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13/22

彼女の全てを受け入れた日

オレは気づいていた。


義理の兄が来訪すると知り、妻が怯えたことを。


だが、なぜ彼女がそこまで震えているのか――この時のオレには、まだ分からなかった。


冷たい朝の光が、木の廊下を照らしていた。


髪に触れる妻の手がわずかに震えていたが、

オレはそれを「体調が優れないのだろう」としか思わなかった。


無理をしてでも、笑おうとしていた。


その笑顔の意味を、オレはまだ知らなかった。



朝の食堂には、柔らかな光が差し込んでいた。


香り高い茶が湯気を立て、銀の器にはりんごの砂糖漬けが並ぶ。


普段と何も変わらぬ朝――のはずだった。


「遅くなりました」

静かな声が扉の向こうから響く。


振り向いたオレは、息を呑んだ。


目の前に現れたのは、2ヶ月前に政略で結ばれた妻。


白いドレスに、淡い紫の刺繍。


高く結い上げた金の髪に、ピンクの飾り櫛が光っていた。


それは、オレが贈ったものだった。


ーーピンク色も似合う。


まるで、最初の夜のように美しかった。


・・・いや、あの時よりもずっと美しく見えた。


もっと、彼女を褒めてあげたい。


けれど、上手に言えない。


「身体は大丈夫か」

ようやくそれだけ言葉にした。


「大丈夫です。ご心配をおかけしました」

微笑んだ唇が、少しだけ震えていた。


何かを隠している――そう思った。


しかし、その時、家臣が駆け込んできた。


「ゼンシ様、到着されました!」


オレは小さく息を吐く。


今日は、妻シリの実の兄――ミンスタ領の領主ゼンシがこの小さなレーク城に来訪する日だった。


あの強大な領の長が、わざわざこの貧しい辺境まで足を運ぶ。


城中の者たちは朝から慌ただしく、食堂も玄関も緊張の空気に包まれていた。


シリの体調は気がかりだった。


だが、今はそればかりを案じている余裕はない。


領主として、夫として、まずはこの訪問を乗り切らねばならなかった。



扉が開き、重い足音が響いた。


黄金色の髪、鋭い青の瞳。


ーーさすが、シリの兄上だ。


似ている。


容姿だけではなく、雰囲気も。


堂々たるその姿に、周囲の空気が張り詰める。


「義兄上、お待ちしておりました」

オレは深く頭を下げた。


その背後で、衣擦れの音がする。

視線を向けると、シリが一歩前に出ていた。


どこか怯えを押し隠すように、微笑んでいた。


「兄上・・・お久しゅうございます」

かすかに震える声。


その声を聞いた瞬間、胸の奥で何かが引っかかった。


だが、それが何なのか、まだ分からない。


ゼンシ様は静かに歩み寄り、シリの前で足を止めた。


じっと、シリを見つめ、長い沈黙。


「・・・髪は、下ろした方が似合う」

そう囁いた彼の声が、異様に低く響いた。


その瞬間、シリの肩がわずかに震えた。


オレはただ見つめることしかできなかった。


目の前で交わされる兄妹の距離が、なぜか不自然に近く感じた。


「青色が似合う」

ゼンシ様は、シリの飾り櫛に一瞥をくれた。


その指先が、まるで頬に触れるかのように動く。


不快なざらつきが胸に広がる。


だが、立場上、口を挟むわけにもいかない。


「・・・後で話そう」

ゼンシ様はそれだけ言い残し、視線をオレに戻した。


「グユウ、元気にしていたか?」


オレは頷いた。


彼の眼差しには、何かを計算しているような冷ややかさが宿っていた。


その時、ふと気づく。


シリの瞳が、わずかに潤んでいることに。


けれど、それが恐怖なのか、悲しみなのか、愛情なのか――オレには、まだ分からなかった。




ゼンシ様が到着してから、重臣たちを集めて会議が開かれた。


