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魔将軍とニーゴへ

私達はニーゴの町の隣町、バウンスまで転移門を使って飛びました。


サバテューニ様とラヴァ様は近衛護衛ですから基本、王族付ですが…何故か第二騎士団に随行ということで私達とご一緒です。


「無理言ってすまないな、レンブロから聞いているよ。ヴェルヘイム=デッケルハイン閣下」


そう言って第二騎士団の集団からこちらに歩いて来られる方がいらっしゃいます。


わわっ!こんな近くでお見かけするのは初めてですよ!いつもは国王陛下のお傍にいらっしゃいますしね~デカくて眩しい生き物の襲来に私はたじろぎました。ヴェル君も非常に眩しそうにしています。


「ルーブルリヒト=ダヴルッティだ。近衛騎士団の隊長を拝している、宜しく頼む」


きゃあああ!うわーっカッコいい!まるでハリウッド俳優を間近で見たかのような感動を覚えます。イケメンは全世界(異世界を含む)を圧巻する生き物ですね!人類共通の世界遺産ですねっ!


はっっちょっと待って!


このイケメン空間に私…とてつもなく浮いてない?


右はヴェル君、左はサバテューニ様、後ろはなかなかなイケメンのラヴァ様、そして正面に眩しいイケメン、ダヴルッティ隊長。


サーロインステーキの中にウインナーが混ざっているみたいになってない?


「カデリーナ姫も…え~とこうして直にお話させて貰うのは初めてかな?宜しく」


「はぁいぃぃ宜しくお願いしますぅ!」


ダヴルッティ隊長に微笑みかけられて目が潰れそうです。瞬きの回数がすごいです。おもわずヴェル君を見ます。ヴェル君も眩しそう…


バウンスの町から第二騎士団が騎士団長の指示で、複数ある街道を散開しながらニーゴの町を目指します。ヴェル君は手に術式を書いた紙を開けました。フワワッと淡い光が溢れ、フサッと何かが浮かび上がります。


「うわっ!かっけぇぇ!」


ええ、ラヴァ様のお言葉通りです。ヴェル君の肩には術式から飛び出してきた鷹が悠然と止まっております。


「上から偵察させて来ます。異変があれば知らせますので」


ヴェル君は鷹を大空へ放ちました。鷹は上空へ舞い上がって行きます。


「あれはどのくらいまで目が届く?」


ダヴルッティ隊長が鷹を目で追いながら聞かれました。


「私の術が届く範囲で…隣の国までなら…」


やっぱりヴェル君は規格外です。ダヴルッティ隊長はニヤリと笑いました。あぁ~この笑い方、腹黒兄弟のお兄様なんだなぁ~と改めて思います。


「いいな…うん、予想以上だ。デッケルハイン閣下はいいな」


ヴェル君は渋い顔をして


「もう将軍職を罷免されています」


と呟きました。するとダヴルッティ隊長は


「じゃあ俺もレンブロ達の真似をしてヴェルて呼んじゃお、いいよな?」


とヴェル君に聞かれました。この距離の詰め方フィリー王子に似てますね。ヴェル君はコクリと頷かれています。


私達は賊を追う訳ではありませんので、一番大きな街道を歩いて行きます。先頭はダヴルッティ隊長とヴェル君、真ん中に私、しんがりがサバテューニ様とラヴァ様。


私が皆様に守られる形なのは仕方ありませんが…足手まとい感すごくないっ!?いえ、実際足手まといの何物でもないけれども…


「カデちゃん疲れてない?おぶろうか?」


ひぇぇ!またおんぶなの?ヴェル君はすっかり過保護ですよ。


「やめてよヴェル君!確かに体力は虫のようにありませんが、隣町くらい歩けますよっ!」


「なんだ?カデリーナ姫は体力ないの?」


ダヴルッティ隊長にお顔を覗き込まれます。不名誉です、本当に不名誉ですよ…


「体力無いならほら…ここに来る前にロージから朝の鍛錬で走り込みをしたいって要望があったから…その走り込みに混ぜてもらったら?」


ダヴルッティ隊長はいとも簡単にそう言い切りました。


な、なんだってぇぇ!?いくらなんでも本職?の近衛の方々に混じって走れるわけないでしょうよっ!


