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魔将軍とデート?

朝、何も知らないルラッテさんが起きていらしたので、オリアナ様は昨日のことで疲れていらっしゃるから、お呼びがあるまで寝かせて上げましょうね!と力説させて頂きました。


「ですが…」


「大丈夫ですよ、起きられたらインタホンで呼ばれると思うし」


このお屋敷には私が開発した魔道具が多々あります。


そのうちの一つに『インタホン』があります。各部屋と玄関とお風呂、キッチンに送受信魔石を置いています。お風呂に置いているのは何故かというと、おひとり様対策です。実はこの魔石、お風呂に置いているのは緊急送信が付いているもので…万が一お風呂で一人寂しく具合が悪くなった時に、ヴィオお姉様にSOSを出せるようにしてあります。今はヴェル君達が居るので安心ですね。


「ルラッテ、カデちゃん、おはよ」


さっきまで一緒に居たのに白々しくも、ヴェル君はそう言ってキッチンを覗き込みました。


「おはようございます、ぼっちゃま」


「おはようございます、ヴェル君」


「ジーニアスとレンブロもう帰るって…」


あら?もうですか…私はヴェル君と一緒に玄関ホールに向かいました。お二人が居ますね。ラヴァ様は元気そうですが、サバテューニ様は寝不足かしら?ちょっと魔力が濁っていますね。


「姫様、今日はこれで失礼させて頂きます」


サバテューニ様は美しい拝礼をされました。朝からお美しくていらっしゃる。そんなサバテューニ様の後頭部を、ラヴァ様は平手でバチンと叩かれました。


「姫様の朝食すんげっ食べたいんですけど、レンブロが連勤で自分だけ朝食食べれないのは、不公平だとかなんとか抜かしやがっから…俺は、午前休みなんすけど…ばーちゃんのとこ行ってきますから~」


サバテューニ様…お美しいのに我儘ボーイですね…了解です。


「俺、今日城に行く予定だから…後で騎士の詰所に顔出すよ」


あれなんと?ヴェル君今日、お城に行くの?


「カデちゃんも一緒に来る?アチコチ回るけど…」


「は、はい!是非ご一緒に」


気のせいでしょうか…。礼をしてお帰りになられるお二人から、すごく生温かい目で見られているのですが…


とりあえず、朝食です。


トマトと具だくさんスープとモロンとモルのバター蒸し、昨日の残りのきのこクリームの具に、チーズを絡めてディップにしたものを食パン乗せてみました。そして朝焼いたロールパン。私とルラッテさんはスムージを追加。デザートはカラメルプリンとプレーンクッキーです。


「姫様、お洗濯はしておきますので」


「はい、宜しくお願いします」


ルラッテさんと午後の打合せ(主に家事仕事)をして一日の段取りを確認してから、センタクハコの使い方をマスターしたルラッテさんはお洗濯へ。私はお昼の下ごしらえを。優秀なメイドは段取りがすべてです。


…あら?私、元王女殿下でしたっけ…


「お待たせしました、ヴェル君」


ヴェル君は自室で魔法陣やら、魔石とか何やら作業しておられたようです。あ、そうだ!


「ヴェル君ヴェル君、もし魔道具とか術式の研究するのなら、2階の作業室使って下さいませ」


「作業室?2階にそんな部屋あるの?」


そう我が屋敷にはお2階がございます。大きく間取りを取りました「作業室」と「薬剤室」の二部屋です。後は備蓄倉庫にしていますがどちらも『ユタカンテ商会』の商品開発には欠かせないお部屋なのです。


「はい、防音、防臭、それに衝撃、魔力消術を盛り込んだ完璧な魔道具制作部屋に仕上がっております」


早速、お2階へ案内します。実は隠し階段にしてあります。


色々ユタカンテの企業秘密がありますので、防犯も兼ねております。何気ない物置を装った古い扉ですが、私が許可した者しか通せないようにしていましたが、今日からヴェル君も許可しますね。


「わ…広い。いっぱいある…」


2階に上がり、右側の扉を開け作業室に入るとヴェル君は魔道具の制作道具に飛びつきました。まるで子供の用に触ってはいじり、見つけては観察をしております。


「ヴェル君、またいつでも使えますからね、今日はお出かけですよぉ~」


そういうとヴェル君は慌てて戻って来ました。


「隣は何の部屋?」


「隣は薬剤室です。主に化粧品の材料になる薬草や花々を栽培、備蓄しています」


「見たい」


「今日はお出かけですよぉ~」


「……はい」


私達はルラッテさんに声をかけて、外へ出ました。そうだ、すっかり忘れていましたが…


「ちょっとヴェル君、ここで少し待っていて下さい。忘れ物したので!すぐ戻ります!」


私は小走りに(鈍足ですが)家へと戻り、2階の作業室から目的の物を取り出すと急いで(鈍足ですが)戻りました。


「はぁ…ぜぃ…すみ…ません。おまたせ…ひぃ…しました」


私があまりにも息を切らしているので、ヴェル君は心配になったようです。


「カ…カデちゃん…疲れてる?おぶって行こうか?」


「お、おんぶなんて!乙女寿命がまた削られるじゃないですか、絶対だめです!」


押し問答をしてなんとかヴェル君は引き下がってくれました。ふぅ…


「ヴェル君コレ…使って」


私はやっと整った息でそう言いながら『ヨジゲンポッケ』を差し出しました。ウエストポーチ型になっていて色目はなんと黒曜色!自分で作ったくせに、これはヴェル君の髪色だ!と気づき歓喜したのはつい最近です。


「これ…ヨジゲン…」


「ポッケのほうですよ?ボッケなんて偽物ではないのでご安心を」


ヴェル君は早速腰に装着すると、トラウザーズのポケットに押し込んでいた紙やら魔石?のようなものをヨジゲンポッケに入れました。


「ありがとう…カデちゃん」


そう言うとフワッと極上の笑みを浮かべて私を引き寄せました。こらこらこらー!


