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魔将軍とユタカンテ商会1

魔法の使い方に関しては適当知識ですので

ご容赦くださいませ

11/6一部文章を修正しています

「ここが首都アンカレドの一番規模の大きなバットリラ市場ですよ~」


ヴェル君を案内しながら通りを歩いて行きます。


買い物に行きましょう!と言いましたが一応目的はあります。


「ヴェル君が今欲しいもの何かありますか?」


ヴェル君はキョトンとしています。いきなり過ぎましたか?


もちろんちゃんと理由はありますよ?


私は昨日の夜、ヴェル君の過去を知り悔しかったのです。もちろん、ヴェル君を追い詰めたラブランカ王女様にも憤慨しましたが、ご自分を労わらないヴェル君自身にも怒りと苛立ちを感じました。


あれではまるでヴェル君自身が自分のことを好きじゃないみたいです…私はそのように感じました。私の我儘かもしれませんが、少しでもご自身を好きになれるように今日は好きなものを買い、好きなものを食べ、自由気ままに過ごして欲しいのです。


ヴェル君は首を捻っています。ドキドキ…


し、しまった!!せめて私のお小遣いから払える金額のものをお願いしますって言っておけばよかったぁ…セコイデスカネ…元王女殿下ですが…何か?


「いや…今欲しいものは…もう貰ったから…いい」


ぃい!?いつの間にですか!?


「もう貰ったって…誰に…?」


「ルーイドリヒト王太子殿下に」


えええ!?あの腹黒…ルーイお義兄様にっ!?何を頂いたのでしょうか…ま、まさか高価なものでしょうか?あまりに高価なものでしたら


「うちのヴェル君に勝手にモノを買い与えないで下さいませ!」


とか言ってお義兄様に突っ返してきましょうか…


「こ、高価な金品では…ない…ですよね?」


ヴェル君はニヤリとしました。おお!その表情するとやっぱりポカリ様に似てますね!


「ある意味お金では買えない、価値のあるものだ」


なんだか某クレジット会社のキャッチフレーズが頭をよぎります!プライスレスですかっ…何だろう?男の子同士でやり取りするもの…?熱い友情とか?


「とにかく、今は欲しいものはないかな?今…あえて言うなら…カデちゃんとの一緒の時間が欲しい…」


ぎゃあぁぁ…こらーー!


こんな明るいうちから色気のある微笑みと言動は禁止ですよっ!ほら見て下さいっ!今、私の斜め後ろに居たお姉様方から小さい悲鳴が聞こえましたよっ。市場にいるっ皆様ーー!イケメンフェロモンビームの射程距離圏内は気を付けて下さいっ!!


「そうだ、すっかり忘れていたけど…」


ヴェル君の言葉におもわず警戒します。次は何を言い出すのでしょうか?


「朝の…騎士の礼で俺からの希いますの許しはまだ頂けてませんが?」


ちょっとぉ今それここで蒸し返しますか?


ヴェル君は非常に期待の籠った目で、こちらを見てきます。


じっと見てきます。まだまだ見てきます…うぅ…


「ゆ……許します…」


「有難き幸せにございます、姫様」


やめて~~っ今度はイケメンスマイルビームですよ!お姉様達の悲鳴が、先ほどよりたくさん聞こえて来ます。皆っ気を付けて!!退避っ退避~っ


朝から連続被弾で乙女の何かがゴリゴリと削られてしまいましたが、ヴェル君本人が欲しいものは無いとおっしゃるのならば無理強いは致しません。それならば思い切って私の行きたい所に一緒に付いて来てもらいましょう。


「では欲しいものが無いのなら、また今度という事で…じゃあ私の行きたい所へ行ってみてもいいですか?」


ヴェル君はコクンと大きく頷きました。


では…行きますよ~


市場の中は来月から開催される、秋祭りの準備で活気に満ち溢れています。秋祭りは収穫祭の雰囲気に似ていますね。屋台もたくさん出ますし、大広場ではミスコンみたいなイベントも開催されます。


私も去年一度見ただけで詳しくは分からないですが、そのミスコンに加えて今年は男性部門もあるらしいです。


ヴェル君に聞く所によるとガンドレア帝国には現国王の生誕祭、建国王の生誕祭、建国記念日の三つしかお祭りがなく、ただパレードがあるのみで本当に地味なんだとか…


そりゃないわ~若い子達は退屈ですよね。


ある程度羽目を外せるのも祭りの醍醐味なのに…今年はヴェル君も是非、祭りに参加して大いに楽しんで貰えたらいいな!と、今から私もワクワクしてしまいます。


「さっ着きましたよ。ここが『ユタカンテ商会』のカステカート支部になります!」


ユタカンテ商会は公所と冒険者ギルドに両サイドを挟まれた町の中心街にあります。公所は異世界の日本で言う所の『区役所、市役所』に近い公的機関です。


その反対隣の冒険者ギルドは…うふふ。


そう異世界ファンタジーでお馴染みのあの冒険者です。ここは所謂国の準公的機関扱いです。冒険者登録は12才から男女問わず銅貨一枚(日本円で1000円弱)で登録出来ます。


この登録をしておけば例え冒険に出なくてもギルドカードが身分証明書扱いで半永久的に所持出来ます。このギルドカードのすごいところは、他国に出入国する際のパスポート代わりにもなりますし、自己申告ですがカードに複数人の連絡先を記憶出来ることです。


つまり、どこかで何か不慮の事故で亡くなられた場合、カードを確認したらすぐにお身内やお知り合いに連絡が行くシステムなのです。魔獣の脅威や戦争が身近な世界ならではの画期的なシステムですね。


そういえば


ヴェル君はギルドカード持っているのでしょうか?ちなみに再発行は銅貨2枚で出来ますよ?


