がそんな事して良いの? その後皇太子になって、それだけじゃなくて……」


「伊吹様は皇太子にはなられませんでした。弟様がおられましたので」


≪って事は、日本で一番偉い人のお兄さんになったって事?≫


「その通りです。大日本皇国の皇王の実兄として、外交でも活躍されておりました」


「そんな偉い人が、何でライブ活動なんてしてるんだ……」


 ナギの説明を聞いた上でも、艦治はいまいち腑に落ちないでいる。


≪ナギ、伊吹さんの奥さんの写真を見せてくれる?≫


「はい。

 こちらが藍子様の妹の燈子(とうこ)様。翔太様などのアバターのイラストを作成されました。

 こちらが美哉(みや)様。伊吹様のご子息を始めてご出産された奥様です。

 こちらが橘香(きっか)様。美哉様と同じく、幼児の頃から伊吹様と共に育った幼馴染でした。

 こちらが智枝(ともえ)様。伊吹様の執事として派遣された、伊吹様の従姉です。

 こちらが真智(まち)ちゃんで……」


「真智ちゃん?」


 伊吹の妻達に対して敬称付きで呼んでいたナギが、ちゃん付けで呼んだ事に引っかかる艦治。


「何でこの人だけちゃん付け? それに真智ちゃんって言うけど白人女性だよね?」


「ええ、真智ちゃんは真智ちゃんですので」


≪うちの方が先に生まれてんねんから真智様やろ! もしくはマチルダ様やろ!!≫


「え、何!?」


≪白雲から女の声がした……≫


 突然口調の変わった白雲を、艦治とまなみが見つめる。


≪ハハハ、ごめんね驚かせちゃって。ちょっと妹がイタズラしちゃったんだ。

 気にしないでくれると助かるよ≫


 翔太の声に戻った白雲が、小さく頭を下げて見せる。


「はぁ……」


≪……ナギとナミ以外の女はダメだよ≫


≪ごめんごめん。

 それより、伊之助と莉枝子の結婚披露宴を見せてあげるよ≫


 翔太が伊吹のライブ映像から結婚披露宴へと切り替えると、まなみの機嫌は元に戻ったのだった。

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