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ぺんぎん・らいふ  作者: 朝野りょう
ぺんぎん・らいふ+(プラス)
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29.キタミの希望は?(5)

 私が心の中でエールを送っている中、八坂さん、キタミ、黒沢の会話は進んでいく。


「事故の時、北見君は動けたのよね? だったら、米田さんの自主性に任せるんじゃなく、さっさと助けてしまえばよかったのよ。ペンギン姿の米田さんを抱えて避難するくらいできたでしょう?」


「それはダメだ。米田さんとその車の運転者の問題に北見が介入するのは環境破」

「米田さんに危険が迫っている時に、北見君が助けるのは友達として普通のことよ。黒沢君は、環境破壊なんかより人間社会に住んでいるんだから普通に”人”として行動してほしいわ」

「そうだよな。佐保は……俺が危ないと考えて、俺を助けようとしてたらしいんだ。それがわからなくて今回は躊躇したが、次回からは俺が佐保を守る。友達なら守るのが当然、だよな」

「いや、それでは自然が」


 八坂さんとキタミは割と意見が合う。

 黒沢は背中を撫でられながら尻尾をプランプランさせている子ライオンは、表情ではわからないものの口調は歯切れが悪く、全く乗り気ではない。

 でも強く否定する様子ではないので、八坂さんの意見を尊重してくれそうだ。

 八坂さん最強!


「私が明日からウサギ姿で学校に行くとして、何に気を付ければいいかしら? もし交通事故に遭いそうになったら黒沢君が助けてくれる?」

「香胡は俺と一緒に直接学校に移動しよう。あの姿では道路を歩かない方がいい」


 八坂さんのお願いに黒沢が即答した。

 黒沢は空間移動ができるから、その方法で学校に行くつもりらしい。それなら認識されないせいで交通事故に遭うこともないから安全だ。


「キタミも米田さんとタクシーで登校したらどうだ? 確か、米田さんを乗せたいタクシーは多かったよな? そうすれば、その間は同調しなくて済むし、米田さんの負担も減るだろう」


 黒沢がキタミにそう提案した。

 タクシーで登校? 思わず私は目を見開いた。

 同調時間は別に負担でも何でもないのだが、30分以上もかけて徒歩通学している私にとって、タクシー移動は非常に魅力的な提案である。

 雨が降る日ならスペシャルに魅力的だ。


「そうだな……。佐保、見学者達がいる間はタクシーで移動しないか? 俺も、八坂さんの言うように次は佐保の反応を待たずに守るよ。でも、同調していると認識されないせいで何かと危険が増す。だから、登下校できないのは残念だろうけど、我慢してくれないか? 数日だけだから、な?」


 私が黒沢の言葉について考えている間に、キタミもタクシー通学にのってきた。

 登下校できなくても全く残念じゃないよと思ったけれども。

 キタミの顔を見て、残念がっているのはキタミなのだと気が付いた。

 私がペンギン姿で登下校する様子を前からと後ろからは撮ったけど、横からはまだない。

 そのせいだけではないだろうけど、キタミは私と通学できないのを非常に残念だと思っているのだ。そんな些細なことで残念に思うなんて……と、私の顔は緩んでしまう。


「いいよ。私もタクシー通学だと安全だと思うし、他の人を事故に巻き込まなくて済むよね」


 私はもっともらしく答えた。

 タクシーで通学できるなら楽できて大賛成。

 タクシーなら暑くも寒くもないから、ずーっと続けてもほしいくらいさっ。


「あ、八坂さん、ウサギだと立ってもペンギンの私より低いよね? 教室や廊下を歩く時に踏まれそうになるから歩き方に気を付けた方がいいよ。私は机から顔が出るくらいの高さ以上にジャンプして歩いてるんだけど」

「そうなのね。私もちょっと練習してみるわ」


「それから、お昼は私の分をキタミが用意してくれて食べさせてもらっているんだけど、八坂さんも一緒にどう? ウサギ姿なら手が使えるから、普通にお弁当でも大丈夫なのかな?」

「ぜひ一緒にお願いしたいわ! お昼は黒沢君に一食分の栄養を私の中に取り込めるようにしてもらうつもりだったんだけど、やっぱり食べる方が楽しいわよね」


「香胡のは同調じゃないから、あの姿で食べても取り込めないぞ?」

「できないの? そうよね、私は同調じゃないから、米田さんとは違うものね」

「黒沢、そのくらいやれよ。中にいる八坂さんに栄養を与えられるなら、できるんだろ?」


 キタミは冷ややかに黒沢に告げた。

 黒沢はできるのにやらないって、どうしてだろう。

 八坂さんが望んでいるのにやらない、やりたくないとしたら理由は……環境破壊とか?


「できはするが……、俺が香胡の唇に触れないといけないんだ。それは、香胡が嫌だろ?」


 唇に触れないと食べさせられない?

 あーんで食べるイメージしか浮かばないけど、そういう意味ではないのだろう。

 八坂さんが答えるのに躊躇している様子を見るに、どうやら恥ずかしがっているようで。

 あーんじゃなくて、口移しで食べさせる感じ?

 それなら恥ずかしいし、嫌じゃないとは言えないけど。


 しばらく目線を足元に落とし黙っていた八坂さんは、意を決したように口を開いた。


「わ、私は全然、嫌じゃ、ないわ」


 言葉がつっかえてるし、八坂さんの目線があちこちを彷徨って、落ち着きがない。

 よほど恥ずかしいか、決心が必要な事だったらしい。

 彼女がこんな風に狼狽えているのを見るのは、はじめてのような気がする。

 でも、勇気を出して言ったのだから、ここで黒沢に否定はさせたくない。

 できるんなら、やれよ黒沢。八坂さんのフレンドだろ!


「じゃあ、明日のお昼は一緒に食べよう! 楽しみだね」


 私は笑顔で言った。

 本当に、明日のお昼が楽しみだ。八坂さんが黒沢のフレンドでよかったー。


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