会議と言っても、実質はゼンシ様が一方的に予定を伝えるだけだ。


「これから国王陛下に挨拶へ向かう。そのために街道を開放してほしい。

それと、道中の宿の手配を頼む。さらに、物資の一部をミンスタ領に預けてほしい」


その声には、命令とも取れる威圧があった。


ーー誰も逆らえない。


シリが嫁いだことで名目上は“同盟”になっている。


だが実際は“臣下”に近い形だった。


夕食のあと、ゼンシ様がふいに言った。


「明日の朝、シリと二人きりで積もる話をしたい」


まるで、シリが自分の戦利品であるかのような言い方だった。


その言葉に、胸の奥がざらつく。


だが、それを顔に出すわけにはいかない。


「二人でゆっくり話せる部屋の提供を頼む」


そう告げるときの顔つきも、命令を下すようなものだった。


ーー逆らうことなどできない。


オレは黙って頷き、重臣のジムを呼び寄せる。


「シリに伝えてきてくれ」


ジムが去ったあとも、しばらく席を立てなかった。


手の中のカップの中身――リンゴジュースは、すっかりぬるくなっていた。


それでも、口をつける気にはなれなかった。


甘い香りが、やけに胸に重かった。



その夜は、ゼンシ様のもてなしに追われ、シリの顔を見ることができなかった。


ーー普段なら、シリの顔を見つめ、艶やかな髪を撫で、その身体を寄せることができるのに。


ゼンシ様の準備に追われ、もう三日もシリと夜を過ごしていない。


翌朝、鍛錬場へ向かう途中、ふと視線の先にシリの姿を見かけた。


長い金色の髪を風になびかせ、青のドレスに身を包んでいる。


背筋を伸ばしたその姿は、まるで戦へ向かう戦士のようだった。


その時、オレは初めて思った。


――シリは、何かを隠している。


だが、それが何なのかに気づくのは、ほんの数刻後のことだった。



レーク城のホールには、朝だというのに人が慌ただしく行き交っていた。


ゼンシ様が突然、「今すぐ帰る」と言い出したのだ。


昨夜、遅くまで宴を開いていたミンスタの家臣たちは、まだ寝ぼけ眼で騒ぎの理由を掴めずにいる。


誰かが小声でつぶやいた。


「なんで、こんなに早く・・・?」


オレも同じ疑問を抱いていた。


ーーなぜ、ゼンシ様はこんなにも落ち着かない様子で帰ろうとしているのか。


「義兄上、もうお帰りですか?」

戸惑いを隠しきれずに声をかける。


ゼンシ様は一瞬だけオレの目を見た。


その視線には、かすかな焦りが宿っていたが――次の瞬間には、いつもの威圧的な笑みを浮かべていた。


「急用ができてな。早々に戻ることにした」


「せめて朝食だけでも・・・」

言いかけたが、その横に、青いドレスのシリが静かに入ってきた。


髪を下ろし、どこか張りつめた笑顔を浮かべている。


「兄上・・・お気をつけてお帰りください」

まるで、舞台の上で台詞を読み上げるかのような声だった。


オレはその笑顔に違和感を覚えた。


けれど、人前で口を挟むわけにはいかない。


ゼンシ様は軽く手を上げただけで、

「世話になった。――また逢おう」

それだけを言い残し、早足でホールを出て行った。


まるで、何かから逃げるように。


しばらく誰も言葉を発せず、

宴の後のような、重たい空気だけが城内を満たした。


オレは城で働く者たちに感謝の言葉をかけ、準備に奔走してくれたことを労った。


その姿を、少し離れた場所からシリが見つめていたのを、オレは気づかなかった。


ほんの三十分前まで、何が起きていたのか。


オレはまだ、何も知らなかった。



家臣たちは安堵の息をつき、侍女たちはようやく緊張から解き放たれたような顔をしている。


だが、オレの胸には重いものが残っていた。


――なぜ、義兄上はあんなにも急いで帰ったのか。

なぜ、シリはあの笑顔を浮かべていたのか。


考えても答えは出ない。


胸の奥がざわつくのを感じていた。


