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魔将軍と襲撃3

「今のは新しい魔術の詠唱か?」


「いえ、中二病が爆発しただけです…」


「うむ?とにかく良い感じの透明な檻が出来たの。障壁の逆展開の術法か…斬新で素晴らしい」


「お褒めに与り光栄です」


私はフェルトさんに淑女の礼をしました。ポカリ様に褒められるとイライラするのに、フェルトさんに褒められると純粋に嬉しいのは、何の違いなのかしら?人徳…魔徳の違いかな?


すると、またフワッと優しい魔力が近くで感じ、頭にヴェル君の大きな手のぬくもりを感じました。


「ヴェル君早かったですね」


「ただいま、カデちゃん。先に母上と王太子妃に報告してくる…」


ヴェル君はそう言うと乙女悶絶の『イケメン頭ポン』を私にしてから、室内に入っていきました。ごちそうさまでした。


「我々も行きましょうか?」


ラヴァ様に促されて私達も移動します。


しかしラヴァ様、さっきからフェルトさんの方には一切近づかないね。そんなに人語をしゃべる生き物怖いですか?怖いかな…


「おいっ赤いの」


「っひ…!」


嫌がらせ?のようにフェルトさんが、ラヴァ様に声をかけました。フェルトさん面白がっていません?


「お前の血にも神力が混じっておるの。カデリーナの遠い親戚ではあるまいか?」


「「ええ!?」」


ラヴァ様と私の声が重なりました。


「どうだったかな…え~と確かに治療術士してるばーちゃんはシュテイントハラルの出身だけど…」


「今度その婆に聞いてみろ」


「本当ですか?フェルトさん」


「血は大分薄いが同じ匂いがする。診える目は持っとるみたいだしな。ただ、治療に関する魔力廻りの流出口が無いようだな」


「うお…さっきヴェルにも似たようなこと言われた」


「なんと言われたのですか?」


「目はあるけど治療は使えないだろ?だと…」


流石ヴェル君。ラヴァ様は頭をポリポリ掻いてます。


「やっぱ治療系ダメっすかね?ばーちゃんにもヴェルにもダメダメ言われると堪えるわ…」


「うむぅ…赤いのは神力の気が強いから、魔力系の術士より神力が強いカデリーナに、凝りを治す要領で廻りを流してもらえば、流出口が開くこともあろうて」


「マジで!?」


「今まで診てもろうたのは町の術者か、お前の婆くらいだろ?婆は血が薄すぎて神力が弱いかもしれんし、廻りを流しても開くことは出来んかったと思う」


「ひ、姫様流して貰ってもいいですかぁ!?」


「構いませんけど…」


「こら話を最後まで聞かんかっ!廻りを流して上手く治療の術式が使えるようになるかは、五分五分だ。何せ血が薄いからな、ただ使えんでも自身の治癒力は上がる。赤いのにとっては良いことだろう?」


三人で話しながら廊下を歩いていると、居間の入り口にヴェル君とリヴァイス殿下の姿が見えました。リヴァイス殿下は満面の笑顔を浮かべながら、両手を広げて「フェルト!」と叫ばれました。あ、これは!


フェルトさんはトトッ…と駈け出してリヴァイス殿下の腕の中に飛び込みました。


「フェルト先ほどは助かった!私はこのとおりぶじだっ。よくやったっ、えらいぞっ!」


や、やだぁぁ~~可愛い!ヴェル君に言われたとおり、フェルトさんを褒めていますよ~ヴェル君も満面の笑顔です。扉の中からお姉様達、大人もニコニコしながらこちらを覗いています。


ホッコリしますねぇ~可愛いも正義です。


その時、玄関先でルーイドリヒト王太子殿下達の気配がしました。帰られたようですね。


「帰られたか…迎えてこよう」


ヴェル君も気づかれましたね。私も一緒に玄関先に向かいます。


玄関扉を開けた先にいらっしゃいましたのは…


王太子殿下、フィリー殿下、パッテジェンガ閣下の御三方でした。何故にこの3人?


「護衛はどうされました…まさか、お3人でっ!?」


後ろから追いかけて来たラヴァ様が、3人で来たことに慌てておられる感じです。


王太子殿下は面倒くさそうな顔をしました。


「転移で飛んで来たんだ、危ないことがあるものかっ。おまけにフィリペも閣下もいらっしゃる。誰が狙ってくるんだ?魔人か?魔将軍かぁ?あ、魔将軍はここにいるか?ハハハ!」


ヴェル君もラヴァ様もしらけたような表情をしています。


なんだか異世界日本で、働いていた商社の上司を思い出しますね…1人でギャグ言って1人でツッコミしているのも似ています。


護衛の仕事を自分都合で止めさせておいて、注意したら茶化してはぐらかす……やだ、あの○ゲ専務に似ています…


「カデリーナ…何故頭の方を睨んでいる?」


「あらすみません、殿下の頭に虫がくっ付いてるように見えて」


王太子殿下が…うわっ、どこについてるんだ!?と頭をはたいています。


そこへ…


「父上っ~」


元気な声を上げてリヴァイス殿下が、ルーイドリヒト王太子殿下に飛びつかれました。


「おぉ、リヴァ、元気が良いな!」


「ルーイ、おかえりなさいませ」


「只今戻った」


王太子殿下は右手にリヴァイス殿下を抱き上げつつ、出迎えたヴィオお姉様を抱き寄せ、そっと額に口付けました。


ま、眩しいっ!眩しい生き物ファミリーですね!