まあそれは改めて…ということで


私はヴェル君を連れてユタカンテ商会の従業員入口のドアを元気よく開けました。


そう今日のお目当てはユタカンテ商会です。


「おはようございます!ジュリアンヌさん」


私はドアを開けた所の、左側の受付カウンターにいるジュリアンヌさんに挨拶しました。ジュリアンヌさんは魅惑的な小悪魔ボディの持ち主です。


「おはようございます。カデリーナさん」


今日も朝から魅惑的なボディですね!ジュリアンヌさんは私に微笑んだ後、後ろにいるヴェル君を見て目を丸くしています。


私達はそのままパーテーションで仕切られた事務所内を横切って行きました。


このパーテーションもユタカンテ商会製です。


こちらではパーテという商品名です。母国からカステカートに支部を作る際に、この事務所に下見に訪れた時、吹き抜けの事務所内のだだっ広さに「奥まで丸見えじゃないか!」と驚いて、自分の周りに木の板で目隠しを置いたのがきっかけでした。


それを見た従業員からどうして木の板を置いているのか…と聞かれ、外から丸見えが嫌なのと、仕切りがあるだけで仕事に集中出来る空間が確保出来るのと…色々と理由を挙げていくうちに、あれ?コレ商品化出来るんじゃネ?と思った次第でございます。


今ではユタカンテ商会の、雑貨部門の稼ぎ頭商品です。最近では木の板のカラーバリエーションが増えました。次は子供部屋の間仕切用に可愛らしいデザイン性のものを考えてます。


こちらの世界の親御さんも、子供さんの数が多いと子供部屋の確保に頭を悩ませているようです。


部屋割りは兄弟げんかの原因にもなりますからね…分かります…


「私の仕事場はこちらになります!」


私はパーテで仕切られた奥に三つ並んだブースの真ん中のピンク色のパーテの前で立ち止まりました。


パーテの前には縦横50cmくらいの白い板がかかっています。これは魔道具の一種です。商品名はホワイボードです。


やっぱり職場にはこれでしょ?私はホワイボードの右横の赤色の魔石に手をかざしました。


ジュン…と小さく音がしてピンク色のパーテの上に赤色の灯が付きました。


私はヴェル君を顧みました。へへん!どうです?これがうちの自慢のホワイボードです!


「これがこの部屋を使ってる人が、今は居ます、という目印になります」


ヴェル君は大きく頷いた。この灯が在室か空室かのお知らせになり、受付でジュリアンヌさんの机の上にある一覧を表示するボードに、お知らせすることが出来ます。


ヴェル君はジッとボードを見つめています。


「光魔法と転移魔法の応用型か…面白い発想だな」


流石!ヴェル君は見ただけで分かりますか。そうだ!もしかしてヴェル君なら、何か解決策をご存知かもしれません。


「ヴェル君ヴェル君、このボードに新しい機能をつけたいのですが…ちょっと術式の組み合わせに頭を悩ませてまして…」


「どういうのだ?」


私は説明を始めました。


このボードの空白部分に『午後から○○に出かけて来ます。○時に戻る予定です』とか逆に事務所に不在の方のパーテのホワイボードに、用事がある人が『○○についてご相談したいことがあります。』とか連絡事項を書き込みたい。


その為に木の板に塗料で書き込んで、字を書くたびにボードを買い替えていては商品としては使えない。


「浄化魔法で消そうかと思ったのですが、浄化魔法は高度魔術に類していますので、魔力値の低い方は使えません」


ヴェル君はジッとボードを見つめています。


そしていつの間にか、私達の周りに事務所に居た従業員が群がり始めました。やがてヴェル君が静かに話し始めました。


「土魔法と水魔法で字は書けるようになると思う。後、板の間に時空の魔法と空間遮断を使えば字は消えない」


「時空魔法!?」


私の裏返った声に、周りの従業員達がざわついてます。


それもそのはず、時空魔法は超高度魔法で、城付の魔術師か魔術専門の派遣所に所属する一級魔術師ぐらいしか使えない魔法なのです。こんな商会にいる魔具作りの技術者ではとてもとても…


「腐敗の魔法原理が分かれば理解できるはずだ」


「ですが、土魔法と水魔法は相反する属性です。同じ術式内ではうまく作動しないのではないですか?」


ヴェル君の後ろに居た男性、バルミング主任が話しかけました。


バルミング主任は魔道具部門の責任者です。興味ありますよね?分かりますよ~皆が固唾を飲んでヴェル君を見つめます。ヴェル君はバルミング主任に微笑みかけました。


「非常にいい質問ですね」


ぁああ~~バルミング主任と周りにいた数人の従業員にヴェル君爆弾が直撃した模様です!


