魔将軍と王女殿下
またもサスペンス回です
「どういう経緯があって…偽魔将軍とラブランカ王女殿下が会ったのかは、さすがに私には分かりません。そこにロブロバリント様の思惑があったのか、たまたま王女殿下が偽物ヴェル君に心奪われたのか…もしかすると偽物を演じている方の思惑かもと、こればかりは分かりません…ですが」
私は皆さまを見つめました。なんだか最近推理ゴッコばかりしている気がしますね。
この事件は必ず私が解いてやる!ヴェル君の名にかけてっ!……ああ疲れた。
「ラブランカ王女殿下の中では何が何でも婚姻したいと思う出会いだったのだと思われます」
「こえぇ…もしかして偽魔将軍…ヤっちゃったのかな?」
「恐ろしい妄想をするんじゃないっ!」
ラヴァ様とサバテューニ様がゴニョゴニョ卑猥な事を話されているようです。下品ですよっ!もうっ。
「とにかく偽ヴェル君を本物と勘違いし、追い掛け回す行為が2年ほど続くわけですが…でも皆様冷静に考えて下さいませ…2年もですよ?しかも私はヴェル君側の話しかお聞きしていないのですが、ヴェル君は…女性にお断りをするにも断り方があるだろう?と思われるような、拒絶の仕方をされています」
そこで王太子殿下を見ました。
「言っておったな、授与式でラブランカ王女の臣籍降嫁の話をな。そんなことより休暇だけをくれ、と国王に申しあげた…と。他の臣下や近衛もいる前で、結構ですと言われたのだぞ?そこだけはラブランカ王女に同情するな」
「まぁぁ…ヴェルあなたっ!女の子を衆人観衆の前でっ…そんなかわいそうじゃありませんかっ!」
オリアナ様、どっちの味方?ヴェル君はものすごく困った顔をされています。
「私だったら、それだけでも好かれてないな~嫌われてるのかも?と思って、恋心もお慕いする気持ちも萎んでいきますが…王女様はそれからもヴェル君のお屋敷に不法侵入、公所に14回に及ぶ無断婚姻書の提出、その時ヴェル君の部下の方への狼藉。更にはヴェル君への夜這い…あ、これはルラッテさんが撃退してくれたのでしたね!え~と、夜這い未遂。挙げればきりがありません」
ルラッテさんを見れば大きく、非常に大きく頷かれています。勇者、ルラッテ見参!
何故かラヴァ様とサバテューニ様、お二人が羨望の眼差しをルラッテさんに向けています。
「そこまでして嫌われている方に情熱を…気持ちを持ち続けていられるでしょうか?」
私はそこでロブロバリント様を再び見ました。彼はこちらを見ています。
「王女殿下に偽ヴェル君を会わせたのは公爵様の差し金でしょうか?」
ロブロバリント様は小さく息を吐かれました。首を横に振っています。
「戦地から帰ってきての慰労の食事会の時に、偽物は本物として何度もラブランカ王女に会っている」
皆様から、なるほどなぁ~というざわめきが聞こえます。
「少なくとも私が居る時は過度の接触はしていなかったはずだ。ただ…幻視魔術の半永久定着化を施してからは知らん」
なんだかどこかで聞いた魔術構成です…思わずヴェル君を見ました。ヴェル君は驚愕してロブロバリント様を見ています。
「グーデ先生…半永久の継続固定の魔術式、術式考案されて…成功されたのですね!」
ヴェル君、急に興奮しています。フィリー殿下も立ち上がって
「す、すごい!何それ!?見たい!」
と叫んでおられます。
「カデちゃん、レイゾウハコの氷室。それとドラゴンの幻視の術とコレ…説明したよね?」
ヴェル君が自身の右首をチョンチョンと指差しました。奴隷印…幻視の術…
「え?え?でも、それヴェル君の開発した魔術式じゃなかったでしたっけ…」
皆様がロブロバリント様を見ます。深く深く彼は息を吐き出しました。
「その…半永久継続固定術式は確かにヴェルヘイム、お前の術だ。覚えていないか?王女殿下の前で大がかりな幻視の術を使って自死に見せたあの騒ぎ…」
ああああ!もしかして、王女殿下の前で自死しているように見せかけて結局、城の術士に見破られたって…まさかっヴェル君を睨みつけます。
「ちょっとヴェル君?死んでるフリしてる時どうしてたの?」
ヴェル君はあたふたしています。
「どうしてって…死んだフリしてた…目を瞑って…気配を絶って…魔力を極力抑えて…」
「死んだフリしている時、周りに医士様や魔術師様がたくさんいたんじゃない?ロブロバリント様を見かけたのよね?」
ヴェル君は真っ青です。私をチラチラ見てきます。許しませんよ?
