魔将軍と治療3
なんちゃって医術知識ですので
ご容赦下さいませ。
なんとか魔術凝り一日目の治療は完了です。
オリアナ様の魔力は微力ながら、私の魔力と混じりゆっくりと体内を廻っていきます。心配していた拒絶反応も無いし、大丈夫ですね…
あれからオリアナ様を再度診させて頂いて、医学的観点から『魔術凝り』を治す方が先決だと判断して、凝りを解す治療を始めました。
眠るオリアナ様を心配そうにヴェル君は見つめています。
「ヴェル君…ちょっとお話いいですか?」
ヴェル君を促して、居間に戻りました。お茶もご準備しましょうか…ああ、センタクハコが止まっています。洗濯物干さねばっ、忙しい。
とりあえず、ヴェル君に少しお待ち頂いて洗濯物を干してから、居間に行きました。
「お待たせ致しました」
ヴェル君は窓際に立っていらっしゃいます。はぁ~今日もカッコいいですね。絵画のようです。ヴェル君は少し頷くと私が座った対面のソファに腰かけました。
「まずはオリアナ様の治療の結果報告ですが、魔術凝りは軽度のものでして一週間もあれば治ります」
ヴェル君は目を見開いています。
「俺の認識が間違っていなければ…魔術凝りは重病だ…一週間なんて…でも確かにあれは魔術凝りだった…」
「やっぱりヴェル君も視えるのですね?」
治療術士になるには資格が要ります。
そう…魔術の流れが目で診えること。その『診える目』が無ければまず治療は出来ません。
「私はその…ポカリ様もおっしゃっていたように特殊と申しますか、加護を持っていまして…」
「神の加護…か?」
「普通の治療術士より力が強いといいますか…」
「重病もすぐに治せる?」
私が頷くと、ヴェル君は…そうか…と天井を見た。
「俺がいくら頑丈だとはいえ…魔術凝りが一日で治るなんておかしいな…とは思ってた」
「ヴェル君はその、私と魔力の相性が特に良いようで…普通はもう少しかかります」
なんだかヴェル君はニヤニヤしています。こんな真剣なお話の時に、なんでしょう?もうっ不謹慎ですよっヴェル君!
「もうっ…とりあえず魔術凝りの方は問題ありませんから!後は問題といいますかお腹の中の魔石ですが…私、食事に魔石の欠片が混入…と先ほど言いましたが、ただの魔石なら細かく砕いて食事に入れることは可能です。ですが、あの魔石は中に魔術式の式紙が入っています。だからこう考えたのです。あの魔石は術式の描かれた式紙を胃酸から守るためのものだと…」
そう、つまり魔石はオブラートや薬のカプセルの代わりではないかと思うのです。式紙は材質は紙です。胃の中に入れば、当然溶けてしまいます。それを溶かせない為の魔石…ただ魔石は胃を通っても溶けることはなく腹部に存在し続けます。どうやって体の中に入ったのでしょう。
「イサン?胃酸て…何?」
あれ…胃酸て知らないのかな?そうか、開腹手術とかの技術は無いし、胃の中がどういう仕組みなのかは知らないのかも…胃カメラあるわけじゃないしね。
「お腹の中には胃や腸、すい臓、肝臓など色々な体を動かす為に必要な機能がたくさん詰まっているのですよ。その中の一つに胃という機能がありまして、口から入った食べ物をまず備蓄し、次に消化し体を動かせるのに必要な栄養素に吸収、分解しつつ腸へと促し、腸から排便されるという仕組みですね」
ヴェル君はポカンとしています。
む…難しいことは言ってませんよね?…異世界では割と誰でも知っている一般常識ですよね?
ヴェル君はゆっくりと表情を動かすと、ものすごい羨望の眼差しを向けて来ました。
なに?何ですか?
