魔将軍とユタカンテ商会2
またもいい加減な魔術論展開してますが、ご容赦下さい
11/6一部文章修正、誤字を訂正しています
カークテリア君に抱き付かれたままのヴェル君…
そんな二人を見つめたまま時間だけが過ぎていきます。
うちのヴェル君は、ラブランカ王女殿下とのアレコレで、もしかすると女性に嫌悪感を抱いているかもしれません。
ヴェル君っもしかして…あなたっ……
つい、パーテの影に隠れながら某家政婦さんみたいに、見ちゃったわ!みたいな気分になってしまいます。
「…ぃつ…ついに……」
カークテリア君の振り絞るような声が聞こえます。カークテリア君はガバッと顔を上げました。
「ついにレイゾウハコが完成しますよぉ!ありがとうございますっ!ありがとうございますっ!」
「よ……よかったな……」
そんな2人のやり取りに
周りの従業員達からは「なーんだ」「ちっ!」とかの声が聞こえてきます。するとカークテリア君はウロウロと目線を彷徨わせて、私と目が合うとなんと、猛然とこちらに向かって走って来ました。
ぎょわわっ!?何なのぉ?
「カデリーナさぁぁん!やりましたよぉ~」
カークテリア君に抱きつかれると思い、構えていると…あれ?
突然、魔術発動の輝きがカークテリア君を包みました。
……嘘でしょう?
カークテリア君は、駆けっこポーズのまま空中に浮いております。
文字通り浮いております。綺麗に浮いておりますぅ!!
「うわっ!時間停止の魔法じゃない!?」
「さっきのこれがっ応用魔法かっ!」
「人に使ってるの初めて見たよ!凄っ!」
そんな従業員大興奮の中、悠然とヴェル君が近づいて来ると私の肩を抱き込み、体ごとぐるんとヴェル君の背後に移動させられました。
「婦女子に許可なく触るなんて100年は早いな、カークテリア君」
そうヴェル君が呟いた途端、カークテリア君の魔法が解けました。
カークテリア君は何もない空間を掻き抱いたポーズのまま、5、6歩走って踏鞴を踏んでから止まりました。カークテリア君、茫然としていますね。
「時間停止魔法だって!?どこだどこだ?」
ドタドタと足音がしてバルミング主任が走りこんできました。
「なにやってるんですかぁ~もう消えましたよ」
「惜しいっ、主任!」
男性従業員達に口々に言われながら、バルミング主任は私達の傍まで歩いてきました。主任はカークテリア君に残った魔力の残滓をジッと見ていますね。どうしたんでしょう?
「ここではなんですので…来客用にご一緒してもらってもよろしいですか?」
主任の言い方がやや畏まっていますね、公的なお話ですね、了解です。私はヴェル君を促して来客用のパーテ部屋に入りました。こじんまりですがソファも置いてあります。
「遮音の魔法を…」
バルミング主任のお願いに頷いて、すぐに部屋全体に遮音の魔法を張ります。
「姫様、この方は何者なのですか?」
バルミング主任の言葉に思わず息を飲みました。
バルミング主任はカステカートに支部を作る時に母国から一緒に来てくれた方です。私の出自もご存知です。私はチラリとヴェル君を見ました。
「彼は…ヴェルヘイム=デッケルハイン様です。ガンドレア帝国の元軍人です」
バルミング主任は小さくひぃぃ…と叫ばれました。当然ですよね…
「ほ…本物なのです…か?こっこのことは…ルヴィオリーナ様はご存知なのでっ!?」
「はい、昨日話しております」
「ご存じで…そうですか、では許可されているのですね?」
はて?許可?そういえば昨日は泣きだして眠ってしまい、最終的なお話はどうなったのか知りませんでした…
ヴェル君~~?知っていますか?
チラチラとヴェル君を見ながら、救いを求めてしまいます。ヴェル君は一つ頷くと話を繋いでくれました。
「昨晩王太子殿下、妃殿下に身分を明かし…妃殿下から直接カデリーナ殿下の護衛という形で傍仕えするように、と申し付かっております」
ええっ!いつの間に…でも私、もう殿下ではありませんよ~
「なんとも…うむ…あなたが魔将軍ですか。イヤ、悪い意味ではないのですよ?こう、もっと恐ろしい方だとばかり思っておりましてね」
ヴェル君は苦笑しています。本当、私達が知っている魔将軍のイメージと違いますよね、ヴェル君は。
「私の戦闘時の姿が、人の目に映るのはまず無かったはずなのですよ…私は第二将軍でしたし」
「第二?何か第一と違いがあるのでしょうか?」
私の疑問にヴェル君は、そうか…ガンドレアだけの呼び名だったのか…と呟いています。
「うっかりしていた…第二と名乗れば、自分が魔獣討伐のみを行う部隊だと、皆が気が付くと思っていた。」
へぇ~~ヴェル君は魔の眷属討伐の専門部隊のご出身だったのですね!