「ロブロバリント様を見たのよね?」
「目を瞑ってて見てませんっ!」
「ヴェルっあなた昔から抜けているからっ!その時にグーデに術式取られちゃったんでしょう!?どんくさい子ね!」
オリアナ様は容赦ありません。ヴェル君を精神的に袈裟懸けで切り捨てましたよ…ズババッ!
「そのヴェルヘイムの術式を見て…興奮した!定着の難しい魔術もこれで固定され半永久に行使され続ける。素晴らしすぎる術式だった。私はすぐその術式を描き取り…まず偽物のアレに施術することにした。本人も是非してくれと言ったしな…」
そういえばっ!すっかり当事者を置き去りに話を進めていましたが…
「あの、その偽物の方どちらの方なのでしょう?お名前は?」
ロブロバリント様がちょっと首を捻りました。
「カーク=ライナイズ。第一騎士団の軍兵だ」
た、ただの…と言ってはアレですが一般の普通の軍人さんなのですね。
「今どちらに?」
「一緒にエーマントに来ていたがさきほど…あのすばらしいドラゴンの幻術で蹴散らされて…ああ、あの幻術はヴェルヘイムだろう?そうだろうと思った。素晴らしい術だった…奴は国に帰ったのではないかな?」
そうでしょうね…あの場から撤退しておられるでしょう…てか顔はヴェル君のままなのよね?
「ヴェル君の顔で…逃げて帰ったらガンドレアの国王陛下に怒られません?」
「いや、脅しがうまくいかなかったのかと…叱責ぐらいだとは思うが…国王陛下も偽物なのはご存じだし」
えええ!?国王陛下も知っておられるの?どういうこと?ロブロバリント様は話を続けられます。
「元々ヴェルヘイムはまさに魔性のような強さだった、だから強すぎて戦力としては第二部隊から絶対に外すことは出来ない。実質ヴェルヘイム一人で魔獣討伐を行っていたと言っても良いくらいだしな。だが、ヴェルヘイムの強さも利用したい。そこである程度名声が挙がって来たヴェルヘイムを、あたかも第一騎士団に居るかのように偽物を立てて、他国へ魔将軍として脅しの材料にすることにしたのだ」
国家ぐるみの陰謀…偽物詐欺事件ですか。本当に碌でもない国ですね…カステカートの皆様は深い溜め息をついておられます。なんだかな…ですよね。
ん?待てよ?
「ラブランカ王女殿下は偽物とは知らなかったのでしょうか?」
私の問いにロブロバリント様は首を捻られました。
「あのヴェルヘイムへの態度を見れば、知らなかったのだろうな…何故あれほどヴェルヘイムに懸想するのかも正直、私も分からんのだ」
「偽物のヴェルが王女様に甘い言葉を囁いたのかな?」
「それも怖えぇな…どうするよ?婚姻するから今すぐおいでとか偽物が言って、本気にした女が自分の家に押しかけてきたらマジ怖えぇな…」
護衛のサバテューニ様とラヴァ様がコソコソ話されています。聞こえていますよ!……いや待てよ?