そこへ、重臣ジムが駆け込んできた。

息を切らし、顔は血の気を失っている。


「・・・グユウ様」

低い声で呼ばれた瞬間、胸騒ぎが走った。


「何かあったのか」


「・・・シリ様が、東側の部屋で・・・」

ジムは一瞬、言葉を飲み込み、震える指で一枚の羊皮紙を差し出した。


手に取ると、そこには短い文が並んでいた。


粗い筆致で、ところどころににじんだインク。


読み進めるうち、呼吸が浅くなっていく。


――ゼンシ様、シリ様に接近し、口づけを試みる。

――シリ様、ナイフを手に取り、自らの首に当てる。

――両者、言葉を交わし、最後は和解に至る。


たった三行。

けれど、その背後にどれほどの恐怖と絶望があったのか、想像するだけで胸が焼けた。


「・・・これは」

声にならなかった。


ジムの顔が歪む。


「シリ様のご指示で、記録を残しました。・・・隠し部屋から、すべて見届けました」


その言葉に、手が震えた。


「・・・これが、すべてか」

オレの声がかすれる。


ジムは逡巡ののち、もう一通を取り出した。


「・・・下書きがございます。そこに詳しく・・・書いております」


オレは受け取った下書きを震える手で開く。


そのすべてが、あの場にあった真実を物語っていた。


報告書を丁寧に畳み、胸の内ポケットにしまう。


そして、最初の一枚を握りしめ、くしゃりと丸めた。


「・・・誰にも言うな」

短くそう告げると、ジムは深く頭を下げた。


手の中の紙は、汗でしっとりと湿っていた。


その重みは――シリが抱えた秘密の重さそのものだった。


「シリ様は・・・死ぬ覚悟があったと思います」

ジムの声が遠くに聞こえた。


「シリはどこだ」

立ち上がった瞬間、椅子が倒れる音がした。


「外へ出かけたのをお見かけしました」


その言葉を聞いた瞬間、オレの身体は勝手に動いていた。


廊下を駆け抜け、階段を降り、玄関を飛び出した。


ただ、シリの元へ。



息を切らせ馬場に着いた時、風が静まり、空気が澄んでいた。


陽光に包まれて、シリが立っていた。


青いドレスの裾が風に揺れ、金色の髪が朝の光に溶けていく。


その姿は――戦場に立つ兵のようだった。


「シリ」

声をかけると、彼女がゆっくりと振り向いた。


「・・・グユウさん」

その声が震えていた。


「オレに話したいことはないか」

息を整えながら、静かに問いかけた。


長い沈黙。


「シリ・・・その・・・ゼンシ様とは・・・」

その先の質問を、オレはできなかった。


うつむいたままの彼女に伝えた。


「シリ、隠すな。オレに甘えてくれ。それが何より嬉しい」


彼女は目を閉じ、わずかに頷いた。


「嫁ぐ二日前、兄に・・・」

その先の言葉は、風にかき消された。


オレは何も言わなかった。


ただ、彼女の顔を見ていた。


泣きそうな瞳。


けれど、必死に立ち続ける強さ。


「シリ、死ぬつもりだったのか」

「はい」


「なぜ」

「兄上にまた奪われるくらいなら、死んだ方がましです」


その答えに、胸が締めつけられた。


沈黙の中で、風が二人の間を通り抜けていく。


「シリ・・・」

オレはゆっくりと彼女に近づいた。


「もういい。隠さなくていい」

オレはシリの肩に触れようとした。


「優しくしないでください」

シリはオレの手を払いのけた。


シリはオレ瞳を真っ直ぐに見つめる。


ーーなぜ?


どうして?


疑問が胸につく。


「優しくしないでください」

震える声でシリは、もう一度伝えた。


その瞳は、傷つき、震えている。


拒絶するような仕草に胸が痛む。


「妊娠しています」

シリが震える声で告げた。


「2月には子が生まれます」

声が掠れている。


オレは言葉を失い、ただその瞳を見つめた。


ーー子供?


シリに子が宿ったのか?