あれ?そうしたら戦場で目撃されてるヴェル君て誰?あ、もしかして…
「3年前の今頃でしたかね、ガンドレアとカステカートで小競り合いがありましたけど…その時にも魔将軍が戦場に現れて、暴れたとかなんとか聞きましたけど…」
バルミング主任が首を捻り唸っています。私も知ってますよ、それ。
「3年前の今頃か…ガンドレアに隣接するグーロデンデの森から魔人が二体現れて、討伐に行っていた時か…基本、魔の眷属が出没したら討伐完了まで城には戻らない…戻る余裕はないな」
ひえぇ!?魔人!ヴェル君は魔人を見たことがあるのですね…
バルミング主任もヒェッと小さく叫んでいます。やっぱりこれはアレですね。
「やっぱり何年か前から、ヴェル君の偽物が横行していたようですね」
「なんと…偽物ですか…ガーベジーデ商会といい、あの国は碌な事しませんなぁ…」
バルミング主任の言う通り!!本当碌でもないですよね!
「そうそう、主任聞いてくださいませっ!ヴェル君が軍に居る時に、ガーベジーデ製のヨジゲンボッケっていう粗悪品を使っていたのですって!」
「ヨジゲン…ボッケ…ですって?名前まで似せてきますか…呆れますなぁ…粗悪品出されたら、うちも風評被害受けるじゃないですか…困りましたね」
それにつきましては、また後日検討会開きましょうということで場がお開きになりました。
「ちょっとよろしいですか…この魔術式見て頂けます?」
バルミング主任は抜け目ないですね。帰り際さりげなくヴェル君を捕まえて聞いています。どれどれ…
「これは転移魔法の応用型か…うん、空間遮断をかけて物体を移動させる…悪くない」
「いえそれが転移先の指定の術式が難解でして空間制御が難しいのですが…」
ヴェル君は魔術式にバルミング主任から借りた魔法ペンで次々術式を記入して行きます。
うわっ…魔術式難し、てか書くの早いっ!
「空間遮断の他に、時間と記憶の魔法を混ぜると術者の記憶を組み込んだ術式が…この式で作動して…転移先に誤差が無く術式が作動するはずだ。ただ誤差を瞬時に調整するのは術式起動時間がかかって稼働しないので、転移先に誤差範囲より衝撃に耐えうる空間を多めに確保する必要がある」
ムズカシイデスネ……
とりあえず難しいこと言ってるのは理解出来ました、はい。
バルミング主任は分かってるのかしら…と顔を覗き込んで見ると、おじさんのくせに女の子みたいに頬を紅潮させていますよ。乙女かっ!とツッコミさせて頂いておきます。
「さっ流石です!デッケルハイン閣下!ぁあ~もうユタカンテ商会に就職して下さい!好待遇で席をご準備しますのでっ」
おじさんおじさん…興奮し過ぎ…ヴェル君は少しはにかんだ様に笑った後、私を見ました。
ん?ちょっと待てぃぃ!!このパターンは昨日の夜、私に冷や水を浴びせたあの台詞を言う前触れではないかい!?ヴェル君ぅぅん!!ちょっと待ったーーー!!
「俺は…カデちゃんの護衛だからここでは働けない…」
違ったーー!良かったーー!…イヤ?よくないのか?どうなのか?あれれそういえば…
そうか~残念ですね~でもまた術式のお手伝いして欲しいです~と言いながらバルミング主任は自分のパーテまで戻って行きました。
「ヴェル君ヴェル君、私すごく重大なことを放置したままでした」
「ん?」
ヴェル君を見上げて向かって右側の首元を注視しました。やっぱり…おかしい…
「ヴェル君の奴隷印が無くなっています…一体どういうことですか?」
段々ハイパーヴェル君に進化してきました…か?