「人目があります!」


「少しだけ…」


私がジッと睨むと、


「わかった…」


と小さく呟くと私の手を取って歩き出しました。


…って!手の甲にキスするのやめて!油断も隙もあったものじゃありませんねっ。


しかし、いいものですね。手を繋いで…これってデートですよね。長い長ーい転生人生で初の手繋ぎデートです。


「女は3歩下がって付いて来い!」とか女性に人権なんかあったもんじゃねえ!な時代などの経験のある私としては、こんな日の高いうちに、男性と手を繋いで往来を歩くなんて夢のようです。


「どうする?城に先に行く?ユタカンテ商会も用事があるんだけど…」


「あ、ユタカンテにも御用があるのですか?そうしたら先に商会に行きましょうか!」


私達は手を繋いだままユタカンテ商会までノンビリとお散歩デートを楽しみました。


ユタカンテ商会でヴェル君は早速、バルミング主任と内ポケットの転移術式の話を始めました。


私は


「その転移術で恋人とラブラブなお弁当のやり取りが出来ますよ!」


とバルミング主任に訴えましたが、


「活用法は後ほど検討しますから、今はヴェルヘイム閣下と大切な話をしていますからお静かにっ!」


と怒られてしまいました…


どういうことよ…私これでもユタカンテ商会の代表よ?元王女殿下よ?元おひとり様だけど文句ある?


ヴェル君は主任とイチャイチャ(!)なので…私は美容部門のサーシャル主任の所へ顔を出しました。


「アラ、カデリーナさん、おはよっ!」


「主任、試作品の『リップグロ』をお城付きのメイドさんに渡しているの。今日、御用でお城まで行ってくるから使用感を聞いてみるわね」


サーシャル主任も実は美魔女です。もう50才くらいだと思います。ブルーグリーンの髪がすごく素敵な方です。確か長男さんは内務省にお勤めでしたかね。次男さんはユタカンテの美容製造部にお勤めです。男の子なのにすごく綺麗なご兄弟なのです。実はお孫さんもいるのです。


「はい、頼みますねー!あ、そうだ。販売価格も調べたいから希望価格の調査もお願い出来ます~?」


「了解でーす!」


「あ、カデリーナちゃん!武器屋さんの表看板の図面上がってるよ~」


あ、雑貨部門のクラッカス主任です。元大工さんでガテン系でワイルドイケメンです。30才なのでオジサマ枠に入れてしまうのは惜しいけど準イケオジです!


「どんな絵ですか?」


「武器屋の前に置くのに可愛くなりすぎて、浮くのはよろしくないっと雑貨の女子たちが言うから…こんな感じにしてみたよ」


うわ~いわゆる木彫りでお花が咲いているように透かし彫りになってる…これはあれだ!


「欄間だ…」


「ん?なんだって?」


「いえ、あの、これ看板もいいけれど窓枠とかにしてもお洒落ですね」


私の何気ない返答にクラッカス主任の顔が輝きました。あ、来ました?来ましたね?


主任は返事もせずにご自分のパーテの中に戻って行かれました。お仕事頑張って下さいませ。


「カデちゃん、終わった?」


ヴェル君はカークテリア君と魔術式の紙を覗き込んでいましたが、私に気が付いて顔上げられました。


バルミング主任とラブラブでよかったねぇ~~ええ、ええっどうせ私はおひとり様ですよっ。


「明日にでもカークテリアが、レイゾウハコに氷室作る実験するんだって…出来たらアレ…アイ…なんとか作ってくれる?」


ヴェル君はコテンと小首を傾げましたよっこのあざと可愛さなんでしょうかねぇ!ええ、ええ分かっていますよ。私はイケメンには絶対服従ですよっ!イケメンは至高の宝石っ全世界(異世界を含む)の共通の常識ですよっ。


「アイスクリムね。分かりました」


心の葛藤は見せずにヴェル君に微笑みました。ヴェル君は嬉しそうに傍に来ると耳元に口を寄せました。


「それと、センタクハコの水魔法と風魔法に、時間と圧縮形の魔法使ってみた。洗濯物を押し洗いしている状態になると思う。これは俺が野営してた時に押し洗いしていた服の感覚を再現した。これで引っ張って洗うんじゃなくて、もみ洗いに近くなるから生地の傷みは無くなるはず」


唖然としました。ヴェル君て…ヴェル君て…本当に


「天才」


ヴェル君は恥ずかしそうに笑っています。


「違う…センタクハコもレイゾウハコも元はカデちゃんの発明。俺はそこに少し足りない知識を足しただけ。カデちゃんがいないと出来なかった」


「私がいないと?」


「そう…ダメ。俺も…カデちゃん…いないとダメ…」


なんとなく、ヴェル君に抱き付きたくなりました。ヴェル君の魔力波形もそっち方面の揺らめきが診えます。いいかな…抱き付いちゃおうかな…とフラリとヴェル君に近づいた時に…


「ヴェルヘイム閣下~顧問料、今日渡します?」


と、バルミング主任から現実に引き戻されるお声がかかりました。


「もうっ主任…ん?」


ヴェル君の斜め後ろからドヨン…と淀んだ魔力を感じます…よ?


「俺…いますよ…一応…」


びっくり…ごめんね、カークテリア君の存在忘れてたわ…


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