次の瞬間、彼女の声が馬場の空気を引き裂いた。


「あなたの子かもしれません。・・・兄の子かもしれません」


膝をつき、地面に手をついたシリは嗚咽を漏らした。


その彼女を、オレは抱きとめ、手を握る。


「シリ、オレは、嬉しい」


「・・・どうして? 父親はわからないのに」

涙に濡れて俯く彼女に、オレは少し笑って答えた。


「オレの子かもしれない」

「でも・・・!」


「回数なら、オレの方が多い」


シリは呆れたように目を瞬かせた。


「シリが産めば、それでいい。どんな子でも、オレの子だ」


その時、初めて彼女が顔を上げた。


「子供はシリに似てほしい」

オレはシリの顔を見て伝える。


「きっと可愛いはずだ」


ーーシリのお腹に子がいる。


その事実は、喜びをオレに与えてくれた。


普段、錆びついて動かない顔が、喜びで崩れた。


オレの顔を見て、シリは小さくつぶやいた。


「・・・そんなふうに、笑うんですね」


ーー笑った顔を誰かに見せるのは初めてだ。


オレを変えてくれた人が目の前にいる。


その彼女の頬に触れた。


涙が、指の上に落ちる。


「口づけしたい。いいか」


「・・・どうして聞くの」


「お腹の子に・・・悪いかと思って」


その言葉に、彼女は笑った。


「大丈夫ですよ。私は一週間前まで馬に乗っていました」


唇を寄せる。


触れた瞬間、世界が溶けていった。


長い口づけのあと、オレは彼女を抱きしめた。


「生きていていれば、それでいい」

「・・・はい」



「城に戻ろう」

「お腹、空きました?」

「あぁ」


自然に、彼女の手を取った。


「大丈夫です、一人で歩けます」

「・・・危ないだろう」


シリは小さく笑い、オレの手を握り返した。


城へ戻る道、陽が高く昇っていく。


シリの言葉を聞きながら、胸の奥で何かが静かに崩れ落ちていった。


シリを傷つけたゼンシ様への怒りは確かにある。


だが、それ以上に――シリが生きていることが、何よりの救いだった。


この世で、こんなふうに想えた女は他にいない。


過去に何があってもいい。


子の父がオレでなくてもいい。


それでも、この人を守りたいと思った。


シリを包むその光の中で、オレは心の底から思った。


――この手を、もう離さない。



城の玄関前で立ち尽くしていたジムは、オレたちの姿を見て安堵の表情を浮かべ、迎えに出た。


「昼食の用意ができています」


昼食はゼンシ訪問のために頑張ってくれた家臣達、侍女、女中、馬丁、城中の者を集めて労を労った。


気さくな雰囲気の中、皆が笑い、食べ、飲み、語った。


ふと、静寂が訪れる。


自分が立ち上がったからだ。


「皆に知らせたいことがある」


数十の視線が一斉にこちらを向いた。

喉が少し乾いた。

だが、伝えるべきことは一つだけ。


「シリに子ができた。来年の二月に産まれる」


一瞬、場が凍りつく。


次の瞬間、歓声が湧き上がった。


ジムは一瞬にして若返ったようだった。


「グユウ様、本当ですか」


「あぁ、本当だ。医者に診てもらった」

オレはシリを横目で見る。


シリが照れたように顔を伏せ、こほんと咳をした。


「・・・そうです」

それだけ言って、小さくうなずいた。


オレはその姿を見つめながら、静かに息を吐いた。


シリが、少し顔を上げてこちらを見た。


頬が赤く、目の縁が濡れている。


その愛おしい顔を見ると、微笑みが自然にこぼれた。


錆びついた心が、ようやく動いたような気がした。


「どうして、こんなに早く発表したのですか」

シリは思わず唇を尖らす。


シリの可愛い文句に、オレは目を細めて告げた。


「喜ばしい事は皆に早めに伝えるべきだ」


その瞬間、シリの顔は嬉しさでほころんだ。


「シリ、二月が楽しみだ」

オレの声は弾んでいた。


――彼女が生きていてくれる。


それだけでいい。


この命を賭けても、オレはこの笑顔を守る。



宴が終わり、開け放たれた寝室の窓から、夏の夜のさざめきが静かに流れ込んでいた。


遠くでは宴の余韻が残り、時折、笑い声や話し声が風に乗って届く。


窓辺に立つシリの背に、オレは、ためらいながら声をかけた。