「ラヴァ様…」
「うぁっはい!」
「そういう偽物の方…の心理はいかほどのものでしょうか?」
「へ?」
ラヴァ様に私は再び問いました。
「偽物の…自分じゃないヴェル君に成りすまして、王女殿下に甘い言葉を囁いたとして、王女殿下が騙されて屋敷に押しかけたり…衆人環視の前での愛の告白からの失恋…これを殿方として…騙した本人としてはどういう気持ちで見ているのでしょう?心理を理解できますか?」
ラヴァ様は顎を摩りながらこう答えました。
「…う~ん、はっきり申し上げても構いませんか?」
「どうぞ」
「偽物は、結構性根の悪いやつだな…と思います。要はヴェルの男前な顔を頂いちゃってて、王女様をからかって遊んでるんですよね?おまけにコレ…ヴェルへの嫌がらせにもなるんじゃねぇすか?男の僻みじゃないっすかね」
ああ、やっぱり!そう思いますよね、薄々ヴェル君への並々ならぬ嫌がらせ臭を感じていましたが…
「ヴェルヘイムほどの美丈夫なら…」
突然、パッテジェンガ将軍閣下が口を開かれました。皆、目線を向けます。
「誰しもこうなりたい…という理想の武人ではないかな?魔術の扱いも抜きん出て素晴らしい。剣技もロージから聞いたが剣聖の域だとか…おまけに大層な美丈夫だ。誰しも一度はなりたいと思うだろう?偽物も幻視の術とはいえ、ヴェルヘイム…と王女に呼ばれ勘違いするやもしれん。自分が本物のヴェルヘイムだと…」
今、偽物のヴェル君こと…カーク=ライナイズさんはどういうお気持ちでしょう。まだヴェル君がカステカートに居るのはご存じないかもしれません。ラブランカ王女殿下も知らないでしょう。事件は解決したような何かスッキリしない気持ちも残っています。
「とにかく、グーデリアンス=ロブロバリント魔術師団長をカステカートで預かっていることはガンドレアに知らせておこう。さて、帰るぞ、ヴィオを呼んで参れ」
サバテューニ様がヴィオお姉様達を呼びに行かれました。ヴェル君がロブロバリント様の入っている檻を庭の木々の間に隠しています。どうしたの?ヴェル君。
「あんな怖いおじさん、リヴァイス殿下が見たら怯えてしまうだろ?」
ああ~そうよ~気が利くっ優っしいなぁヴェル君!さすがヴェル君。
リヴァイス殿下は部屋に飛び込んで来ると、フィリー殿下に飛びついて甘え、ヴェル君にしがみ付いて「菓子をだせ!」コールをしています…
いやあの、レイゾウハコはそこにありますから…何もヴェル君の内ポケットから出さなくても、すぐに食べれますから…あの?
そう言って取り成そうとしたら、違うんだ!内ポケットから出て来るのがいいのだ!とプリプリ怒られました。子供なりの拘りでしょうか?
後ほど、ロブロバリント様を引き取りに来ると言い残して王太子殿下達は帰られました。
ヴェル君と二人、玄関口で皆様をお見送り致しました。皆様が見えなくなってからヴェル君がポツンと呟きました。
「カデちゃんの嘘つき…」
「!」
な、何?どうしたの?ヴェル君…?ヴェル君は少し目を潤ませてこちらを見ました。
「約束したのに…」
「あ、な…なんでしょうか?え?約束?」
どうしましょう…全然思い出せません。ヤバい……
「……バナナタルト殿下達に全部食べられたぁ…」
ズッコケました……心の中ではバナナの皮で足が滑って一回転してこけたくらいの勢いです。
「ヴぇ…ヴェル君……」
「なに…」
すっかり拗ねています。ヤバいっ可愛い!いい大人のメンズに可愛いなんて言ってはいけませんが…
今敢えて言おう!
可愛いは正義だーー!カッコいいは国の宝だーー!
はぁぁカッコいいくせに可愛いなんて反則ですよ。思わず笑いながらヴェル君の手を握ってしまいます。
「なに…笑ってるの…俺、怒ってるのに…」
「フフ…ヴェル君、実はバナナタルト2切れ取り置きしていますよ。それにプチュラタルトも作ってますから、それも召し上がれ」
ヴェル君は目を真ん丸にした後、破顔しました。勢いよく私を抱きしめると頭と額と頬にキスをしてきます。
あれれ?おいおいキス?と思いましたが、こんなに喜んでいるのに水を差さなくてもいいかな、と思い黙っておりました。まぁ私もすごく嬉しかったし…いいですよね?これで
やっとラブラブしそうな雰囲気に…




