魔将軍と偽魔将軍1
宜しくお願いします
11/10文章修正しております。
「カデちゃん大丈夫か?」
「大丈夫ではありませんよっ乙女寿命が10年は縮みました!」
おもわず無関係のヴェル君に当たってしまいます。
そんな名前の寿命があるとは思えませんが…兎に角乙女の尊厳を抉るような、早朝の突撃訪問攻撃で私はすでにヘロヘロです。
早くしろっいつまで待たせるっ!
とか…散々文句をつけたくせに、朝食とお菓子までしっかりと食べたルーイドリヒト王太子殿下は、朝議があるからっとササッと自分だけいなくなり只今、広い王宮の貴賓室にヴェル君と二人ボッチです。
絶対朝食を食べたいだけに、朝から押しかけたに違いありません。
コンコン…
会話も無く無音の室内に、ノックの音が響きます。
お茶は先ほど給仕されましたが、ご来客でしょうか?
「はい、どうぞ」
お返事をすると勢いよくドアが開けられました。
「カデリーナ!」
花のような可愛らしいお顔にクルンと癖のあるハニーブロンド、瞳の色は綺麗なエメラルドグリーン。小さいプニプニの手をいっぱいに広げて私の胸へ飛び込んで来られました。
「リヴァイスラント殿下!」
リヴァイスラント第一王子殿下はルーイドリヒト王太子殿下とルヴィオリーナ王太子妃、私のお姉様との間に出来た王子様です。まだ4才になったばかりのやんちゃ坊主です。
「カデリーナ、ひさしぶりだなっ!お菓子はないのか?」
真っ先にお菓子の有無を聞くの?私よりお菓子が大事と見えますね…うむむ~
「あるぞ…」
横からヴェル君の声がして羽織っているコートからゆっくりとアーモンドもどきクッキーの袋を取り出しました。
いっいつの間に!このスイーツ男子めっ!
「これはカデリーナの菓子かっ?」
リヴァイス王子の問いに、ヴェル君はコクリと頷きました。王子は早速中を開けて食べようとしました。
そこへ…
「王子っ!毒見もなさらずにっいけませんっ!」
私がこの王宮で苦手としている人の一人、ギュウテリウス女官長がすごい勢いで入って来ました。
「だってカデリーナの菓子だぞっ美味いんだぞ!」
「そんなもの…お口になさるものでは御座いませんっ!」
リヴァイス殿下が持っていた袋ごと、ギュウテリウス女官長が取り上げ菓子袋を遠くへ放り投げました。
「あっ!?」
私とリヴァイス殿下の叫び声が重なりました。
その時
何か大きな影がザッと動いたかと思うと、いつの間にかヴェル君がお菓子の袋を手にしており、そしてリヴァイス殿下の前に悠然と膝をつかれました。
「今朝、私はこのクッキーを頂きましたが何事もなく健勝です。お疑いなら、リヴィオリーナ妃をお呼びしてお聞き及びにならればよろしい」
お菓子のことを馬鹿にされて怒っているっぽいヴェル君は、目の冴えるようなお美しい怒り顔で、ギュウテリウス女官長を下から見上げています。
あぁ恐ろしい…きっとクッキーが目の前で捨てられそうになったので怒ったのよね。さすが、スイーツ男子。
「私だって今朝、朝食も食べたしカラメルプリンも食べたぞ!そして健勝だ!なぁ、ロアモンド?ロージ?」
カカカッと笑い声を上げながらゆったりと貴賓室に入って来た、水戸のご老公…ではないルーイドリヒト王太子殿下は、ギュウテリウス女官長に柔らかい笑みを向けるとこう言った。
「貴女の忠義には日々助けられておる。これからもリヴァイスライトを良き道へ導いてやってくれ」
ま、眩しいっ!
私が目を細めていると、ヴェル君も眩しいもの見るような目をしています。おや?仲間?
ギュウテリウス女官長は顔を真っ赤にして「失礼しますっ!」と叫びながら部屋を出て行かれました。
ふ~ぅやれやれ…
王太子殿下御一行は豪奢なソファに腰かけると私達にも座るように促されました。
「え~っ父上ずるいっ私もカラメルプリンが食べたいですぅ」
リヴァイス殿下が王太子殿下の足に絡みつきながら抗議をしている先で、ヴェル君が何やらコートの中を触ってゴソゴソしています。
ま、まさか、飛び出しナイフとか出して来てっ!?な~んて殺し屋ではありせんよね、ヴェル君は…しかし何をゴソゴソしているのでしょうか?
