魔将軍はヴェル君です2
なかなかラブコメ感が出ませんね
私はシエラと別れるとしばらく本屋の店先で立ち尽くしていました。
どういうこと…?魔将軍(偽?)がもう一人いるの?
確かに…ヴェル君が魔将軍だという話は本人の証言のみです。今は自称魔将軍…と言わざるを得ない状態です。これを聞くとやはり嫌がられるかもしれません。でも…聞いてみなければいけません。私は意を決しました。
自分の家の居間のラブリーソファーを思い浮かべました。
その時、うっかりヴェル君の悲しそうな顔が頭をチラついてしまいました。いけないっ!?と思った時にはすでに転移が始まっていました。
転移魔法は非常に手軽な魔法です。
移動先の景色を思い出すだけで、瞬時に行きたい所へ飛べます。ただ手軽な分、術者の精神状態が悪いと術の完成度が悪くなりやすい魔法です。
行きたい景色が明瞭でない。行った事の無い場所である。転移先の場所が常に動いている。色々な条件が重なり、発動しても目的の場所に行けないことも多いのです。
私はラブリーソファーの置いてある居間ではなく、客間のベッドの上の空間に転移されてしまいました。突然の浮遊感からの落下。
ドスン……ガタンッ……ゴツン。
ベッドに落ちた後ローリングしながら床に落ちました。
「イタタ……」
とりあえず頭は打たなかったようです、良かった。
「カデちゃん!?」
物凄い勢いでヴェル君に抱き起こされました。
「どうした!?どこか打ったのか!?」
ヴェル君……そんなに早く喋れるのね、びっくりですよ。
とにかく寝ているヴェル君の上に落ちなくて良かったです。転移魔法で人と人の接触事故は結構多いのですよね。
「転移魔法か?無茶をして……」
あれ?いつの間にやらヴェル君に姫抱っこされてヴェル君の膝の上ですよ?あれ?あれ?
うえ…えぇぇ!!…鼻血が出そうです!まだヴェル君は半裸族ですっ!
「……ヴェル君……ただ今帰りました」
「うん」
「お、お洋服を買ってきましたよ、きっ着てみますか?」
ヴェル君は頷くと私を姫抱っこしたまま立ち上がりました。
やめてぇぇ!!何故に抱っこしたまま移動するんですかっ
「ヴェル君ヴェル君ヴェル君っ、私、歩けますからっ」
私はヴェル君の姫抱っこから抜け出ると『ヨジゲンポッケ』の中から洋服と靴を出してきました。ヴェル君はちょっと驚いた顔をしています。
「ヨジゲンボッケ……そんな可愛い色のバッグもあるんだな……」
ん?ヨジゲンボッケ?ボッケ?
「えーとヨジゲンポッケを知ってますか? 使い心地は如何でしょうか?何か気になる所はありますか?」
「ん……モノはそれほど入らないな……入れても時々中で壊れてるし戦場で持って行った保存食も腐っていたな…」
なんだってー?
うちのヨジゲンポッケは総容量5トン入りますし中でモノが壊れる、腐るなんて完全な故障じゃないですか!
「お問い合わせ頂いたらすぐに修理にお伺いしましたのに…容量もご相談して頂けたら増やせますよ?5トンじゃ少なかったかな?大容量版出そうかしら…」
ヴェル君はキョトンとしています。キョトンとした顔も男前ですね〜
「……カデちゃんがヨジゲンボッケ作ってるのか?」
あれ?言ってなかったっけ?
「厳密に言うと私が開発して、ユタカンテ商会で販売していますよ。ちなみに名前はヨジゲンポッケが正式名称です」
ヴェル君は首を傾げています。
「ユタカンテ?…ガーベなんとかと言う商品だったと思う」
あ…もしかして…
「ヴェル君もしかしてそのヨジゲンポッケ、ガンドレアで使ってた?」
「ああ、そうだ」
やっぱりね…ガーベジーデ商会製かな。
うちのユタカンテ商会のよく似た偽物をつくってる悪徳商会ね。ヨジゲンポッケは独占販売している訳ではありません。うちと契約して提携販売して頂いたらいくらでも技術協力しますのにね…
「ガンドレアの軍部でガーベジーデ製のヨジゲンボッケを使っているのですよね?」
ヴェル君は頷いた。
商品名すら胡散臭いですね…国を挙げて偽物使ってどうするんでしょう。
ヴェル君には申し訳ないですが、ちょうどガンドレアの話が出ましたので、偽魔将軍の話を切り出すのにいいかもしれませんね。
私は息を吸い込みました。ヴェル君、ごめんね…
「ヴェル君知っていますか?先週、カステカートのエーマント地方に…ガンドレア軍を率いた魔将軍が現れたそうです」
ヴェル君の勇姿はいつ見れる?(笑)




