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ぺんぎん・らいふ  作者: 朝野りょう
ぺんぎん・らいふ+(プラス)
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29.キタミの希望は?(4)

 キタミが宙を見て考え事をしているので、私は同調して登校するっていうタイミングを計っていると。


「タクシーはどう考える?」


 キタミが言った。

 とっさに答えられず、私は目をパチパチ。

 えっと、何?


「タメス、シテェル。ペン佐保チャン、同調、シテール。タメス、デキール」


 疑問符が浮かぶ私の頭上から、タクシーさんの声が降ってきた。

 タメス、試す?


「管理局は、同調している佐保を調べたくてたまらないんだな」


 キタミはそう言って大きな溜息を吐いた。

 私にではなく、宇宙人タクシーさんに訊いてたのか。


「えーと……、管理局が何かしてるせいで、車が突っ込んできたの?」

「管理局はわざと事故を回避させなかったのかもな。誰でも佐保のフレンドになれるという見学者達の調査経過は今のところ芳しくない。でも、管理局配下の学校に長時間同調している佐保がいるんだ。フレンドには干渉しないはずだが、管理局は佐保を直接探りたくて仕方ないんだろう」


 うーん、結局? 管理局がいつも通りに忘れろ電波してれば事故を回避できたのに、しなかった。同調してる私が気になって仕方ない??

 つまり、よくわからないけど管理局が原因ってこと、かな。

 私が無理やり納得しようとしているところで、キタミが。


「佐保、八坂さんが話をしたいそうだよ」


 と、言った。

 八坂さんが話をしたい……って、電話? 八坂さんがキタミに? いや、私に、か。

 いきなり話が変わったので混乱したけど、黒沢からキタミに宇宙人専用の手段で連絡が入ったに違いない。


「八坂さんが? 何だろ」

「黒沢がここにつなぎたいと言ってる。このタクシーなら安心して繋げるけど、どうする?」

「えっと……タクシーさんとキタミがいいなら、お願いしたいです」


 私が答えると、キタミは頷いて手を軽く上げた。

 すると、私とキタミの間の空間に椅子に座る八坂さんと、その膝に子ライオンが乗っている姿がリアルに現れた。

 八坂さんはすでに着替えていて、ベージュにシンプルな絵入りTと焦げ茶色のゆるパンツがかわいい。子ライオンは尻尾を垂らし、八坂さんに背中を撫でられている。

 平面的ではなく立体的に見えるのに、そこにいるわけじゃないとはちゃんと認識できているという、何とも不思議な感覚だった。


「ごめんなさい、米田さん、北見くん。突然に電話して、お邪魔じゃなかった?」


 八坂さんは私に向かって話しかけてきた。

 切羽詰まっているという感じはない。


「ううん、今、キタミと宇宙人タクシーさんに乗って話をしていたところだから、全然大丈夫。何かあった?」

「あの……米田さんに比べたら、私の方はすごく少ないってわかってはいるんだけど」


 八坂さんが遠慮がちに話し始めた。

 どうやら八坂さんの方にも張り付いている見学者が3人はいるらしく、私と違って宇宙人の視線が気になってしまう彼女はとても困っているという。数日我慢すればすむ話だとわかってはいるものの、授業どころではなくて、それならいっそ学校を休んでしまえばなんて考えてしまうのだとか。


「そこで、私も、米田さんみたいに別の姿で登校したらどうかと思って」

「別の姿?」

「ほら、神社で舞ったあのピンクのウサギの姿よ。同調っていうのは、私にはできないけど、黒沢君と同じクラスだから同調しているように周囲を騙すことはできるんですって。それで、授業を受けるにあたって米田さんがペンギン姿で困ったこととか気を付けたらいいこととか教えてほしくて連絡したのよ」


 八坂さんがあの透明ピンクの巫女ウサギ姿で授業を受ける!? 同じクラスだから、黒沢がフォローできるのか。羨ましい。

 その話をきいて、仲間が増えるみたいで私は大賛成と思ったけれども。


「私達に車が突っ込んできたのって、管理局がいつも通り同調してる私に忘れろ電波かけといてくれれば回避できたんだよね、キタミ? 八坂さんならウサギ姿になってても、私じゃないから回避できるってこと?」


 私がキタミに話を振ると、八坂さんは驚いて前のめりになり、うっかり撫でていた手に力が入ったのかギッと奇妙な音が子ライオンの口から洩れた。


「えっ、車が突っ込んできたって、米田さん交通事故に遭ったの!? 怪我して、それでタクシーに乗ってるの?」

「違う違う。車に当たってはないから、大丈夫なんだけど、なんというか、管理局が……ね」


 私がうまく説明できずにごにょごにょと言い淀んでいると、黒沢が口を開いた。


「あぁ、さっき北見から聞いたよ。でも、米田さんも十分に逃げられる状況だったようだから、管理局が意図的に事故を回避させなかったというのは考えすぎじゃないか?」


 相変わらず管理局に甘い意見だ。


「佐保が逃げられる状態だったとしても、それを期待して回避させないのはおかしい。同調していたとはいえ、佐保は野生の人間だ。管理局のせいで、運転者が同じ野生生物である佐保を傷つけるよう仕向けるのは重大な環境破壊だろう」


 すっごく深刻な口調だけど、野生と環境破壊という言葉のせいで私の頭は理解することを放棄しそうになっていた。

 とにかく、管理局が余計なことをしたんだって理解でOK? OK??


「米田さんの事故の件は黒沢君が管理局に抗議するとして、どうしたら同じことが起こらないようにできるの?」


 八坂さんは冷静な声でキタミと黒沢の会話に加わった。

 私は疑問符ばかりで考えることを放棄しそうなのに、すんなりと話についていってるばかりか、黒沢に流れるように抗議させることを決定している。

 素晴らしいです、八坂さん。天晴、八坂さん!

 私は心の中で盛大にエールを送った。

 地球生物の未来はあなたの肩にかかっている! ファイトだ、八坂さん!!


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