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魔将軍と二人きり

宜しくお願いします

「じゃあ今はオリアナ様のお部屋に…?」


「ん~厳密には別空間に連れて行っている」


別空間…よく分かりませんが異次元とかでしょうか?SFはよく分かりません。


「多分だけど…母上グーデ先生と会っただろう…それで精神が弱っているんだと思う。だから父上が慰めにきたんだ…」


な、なるほど。ポカリ様は妻想いでいらっしゃいますね。はぁ夫婦の時間ですか…


しかし、ラヴァ様達が眠ってしまったので妙に静かですね……ん?


はっっ!


今気が付いてしまいました……ヴェル君と初の二人きりです。


カチャ…カチャ。食器を片付ける音もすごく響きます。


それに何でしょう…ヴェル君が一緒にキッチンで洗い物をしてくれています。


「ヴぇ…ヴェル君…は洗い…物…慣れてますね?」


声が裏返っています。緊張していますね。平常心、平常心…


「俺の所属していた部隊は魔の眷属が出現したと聞けば、どこへでも討伐に出かけていたから…野営も日常だった。当然食事も自給自足だ…洗濯も洗い物も自分でしていた」


すごい…なんてサバイバル…それを12才から続けていたなんて…すごいです。


「休みなんて無くて疲れてたけど…住民の人に直にお礼言われる機会多いから…頑張れた…心から助かった!とか…そのありがとうの言葉の方が、王の賛辞よりよっぽど嬉しい」


「うん、そうだよね…」


静かに水の流れる音と布巾で皿を拭く音のみが聞こえます。


「カデちゃん…」


「はい…」


「俺ね…魔神の子供に生まれて…正直ずっと父上も母上も恨んでいたんだ…なんで俺を産んだんだって、子供の頃は…こんな人間離れした、強すぎる体を持ってるの自分だけだし、色んな意味で周りから浮いているし、父親は常にいないから…貴族社会じゃ肩身狭いし…もう本当に両親を恨んでばっかりだった」


や…やばい目から水がぁぁ…ううっ。


「父上、俺の心が読めるから、そんな俺の気持ち知っているから…ずっと腫物に触るみたいな接触の仕方だった。愛されて心配されてるのは分かる…でも、一歩引かれたみたいに接せられていた。カデちゃんに会うまでは……」


うそ…そんな最近までギクシャクしていたの…?


ヴェル君が私を見ます。洗い物を終えた手を拭いて、涙に濡れた私の頬を優しく手で拭ってくれます。


「カデちゃんのお蔭なんだ…この2、3日は父上もよく俺の所に来てくれる…実はこんなに会いに来てくれたの初めてだ…カデちゃんが俺と父上の間に入ってくれるから…父上とちゃんと喋れてる…父上とこんなに喋るの初めてで嬉しくって…本当に嬉しくって…カデちゃんにすごく感謝してます」


ヴェル君は私の両手を持つとそっと引き寄せ、て指先に口づけました。はわぁぁぁ!


「カデちゃんありがとう。俺、カデちゃんに出会えて幸せです」


号泣です。ひたすら号泣です。嬉しいのと楽しいのと恥ずかしいとのでごっちゃですが、とにかくマイナスな気持ちだけは全然無くって幸せな気持ちで体が満たされて行くようです。


「わだ…じ…ぼ、ヴぇるぐんに…あでで…じあわぜでずぅぅぅ……」


泣きすぎて上手く伝えられたでしょうか…するとゆっくりとヴェル君の顔が近づいて来ます。


こ…こ…これはっっっ!