皆さん真っ赤になって魂が抜けています!エマージェンシー!エマージェンシー!


「これは俺が野戦の指揮を執っていた時に使っていた連絡手段なのだが…」


おお!軍人さんの知恵袋ですか、ものすごく興味があります!


「指揮部隊が全方位に散り、作戦を決行している時にお互いの位置が分からないと、同士討ちの危険性があるだろう?」


ふんふん、なるほど、それでそれで?


「進撃方向を変えた時や、敵兵の人数が把握出来た時、何か不測の事態が起こった時に木の皮の表面に土文字を書いておく。つまり土魔法と水魔法、そして光魔法…つまり」


バルミング主任が叫んだ。


「うちのボードと同じ魔法原理だ!」


「そうだ、戦時中なので一回読めば一瞬で消えるようにしてあるが…一度実践してみようか?」


ヴェル君はそう言うとホワイボードの前に立つと、魔法陣を出現させた。


「早いっなんだ!?あの術式!」


「すごいよっ属性の強作用が別の魔法で抑えられてる!あれが時空魔法かな!?」


ヴェル君はホワイボードの上に土文字を出すと器用にカデリーナという文字を書きました。

一同からおお~~!と歓声が上がります。すごいですね!


「通常、一度見たら指で文字に触れば消えるように、水魔法と腐食の魔法を組み合わせているのだが…今日は一定の時間消えないように、時空の停止魔法と腐敗の魔法を合わせてみよう」


ヴェル君は殊更ゆっくりと魔法陣を展開していく。多分従業員、皆に見えるようにですね。


従業員から興奮の悲鳴が上がる。これは本当にすごいっ!私も分かる。時空魔法の原理がここに居る従業員には皆も理解できたのではないだろうか?


やっぱりうちのヴェル君は出来る子です!やがてボードに文字が固定されるとヴェル君はまたしてもニッコリ微笑みながら一同を見た。


「腐敗の魔法原理が分かれば簡単だろう?」


いやいやいや~~簡単ではないですよ?ヴェル君のお蔭ですよ!バルミング主任泣いちゃってますから!


「この時空魔法が分かれば、腐敗を遅らせ止める原理も分かってくるはずだ」


そのヴェル君の言葉に美容部門のサーシャル主任が悲鳴を上げた。


「ちょっ…ちょ…もしかして女性の永遠のテーマ!不老に効く化粧品ができるのではないっ!?」


その場に居た女性従業員が歓喜の悲鳴を上げました。シミよ皺よ~~さようなら~~


サーシャル主任は走り出して自分の机に戻るとものすごい勢いで術式図面を描き始めました。おなじくバルミング主任も泣きながらその場を後にしました。


「すごいですね、ヴェル君!流石ヴェル君!」


そう私が褒めちぎるとヴェル君は照れ臭そうに頬を染めました。


そんな私達の背後から、魔道具部門のカークテリア君が躊躇いがちに声を掛けて来ました。


「あのっあの…」


「はい、何でしょう?カークテリア君」


「これほどの術士様なら試作段階の『レイゾウハコ』の氷室設置についてご相談してみては如何でしょう?」


ああ、本当ですね!是非ともヴェル君の意見を聞いてみなければ!


「ヴェル君、うちにレイゾウハコありますでしょう?あれの上部に氷室を付けてモノを凍らせて保存出来ないかと思いまして。氷菓の保存に必要なのですよ」


「氷菓?」


「アイスクリムという氷で出来たお菓子を作りたいのですが、常に氷室の状態を箱内で保つことが出来なくて…」


お菓子と聞いてヴェル君の表情が変わったように思います。ヴェル君は、カークテリア君から魔法術式を書いた式紙を受け取ると丹念に見始めて、チョコチョコとペンで修正を入れています。


「これだとすぐに温度が上がるだろう?でも…」


「ここは魔力が掛かり過ぎてませんか?」


「空気中に微量に混じる魔力を常に補給するように…」


「時空魔法と吸収魔法ですか?斬新ですね!!おお、それで…」


ヴェル君とカークテリア君二人の世界です。他の女性陣が会話に混ざろうとしますが、相手にしてもらえないようです。


ふ~たりのため~~せかいはあるの~~


私は自分の席に座ると、ユタカンテ商会の中間決算の報告書を見始めました。しばらくするときゃああっと絹を裂く悲鳴が上がりました。なんだなんだっ!?


悲鳴の先を覗き込んだ私は絶句しました。そこには…


ヴェル君に抱き付く、カークテリア君。耽美な音楽が流れそうです。


しかし現実は女性従業員からの非難と歓喜?の悲鳴でした。


ちょっちょ…いきなりビーでエルな展開ですか!?

段々収拾が付かなくなってまいりました

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