「やめて下さいよっ!あれでしょ?鍛錬場の中を何往復かするのでしょう?絶対っ私一人、周回遅れになってでっかい近衛の方に踏みつけられてお終いですものっ!冗談じゃありませんよっ!」


「踏みつけ…」


「お終い…」


男性陣全員吹き出しました。ゲラゲラ笑ってます。あのヴェル君まで声を上げて笑っています。


「何を笑っているのですか?私は本気ですよっ!皆様のような反射神経の塊のような方々には、理解出来ないかもしれませんが、気持ちは付いていけるのに体が重いってどれほど屈辱か分からないのですよぉ!先ほどカークテリア君も申していましたが、魔獣に遭遇しても、戦う前に転んで死んでしまうような体力のなさなのですよっもうぅ!」


私は興奮して捲し立てましたが皆様、益々笑うばかり…ホント屈辱だから…許さんぞっ大年寄は根に持つぞぉぉ…ヴェル君が笑いながら頭を撫でてくれますが許しませんよ、しばらくお菓子抜きじゃぁぁ。


「隊長…」


「うん、ヴェルの『目』には見えてるか?」


「はい。8人ほどです」


「了解」


急に笑いを引っ込め、そのやり取りをしてから、ヴェル君とダヴルッティ隊長は左右に一瞬で散って見えなくなりました。前方に僅かですが魔力の煌めきがあります。もしかすると戦闘中かもしれません。


「どなたかと戦っているのでしょうか?」


「姫様、見えるんですか?」


「かなり前方ですが複数人の方の魔力波形が見えます。魔力の揺らめきの加減から、通常時より多くの魔力が放出されているようですね…」


ラヴァ様がびっくりしたように私を見ています。


「運動神経鈍くても、見えるっんすね」


ちょっちょーいぃ!一言余計ですよ!ラヴァ様っ。その時、草陰から誰かが出て来ました。よく探れば殺気は感じますが、魔力は微量なので気づくのが遅れました。ラヴァ様もサバテューニ様も驚いているようです。


そしてもっと驚いてしまったのが…


「「ヴェル!」」


ヴェル君?いえ…これは、体格が違う。魔力も全然違う。


「偽物です!」


私の鋭い声にラヴァ様とサバテューニ様が抜刀しました。サバテューニ様はすごかったです。一歩で偽ヴェル君の懐に飛び込むと横になぎ払いました。


「ぐあはぁぁ…」


偽ヴェル君は叫び声を上げて倒れかかりましたが踏みとどまりました。


「俺を…誰だと思っているっ魔将軍だぞっ!」


「ヴェルが…俺の踏み込みをかわせない訳ないじゃないかっ!」


サバテューニ様が2撃目を加えようとしました。そこへブワッと本物のヴェル君が戻って来ました。


「!」


偽物のヴェル君、おそらくカーク=ライナイズさん…は驚くほどの無表情です。そう…お面つけているみたいです。


「いつまでも俺の真似をして何がしたいんだ?」


ヴェル君は憤怒の表情です。偽物は反対に無表情です。怖い…でもあることに気が付きました。そう、幻視の術の術式に関する注意です。術者の()()()()()()()()しか再現出来ない…ということです。この幻視の術、術者はロブロバリント魔術師団長です。彼が記憶しているヴェル君の表情が無表情と言う訳ではないでしょうか…昔のヴェル君…想像に難くありません。きっと表情を無くすほどお辛かったのでしょう…


「真似?ラブランカ王女殿下は俺をヴェルヘイムと呼ぶぜ?」


「だ…だったら何だって言うのですか!そうしたら、ラブランカ王女殿下にくっついときゃいいじゃないですかっ!」


そう叫んだ私をギロリと偽ヴェルが見ました。本物のヴェル君が背中に庇ってくれます。


「ふはは…もう知らねぇよ…あんな女…婚姻するのを止めに来い…とかわけ分からんこと言うし…もう死んでると思ってた本物のヴェルヘイムは生きてるとか手紙寄越して来るし…もう知らん…」


てっ?手紙を誰が…?