……もう頭真っ白です。


フワリと唇に柔らかいヴェル君の唇が何回か触れています。リップ音というのも聞こえています。すみません。長ーい長ーい転生人生で実は口づけは数回経験があるのですが…ここまで緊張して体が棒や鋼のようにガッチガチになっているのは初めての経験です。本当は自分からも積極的に行きたい所ですが、体が固まってしまって現在、ヴェル君の成すがまま状態です。


やがて、長いような短いようなヴェル君とのキスは甘い余韻を残しながら終わりを告げました。

静かに唇が離れるとヴェル君は真っ赤になったままモジモジしています。


「い…イヤじゃなかった…?」


思いっきり首を横に振ります。もちろん嫌な訳ありませんよっ!流石の私だってこんなに幸せな気持ちになる原因に気が付いてますっ!ヴェル君を見上げます。目が合いました。


「そ…そう。嫌じゃないなら…良かった…その…あの…もう一回いい?」


恥ずかしいけど…今度は思い切ってヴェル君を引き寄せると自分から唇を奪いました。


そしてすぐに離れるとこう言ってあげました。


「嫌じゃなかった?」


ちょっと意地悪だったでしょうか?嬉しくて恥ずかしくて照れくさくて…そんな気持ちを目に籠めます。きっと魔力を診る目をお持ちのヴェル君なら私の感情の揺れが視えるかな~?とかという思いもこめて…


ヴェル君は真っ赤になったまま天井を見上げました。手で目元を抑えてます。


「あ…もう……あぁ…もうヤバイ、カデちゃんが可愛すぎてヤバイ…」


心の声がダダ漏れですよ?でも嬉しいから許します。私はゆっくりと近づいてくるヴェル君の顔を薄目を開けて診ていました。魔力の波形綺麗だなぁ…やがて唇に触れる感触と優しい魔力を感じながらゆっくりと目を閉じてヴェル君に抱き付きました。


まだ室内は静かです。


朝日が昇る前に、私はラヴァ様の魔力の廻りを流す治療するためにテーブルに突っ伏しているラヴァ様の背後に立ちました。横にはヴェル君も待機しています。


「眠ってても治療できるもの?」


「はい、眠っていても大丈夫ですよ。でも今回の眠りは魔法?みたいなのでしょうから、途中で飛び起きるという事はなさそうですね」


「眠っていて魔力が廻ったらやっぱりびっくりするのか…魔力の流れって温かいしな」


「え?熱なんか感じましたっけ?体の中を何かがシュルッと動いてくるみたいな感じだと皆さんおっしゃいますけど?」


「だって奴隷印の治療の時、すごく熱かったけど…」


そ、それは……思い当たる副作用のような症状に思わず赤面します。


ヴェル君は何かに気が付いたようにニヤニヤし出します。


「そうだった…俺とカデちゃん、魔力の相性が良いんだった…」


もうっ…!私はラヴァ様の肩に手を置くと、魔術を巡らせ外へ吐き出されるイメージを指先に乗せます。


廻れ~廻れ~俺の小○○~


やがて私の魔力と共に、ラヴァ様の体に『道』が出来て行くのを手先から感じます。


「ふぅ、出来ました」


「うん、上手く魔術が廻る魔流が動いている。成功!」


ヴェル君に手を差し出され、ゆっくりとその手を取ります。ぐいっと強く引かれて抱え込まれるようにヴェル君の膝の上に座ります。ちょっとお手が不埒な動きをしている気もしますが?


またヴェル君のお顔が近づいて来ます。私もゆっくりとヴェル君の唇を受け入れて……


唇が触れる瞬間


ギュイィィィィンと何かモーターがまわるような音がしました。


「あっれ?やっべ…寝ちゃってたよ!てかテーブルで寝てるじゃん!おいっレンブロ起きろよ~あ、姫様おはっーざーす!ヴェルはどうしてんっすか?」


「あは、おはよう~ヴぇ…ヴェル君?あ、朝の鍛錬…鍛錬に行っているんじゃないかなぁ?」


ヴェル君は一瞬でいなくなりました。魔法かな?少しだけ残滓が残っています。


ふぃぃ~なんてタイミングでポカリ様の眠りの魔法が切れるのでしょう…そういえば…そもそも何故、私はラヴァ様達みたいに眠らされなかったのでしょうか…。あれれ?………ん?


……いや…違うな。


絶対ワザとだ。


ポカリ様の嫌がらせに違いありません……


腹黒めぇ……

やっとラブコメになりました。

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