戦地にて前編 SIDEヴェルヘイム
ヴェルヘイム視点前後編になります。
中二病が炸裂しております。
「ヴェルヘイム、内ポケットの術式見せて下さいよ」
転移門で辺境伯家の奥庭に降り立った俺は、そう声を掛けられて振り向いた。
声の主、フィリペラント王子殿下と少し年嵩の魔術師二人は急ぎ足で俺に近づいて来た。
気持ちは分かる。魔術を扱うものとしては、新しい術式や新しい魔法理論を見つけると、寝食を忘れるほどに興奮する。気持ちは確かに分かる…
「お教えしたいのは山々なのですが…この術式は8割方はユタカンテ商会のバルミング主任の転移箱の試作品からの応用でして…」
「バルミングさんか~あの人ホント優秀だよねぇ」
「転移箱とはどういう魔道具です?見られたのでしょう?原理と構成術式は分かりますよね?」
俺は少し考えた、あれは商会としては商品だしな。構造は教えられないな…よし。
「つまり、設置場所を例えば王宮前としてもう一つを公所前としましょうか。そこから指定しておけば箱に放り込むだけで常に箱内のものを送りあえるという訳です」
「うわっ!なにそれ!画期的!」
「さすがっバルミング氏っ!?」
「転移先が目標とずれるとかで試行錯誤されてましたが、俺でも上手く行きましたし、そのうちバルミング主任も出来ると思いますけど」
「えっ?ヴェルヘイムの内ポケットの原理それですか?」
「ヴェルヘイム様が転移先…ということは転移先対象が常に移動していますが?転移は可能なのですか?」
質問攻めだな~おもわず嬉しくなる。
「魔術構造は教えられませんよ?ユタカンテ商会にお問い合わせ下さい」
実はこの台詞、ユタカンテ商会を訪れて帰る際に主任に近々城に呼ばれるかも?と世間話をした時に言えと言われた台詞なのだ。
「ヴェルヘイム様、今日私がお見せした試作品の魔術構造、もう全部分かっておいででしょう?時空、時間魔法も操れるくらいのお方だ。すでに色々応用が出来てますでしょう?もし、何か開発出来たら是非、ユタカンテ商会にお知らせを。開発費と研究料、それに商品化して売り上げた金額の何割かはお支払いできますので。もしあの王太子殿下とかフィリペ殿下に見せろとせがまれたら、こうお伝えくださいませ」
面白いなぁ~あのバルミングさんって何者なんだろうか。もしかして昔は、城勤めの師団長だったりしてな…
「エーマントへ移動するぞ。軍行は第一騎士団が先だ」
ルーイドリヒト王太子殿下が声をかけている。
「フィリペ殿下、私、斥候に出てきましょうか?」
俺がそういうとフィリペ殿下は
「ヴェルヘイム、大きいけど出来るの?」
と聞いてきた。
まぁ、大柄だと敵に見つかる可能性は高いよな…
「実は得意でして…対魔人戦で背後を突く為に随分研究した結果の産物ですが」
周りにいた術士や騎士団の面々が一斉に寄って来た。
この地域じゃ魔人には滅多に会わないから興味があるのかな。
いや、あんな生き物…て言っていいのか分からんが会わないに越したことはないけど。
「魔人は目視も匂いも音も魔力すべて聞こえる、見える、感じるらしいので遮断遮音、消臭、魔力遮断この4つを移動中に常に発動しなくてなりませんので、まあ俺ぐらいしか扱えない術式かもですが…」
「略式の汎用型に出来ないのかっ~ねぇヴェル~頼むぅ」
おっと、いきなり距離を詰めて来たな、フィリペ殿下。こういう所、腹黒…とまでは行かないが兄上の王太子殿下に似ているな。
「いつも単騎で隠密行動でしたから複合魔法で大量がけ出来るのかな…うん、広範囲性の領域速度をあげて…常の移動に時間変速の……」
俺が頭の中で魔術式を構築していると、周りに人が更に集まって来てしまった。
「こらっ早く移動せんかっ!」
おっといかん。王太子殿下がお待ちだ。
「大体の術式は汎用出来そうですので、また後日披露します」
そう言うとフィリペ殿下は破顔した。この人もなかなかの眩しい生き物だな…
「ヴェルはすごい術者だな!」
「いえいえ、いつも必要に駆られて編み出しているだけでして…」
「例の放出系の魔法か?」
魔術凝りの時に併用した魔法だな。そういえば母上、大丈夫かな…カデちゃんが付いててくれるから安心だけど…
「あの放出魔法の魔術構成も、教えられないのか?」