「シリ・・」


振り返った横顔は、どこか遠くを見ているようで、胸が締めつけられる。


「いろいろあると思うが、ワスト領はゼンシ様に協力する」


「ありがとうございます」

シリは力強く頷いた。


「ミンスタ領とワスト領の架け橋になる。それが、私の役目です」


その言葉を聞きながら、オレは静かに言葉を重ねた。


「ゼンシ様は、素晴らしい領主だ」


その瞬間、シリの表情が歪む。


「領主としては、素晴らしい人です」

その声には硬さがあり、凍るような痛みがにじんでいた。


オレはそっと背後から彼女を抱き寄せた。


「シリが・・・あのまま命を絶っていたらと思うと、怖かった」

喉が熱くなり、言葉が掠れた。


「オレは、シリが生きていてくれるだけでいい。何もいらない」


シリがゆっくりと振り向く。


その瞳には、憤りと悲しみが交錯していた。


「・・・私は、気にします」


「兄は衝動的に私に手を出しただけです。

家臣の妹や乳母にも・・・私も同じように見られていたんでしょう」


「それはない」

オレはかぶりを振った。


「結婚の話を聞いた時から、ゼンシ様はシリを大切にしていると感じていた」


シリはその言葉に、思わずオレの腕を振り払った。


「どうしてそんなに落ち着いていられるのですか?

私のことが好きなら・・・兄上のこと、憎くないのですか?」


胸が痛む。

それでも、落ち着いて答える。


「もちろん、面白くはない」

「嫁入り前にゼンシ様が行なったことには、憤りを感じている」


「だったら・・・なぜ?」

シリの声音は激しく鋭かった。


オレは、ズボンのポケットから羊皮紙を取り出した。


「ジムの記録だ」


シリの表情が固まる。


「この記録を読んで、オレは気づいたんだ」


シリが不思議そうな顔で、オレを見つめる。


「これは・・・シリからの恋文のように感じた」


「えっ・・・」

シリが驚いた表情をした。


「この中でシリは、オレのことを何度も語っている。

『結婚できて幸せ』『あの人のような方は他にいない』・・・そう書かれていた」


彼女は顔を伏せ、小さく肩を震わせた。


その姿に、たまらない愛しさが込み上げた。


「シリが今、オレを好いているのなら、何も問題はない」

オレは静かに言った。


「シリ」

名を呼ぶと、彼女がゆっくり顔を上げた。


外では風が湖面を渡り、カーテンの裾を揺らした。

その音が、二人の間の沈黙を優しく埋めていく


彼女の瞳は濡れて、月の光を宿していた。


「・・・私は、あなたを・・・好いています」

震える声で、シリは告げた。


「オレも、だ」


その瞬間、夜がほどけるように静まり返った。


重なり合った手が、互いの鼓動を確かめる。


月明かりの中で、二人の唇は静かに重なった。


――政略で結ばれた夫婦は、もはや政略ではない。


秘密も過去も、すべてを受け入れて、ただ「今」を生きる。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


この短編は『秘密を抱えた政略結婚』本編のスピンオフで、

グユウ視点によるエピソード(第12作目)です。


短編だけでもお楽しみいただけますが、

本編を読むと二人のすれ違いや政略の背景がより深く伝わります。


▼シリーズ本編

**『秘密を抱えた政略結婚 〜兄に逆らえず嫁いだ私と、無愛想な夫の城で始まる物語〜』**

https://book1.adouzi.eu.org/n2799jo/

<完結>


**『秘密を抱えた政略結婚2 〜娘を守るために、仕方なく妾持ちの領主に嫁ぎました〜』**

https://book1.adouzi.eu.org/n0514kj/

<完結>


そして現在、

その娘・ユウを主人公とした第3部を連載中です。


**『秘密を抱えた政略結婚 ―血に刻まれた静かな復讐 禁断の恋が運命を変える―』**

https://book1.adouzi.eu.org/n9067la/

<連載中>


血に抗い、恋に揺れながら――

彼女たちはそれぞれの愛を選んでいきます。





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