「もしかして母上の手紙かな?」


と言ってヴェル君が私を見ます。ああ!時期的に見てそうですね。早くロブロバリント様に届けたくて超特急で配達を頼んでしまいました。当の本人、ロブロバリント様は行き違いでカステカートにおりますし、この偽ヴェル君が代わりに見ていても不思議はありません。


お腹を押さえた偽ヴェル君をサバテューニ様とラヴァ様が押さえつけます。そしてヒョコッとダヴルッティ隊長が戻って来ました。


「あっちに居る残党も、こいつの仲間かな?これが噂の偽物?全然似てないな?」


するとそう言われた偽ヴェル君が顔を上げ隊長を見ました。顔は無表情ですが…


「これはヴェルヘイム=デッケルハインを完璧に模して施した術式だ!」


声はめっちゃ怒っています。本当にお面つけているみたいです。…ホラーです。


するとラヴァ様とサバテューニ様が半笑いで偽ヴェル君を見下しました。


「本物のヴェルはすぐ真っ赤になるしぃ、ムキになって怒るしぃ表情豊かだぜ?」


「それに妄そ…ごほん…思慮深いし、粗野ではないしね」


ダヴルッティ隊長が偽ヴェル君の前に立ちました。キラキラしています、怒りで…魔力すごい。


「鏡を見てみろよ?そんな不自然な人形みたいな顔の人間いるかよ?最初から偽物ぶち上げるなんて計画がすでに穴だらけなんだよっ。このドアホがっ」


く…口の悪い方だったのですね。イメージが壊れるとか言う訳ではありませんが…王子様キャラは外見だけだったようです。本物の王子様は私の理想には程遠い…がっくり。


それからは怒涛のように時間が過ぎました。ニーゴの町で偽ヴェル君に襲われた人達を治療しましたが、最初本物ヴェル君を見た住民の皆様が怖がっていました。ですが偽物はあの能面顔ですしね。不自然なことは襲われた方々も分かっていたようですぐに本物のヴェル君に馴染んでくれました。


「とりあえず、治療の必要な人は粗方片付いたかな?」


ダヴルッティ隊長は治療院で小さな女の子と遊びながらそう言いました。その声を合図に私達は撤収の準備を始めました。


偽ヴェル君は治療術士のおじいさんを襲った時に「ヴェルヘイムはどこだ!」と聞いていたそうです。


やっぱりオリアナ様のお手紙を見て、ヴェル君が治療術士に助けられたと知り…とりあえずエーマントから逃げている途中で目に入った術士のおじいさんを襲ったようです。短絡的すぎて呆れます。


私達は術士のおじいさんの代わりにニーゴに来てくれる術士の手配をして、3日ほど滞在してから町を出ました。街道をのんびり歩きながら帰ります。


「ヴェルくんよ」


「はい」


しばらく雑談をしていたダヴルッティ隊長が改まってヴェル君に声をかけました。


この3日ほどでこの隊長さんの性格も大分、分かりました。いい加減に見えてすごい切れ者です。だからなのかな…とか。自分から王位継承権を放棄したのも、自分が出来過ぎるからその席からわざと降りたのかな、とかちょっと思います。


実は少し聞いてみたのですよ。主語は言わずに…


「私も…殿下と同じ放棄した身ですけど…惜しくありませんか?」


って…そうしたら隊長さんこう言いました。


「影で暗躍するのが楽しいんじゃないのさ」


ですって…


多分、ルーイドリヒト王太子殿下に明るい所を背負わせる代わりに…暗い部分をすべて背負ってあげるつもりじゃないかな…とかやっぱり兄弟想いですね!


「ヴェルはどうしたい?俺はヴェルには是非とも、俺に付いて来て欲しいけどね」


「近衛に…ということですか?」


「ん~そうじゃないんだな。えっともう言っちゃおっかな…まだ検討中だけど、俺の指揮下で第三騎士団起ち上げよっかって話になってんの」


「マジっすかっ!?」


「隊長っ近衛を辞められるのですかっ?」


「こらこらっ話は最後まで聞くっ」


ラヴァ様とサバテューニ様が噛みつくとダヴルッティ隊長は皆を見回してこう言いました。


「ここにいる皆で第三騎士団作っちゃお?どう?」


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