「カデちゃん、モーナルカルタで高等医術を学んでいたのか?あれは国でも一握りの人間しか通えない学舎だと聞く」
ああ…ここでも異世界ギャップが……異世界の常識がここでの非常識…異世界の一般常識がここでは高等教育。気を付けてはいたのに油断しておりました。
「ど…独学ですぅ…すべては本の知識です」
困った時の魔法の言葉「独学です。本の知識です。」すべてこれで乗り切ってきました!ヴェル君は独学か~カデちゃんはやっぱりすごいなぁ~としきりに感心されています。
あぁ心が痛い…小学生の理科の授業で習いました…なんて言えない。
「あれ?ということは…その幼馴染の医士様はモーナルカルタでしたか?で、学ばれたということでしょうか?」
「ああ、彼…グーデリアンス=ロブロバリント公爵様は確かにモーナルカルタで学ばれて、今はガンドレア帝国魔術師団第一師団長を務めていらっしゃる優秀な…治療術士…だったのだがな…」
か、肩書がすごい方ですね。さすがオリアナ様の元婚約者…
「そんなすごい方が主治医をされていたのですか?」
「ああ、特別にな。母上の幼馴染だし…婚約者だったしな。俺は頑丈だったからお世話になったことはないけど…」
ふむ…あ~これはアレですね~ん~つまり簡単なことだったんですねぇ~
「なんとなく分かりかけてきた、と言いますか…推察の域を出ませんが、ヴェル君は魔術凝りで軍の寮内で倒れて、医院に運ばれましたよね?私がもし、その医院に勤めている医士だったら治療をためらうでしょう…と言いますか、関わりたくないと思うかもしれません」
「どうして?」
「ヴェル君はその当時、ラブランカ王女殿下が執着されている方です。下手な治療をして王女殿下のお怒りに触れたりして面倒を起こしたくない。私だったらどこかに丸投げします」
「丸投げ…もしかして…」
「その場で誰か他に治療できる方はいないか…そして考えた末…」
「ロブロバリント師団長を思い出した」
私はほぼ、確信に近い手ごたえを感じています。
この方法しかない。
ロブロバリント公爵がヴェル君と唯一接触し、あの術式を見るチャンスは…
「優秀な治療術士なら、ヴェル君の術式を見てこの魔術が人体にどういう作用を及ぼすかなんて、すぐに分かったはずです。なのに…原因不明と判断した」
ヴェル君は唇を噛みしめています。同じ治療を施す者として看過できないことですよ!これはっ!
「故意に見過ごしたとしても、見落としたとしても…その状態のヴェル君に待っているのは…最後は魔術凝りと放出の術の影響の魔力切れによる死亡……結果は…どの選択をしても一緒です」
私はヴェル君を見ました。ヴェル君もこちらを見ています。海碧色の瞳に吸い込まれそうです。
「本人…ロブロバリント公爵様に是非ともお聞きしたいところですね…」
ヴェル君も頷かれています。あ、そうです、すっかり忘れていました。
「ヴェル君!ヴェル君の奴隷印も消しておきましょうか?」
ヴェル君は目元を優しく緩めるとゆらりと立ち上がり私が座っているソファの私の横に座ると足を組んで
「宜しくお願いします、先生」
と、優雅に微笑まれました。
は、は、鼻…鼻血が出そうですっっ!私一人でヴェル爆弾に被弾中ですっ!
「では…すこしさわりま…いっ!…しゅね…」
緊張と興奮で舌を噛んでしまいました、イタタ…
「シャツの襟元を…緩めて頂いても宜しいですか?」
ヴェル君がシャツの釦を5つほど外しました。
そ、そんなにっ下まで必要ありませんからーー!
ヴェル君の美ボディが首筋から腹筋まで色っぽく覗いております。私は美ボディを直視しないようにしながら首の右側の奴隷印にソッと手を乗せました。
「始めますよ…痛かったらおっしゃって下さいね」
腹黒様が構って欲しそうにこちらをチラチラ見ている!
→構う。
→無視する。
次は構ってあげられるような話になる予定です。あくまで予定です。