「いえ、構いませんよ。ただ、あんな使い方次第では危険な魔法になるものは禁術指定されそうですね。…と言いますか、指定する立場の方が何故にあんな魔法知りたいのですか?後で処罰だとかで揉めるのはごめんですよ?」
俺がそう言うとニタニタとフィリペ殿下は笑い出した。
「ちょっと思いついたんだよねぇ~体内の魔力発生の度に、常に体外に排出しちゃうのでしょう?なかなか自白しない罪人に嫌がらせ出来るかな~これ、結構体に負担かけちゃうよね?」
「まあ、魔力が常に足りない状態になりますので…体は疲れますね。倦怠感、眩暈、精神脆弱くらいはなりますかね…」
そう言うとフィリペ殿下はますますニタニタした。
「使えるね~うふふ。ヴェル術式の構造提供してよ。新規魔術式制作料として金一封出せるから~本当は魔術師団に入団して欲しいけど…でもさ、きっとパッテジェンガ閣下もヴェルのこと狙ってると思うんだよなっ!」
実際、ルーイドリヒト王太子殿下よりフィリペラント殿下の方が腹どころか体の内側、全部黒いような気がするな…しかし、狙うってなんだ…おじさんに狙われても嬉しくないぞ。
そんな会話をしつつ休まず移動して、昼前にはエーマントの国境にある砦にガンドレア側からは見つかりにくい場所を探して身を潜めた。そしてすぐに作戦会議が始まるらしい。俺は急いで移動した。会議の場になった砦内の大広間に俺が行くと、すでにルーイドリヒト王太子殿下達が待ち構えていた。
「斥候が出来るほどに動けるらしいな…どれくらい敵陣に近づける?」
隣に立つフィリペ殿下をチラリと見る。
あ~ぁ本当に兄弟だよな…眩しい生き物で同じく腹黒か…
「将軍の背後に立っても気づかれない自信はあります」
周りにいる第一騎士団の方々がざわついてる。それくらい隠密行動の基本だろうが…
「お任せして頂けるのなら少し敵方を攪乱してきたいのですが…」
王太子殿下は膝を寄せてきた。
「それはここに来る前に作っていた術式だな?ドラゴンだとか、本当に出るのか?」
「まぁ上手く発動しなければ自分が行って攪乱してきますので…」
「ドラゴンでもヴェルヘイムでもどちらでも怖そうだな」
どういう意味だ…俺はあんな恐怖を与える生き物とは違う…はずだ。
「よしっ、許可しよう。行って参れ!」
「御意」
俺はすぐに隠密行動用の術式を体に纏った。
「すごい!すごいですよ!視覚も魔力もまったく遮断されてます!まだ前に居ますよね?ヴェル、こちらの声は聞こえているのでしょうか?」
フィリペ殿下すごく興奮しているな…はいはい。
俺は地面に指で土魔法と水魔法の応用の土文字を出して
『聞こえていますよ、術の発動時は幻覚に注意だけはお願いします。ドラゴンはすべて幻なので。では…』
と書いてからすぐに砦を飛び下りた。風を切り一気に敵陣の数歩前に躍り出た。
うわ…マジか…そこには俺が居た。その偽魔将軍とやらの魔力波形を見てみる。あ~本当だ…フィリペ殿下の見立て通りだな。これ単体では大したことない武人だな。確かに身長は俺ぐらいだが…俺こんなに筋骨隆々しているか?なんか横にデカすぎない?しかもこんなおっさんっぽい?それに、良く見たら全然似てないだろ、コレ?
そして顔の周りの幻視の術を見てみた。
なるほど…確かに幻視の術だな…その時、奥の方からグーデリアンス=ロブロバリント公爵が歩いて来た。
なんだか痩せたなぁ…先生こんなに細かったっけ?うわ…魔術凝り起こりかけじゃないか…魔力波形の色濁ってるし…
俺は会ったらぶん殴ってやろうと息巻いていた気持ちが、急速に萎んでくるのを感じた。人間としてこう…憎々しげに健康じゃない状態を見て哀れになった…というのが正解かもしれない。
まあいいか…どうせここで俺が先生を問い詰めたって答えは出ない気がするし…全てを明かすのは母上の目の前がいい、絶対そうだ。母上にこそ糾弾する権利がある。
俺は踵を返すと、ガンドレア軍全体を見渡せる少し開けた草むらの位置に付き、地面に魔法陣を書いた式紙を置いた。静かに起動して行く魔法陣…それに合わせて少し脅かしてやろうと術式を展開する。
ドガガガァァアンンン!!
辺り一面を衝撃と爆音が響いて空から特大の雷が落ちてきた。もちろん俺の雷の術。演出はバッチリだ。
「さあ、来いッ!俺のドラゴンよ!」
やっとヴェル君が活躍しています。