「ヴェル君、さっきから何をしているのですか?」
明らかにヴェル君はギクンとしました。怪しい…
「ちょっとヴェル君あなた…まさか、まだお菓子を隠し持っているのでないわよね?」
「なんだってぇ!まだ菓子があるのかっ?早く寄こせっ~」
今度はヴェル君の足に、リヴァイス殿下が絡みつきました。ヴェル君は小さい生き物の俊敏な動きに、オロオロしているようです。やがてヴェル君は観念したのか、ゆっくりと内ポケットからお菓子を取り出しました…
「カ、カラメルプリンだぁ!」
う…嘘でしょう?あんなの内ポケットに入る?半液体菓子よ?思わず私もプリンを覗き込みました。
零れずにちゃんと入っているわ…どうなってるの?
私は胡乱な目をヴェル君に向けました。ヴェル君はそんな私の目に気が付いてソッと内ポケットを開いて見せてくれました。うん、ただの内ポケットだね。何か魔力の発動は感じるけど…それで?
「昨日、ユタカンテ商会のバルミング主任が、転移の指定型魔法の術式見せてくれただろ…」
「ああ、あのヴェル君が何か難しい魔法薀蓄を唱えていたアレですね?」
「家に帰って術式展開を色々考えてたら、亜空間結合で移動可動域も広がって転移のズレも…」
「あ~ぁ待って、待って下さい!難しい理論は良いから何が出来るようになったのですか?」
ヴェル君は恥ずかしそうにしながら再び、内ポケットをゴソゴソしております。
「えっと、俺の内ポケットとカデちゃんのレイゾウハコを繋げてみた、はいどうぞ」
んなぁぁぁ!?繋げたぁ!?レイゾウハコ!?
ヴェル君が内ポケットから取り出したものを凝視しました。それは今朝私が作った、モルのスライスチップピリ辛味です。チップが入っている器もハート型の私のお気に入りの器で間違いございません。
「どうして…レイゾウハコなの?」
ヴェル君は乙女のように頬を染めています。
どうして照れる?
「これで外にいても、カデちゃんのお菓子食べ放題だから…」
ぉぉおいいいぃぃ!魔力の無駄遣い!才能の無駄遣いだからっそれっ!
しかし、この所業に賛同を唱える者が出て来ました。
「おいっ!ヴェルとやらっ私のポケットにもその術式をほどこせ!いや、おしえてくれっ!」
さっきから無言でカラメルプリンを頬張っていた、リヴァイス殿下がダダンッと立ち上がるとヴェル君をビシィと指差した。指差されたヴェル君はウロウロと視線を彷徨わせて、いいのか?と私に聞いてきた。
うぇぇ?私?
「何をおっしゃいますっリヴァイス殿下。カデリーナ様のレイゾウハコとはいえ、殿下の御身に直接触れる可能性がありますゆえ、もしカデリーナ様宅に賊が侵入しレイゾウハコを悪用されて、ハコ内に身を危険に晒すものを入れられる可能性があった場合、如何されるおつもりですか!」
うわ…ロアモンド様…カッコいい…正論でございますよ。
叱られちゃったリヴァイス殿下はふぇぇ…と半泣きになっておられます。すると…
「ポケットに術式は施すことは適いませんが…今日はこれでご了承下さい」
ヴェル君がスッと、リヴァイス殿下の足下に膝をつきました。ヴェル君は手に術紙を開けました。
おお、なんでしょう?
フワワッと淡い光がヴェル君の手から零れます。ヴェル君の手に現れたのは…
「何!?可愛い!」
おもわず絶叫しました。そこには真っ黒で黒目の小さい狼の子供がいました。ん?狼よね?ヴェル君は口で術式を重ねがけしております。
「これは私の使い魔です。魔と言っても精霊の仲間で魔物ではありません。普段は連絡用くらいしか使いませんが、今日は殿下と一日遊んでくれるようですよ?名前はフェルトです。仲良くして上げて下さい」
リヴァイス殿下はたちまち破顔した。そしてフェルトをギュッと抱っこするとあっという間に部屋を飛び出しました。慌てて近衛の方とメイドの方が後を追われました。
いいな…私もモフモフしたい…
「あれ何です?ヴェル君…ずるいっ…」
ヴェル君はちょっと眉を上げました。
「見た目は可愛いがあれでも父上の従者だ…先ほどの術式は一日だけ殿下の護衛を頼んだ…渋々だったけど引き受けてくれた」
魔神の下僕ですか…それは恐ろしい。モフモフは諦めましょう。
「さて…デッケルハイン候」
ヴェル君はスッと表情を改めるとルーイドリヒト王太子殿下を見ました。
「一緒に来てくれるか?将軍達を紹介したい。そろそろお前には表舞台に立って貰いたいしな」
なんでしょう…なんかカッコいいです!王太子殿下!イエ…元からカッコいいのですけれどね…腹の中は真っ黒だけど。
食べ物の恨みは恐ろしいぃ