「ヴィオ、少し込み入った話をするので、リヴァとシエラで別室で待っていてくれるか?」


ヴィオお姉様は艶やかに微笑まれました。


「はい、お待ちしておりますわ」


そしてごねるリヴァイス殿下を優しく誘うと、廊下の奥へとシエラと共に消えて行かれました。


お姉様は本当に聡い。そして強く在られる。私は拳をグッと握り締めました。


「さて…お客様はどちらかな?」


透明な檻……ロブロバリント魔術師団長はすでに意識を戻されていました。


「おいっ!コレは何だ?早く私を出しなさい。オリアナ、君からも言ってくれ!」


自死するかも…なんて思っていましたが、こんなに元気じゃ死にそうにありませんね。


「どうしましょう?このまま外で話しますか?」


「うーん、いや、茶が飲みたい!バナナタルトを食べたいぞ」


ヴェル君が鋭い目で王太子殿下を見ています。コラコラなかなかに不敬な目ですよ、ヴェル君。バナナタルトの数はありますからっヴェル君の分はありますからっ~もうっ。


「あの…この…障壁、檻は私は触れることが出来るのでしょうか?」


サバテューニ様は檻の前で戸惑い気味ですね。ヴェル君は檻を見つめて、ひょいと持ち上げました。軽々ですね…びっくりです。すごい力です。結局ヴェル君一人で居間へ運んでいきます。


「ちょっ…おいっヴェルヘイム!下ろしなさい!」


「あなたに命令する権限はありませんよ、先生。あなたは今、カステカート国の捕虜だ」


「なん…だと…?」


ヴェル君は居間で給仕を受ける王太子殿下の前に、檻を下ろしました。あわわ、ルラッテさんすみません!お1人で王子2人と将軍閣下のお相手をお願いしていました!


私は慌ててルラッテさんと一緒に給仕のお手伝いをしました。


「さて、貴公はガンドレア帝国、グーデリアンス=ロブロバリント公爵、第一魔術師団、師団長で間違いないかな?」


「……」


「殿下の前で不敬ですよっグーデ!」


オリアナ様が急に声を荒げました。オリアナ様はハッとした様に淑女の礼をして少し下がられました。


「王太子殿下、申し訳ありませんでした」


「構いません。オリアナ様も思う所おありでしょうが、少し待たられよ」


ロブロバリント様は顔を引きつらせています。


「どうして…こんな民家にカステカートの王太子がいるのだ?」


ルーイドリヒト王太子殿下はニヤリと笑った。腹黒モードに入られたのでしょうか…?


「貴公こそ、ここがどこかも知らないでやって来たのか?」


ロブロバリント様は訝しげにオリアナ様とヴェル君の二人を見ました。


「オリアナ達の…潜伏先だろう?」


なんでしょう…それ?悪のアジトみたいで気分が悪いですぅ。


「ここはこの世界で一番安全な聖域だ」


王太子殿下は真顔で言い切りました。腹黒殿下も今頃中二病でしょうか…もう24才だったと思いますが…


その時、ロブロバリント様から強烈な魔力が発せられました。護衛の皆様が一斉に構えます。


「!」


呪術系の魔法は確かに放たれました。甘いです。このカデリーナ特製、クリスタル・イリュージョンはそんな呪術なんて効きませんよ。まだその檻の性能が分かっていないのですね…ふふふ。


「どうして!?呪術が霧散して…何故だっ!」


「当然です。その檻は基本構成は神力で作られていますから」


フェルトさんが静かに檻の近くに座っています。いつの間に…


「そちらにおられる、神の眷属で在らせられるフェルトさんにお力をお借りして作りました」


少し皆様がどよめきました。そうか…知らない人もいましたっけ。


「その檻の中ではあなたの呪術は何も効きません。あなたに攻撃したり逃げたりする機会は与えません、観念なさいませ」


ロブロバリント様は私を睨みつけました。しかし、すぐにヴェル君が視界を塞ぐように前に立ちはだかってくれます。


「お前がオリアナの魔石…私の魔石を消した女だなぁ!?まさかと思ったら本当に魔石の気配が小さくなっているっ!お蔭で転移で近づこうとして失敗したではないかぁぁ!」


魔石を追ってここに転移してきたのですね…でも失敗じゃないと思いますよ~ここは防護障壁がすごいからただ弾かれただけだと思うのですが。


「障壁に阻まれただけだろう…」


ヴェル君その通り!するとオリアナ様が、数歩前へ出ると王太子殿下に頭を下げた。


「殿下、少し私にお時間を下さいませ。グーデ…ロブロバリント様と話をさせて下さいませ」


「元よりそのつもりだ。二人きりの方がいいか?」


オリアナ様は目を瞑られました。どうされるのだろう…


「私が見張っておるから心配せずともよい」


あ、フェルトさん見張りしてくれるの?助かる~了解です………あれ?ラヴァ様とヴェル君以外、皆固まっていますよ。


「「「喋った!!」」」


そこですか…しばらく大騒ぎになりましたがなんとか落ち着いてから、再びオリアナ様に王太子殿下がお聞きになられました。


「戦うなら、見届けてやるぞ?」


オリアナ様の胸の前で組まれた手が震えています。私はおもわずオリアナ様の手を取って、寄り添うように横に立ちました。その反対側をヴェル君が支えてくれます。


オリアナ様は私とヴェル君を交互に見つめました。オリアナ様の手の震えは収まっています。


よーーし、さあ!反撃の狼煙を上げましょう!

たくさんの中二病患者様が発生中です…。

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