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ぺんぎん・らいふ  作者: 朝野りょう
ぺんぎん・らいふ+(プラス)
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29.キタミの希望は?(3)

「どうしてって……、キタミが車にぶつかると思って……。車、来てたし……」


 私はしどろもどろに答えた。


「佐保は、俺が車を避けないと思った?」

「う……ん」


 キタミの言葉に私は頷いた。一応。

 もしかしてギリギリで避ければいいと思っていたキタミに対し、私を危ない目に遭わせないため動かないと勘違いしたのかもとか考えると恥ずかしい気がして、声が小さくなる。


「そっか。だから指輪が佐保の危機と判断しなかったのか」


 そう呟くキタミには、タクシーに乗り込む前の沈んだ様子はなくなっていた。


「確かに、事故に遭遇したいと全く思わなかったわけではないけど」


 事故に遭いたいとちょっとでも思っていたのには引く。けど。


「佐保がくれる傷じゃないならいらないよ。俺が欲しいのは佐保だけだからね」


 この言葉に、私は顔がにやけた。

 よくよく反芻してみれば、めちゃくちゃヤバい発言でしかないんだけど、宇宙人だからOK!


「俺のことは心配しなくても大丈夫だよ。大概のことなら避けられる。それに、最悪の場合でも、細胞が残っていれば復元できるんだ。だから、佐保は自分の身を一番に考えてくれな」

「そ……そうなんだね。うん、次からはちゃんと逃げるね」


 私が答えると、キタミは笑顔で頷いてくれた。

 細胞が残ってたら復元…………??? 人間のはずだけど、キタミは宇宙人だから、まあOK? うん、OKだ。

 詳しく聞くのは止めてスルー。


「佐保は……俺を心配してくれてたから逃げなかったんだな……。ありがとう、佐保」


 私の心配なんて全く意味なく余計な事だったわけだけど、キタミにそう言ってもらえると嬉しい。

 細胞が残ってたら元に戻るとしても、キタミが傷つく場面を見たくはない。また同じような場面に遭遇した時、とっさにキタミの心配をしてしまうと思う。

 でも、キタミは自分でどうにでもできると知っている今なら、私もあの事故の時と同じ行動はしない。キタミが心配しないように行動しようと思うから。


「キタミは私が車に向かって跳んだから驚いた?」

「うん、驚いた。車を破壊するわけでもなく踏んだだけで、その後、俺に飛び込んできただろ? 佐保が何をしようとしてるのか全然わからなくて、さ」


 車を破壊……できちゃったりするのかな。疑似体ボディって、どれくらい強いんだろ。ハイパワーを破棄すると、ヤバいんじゃ……。でも、ペンギンだよね? 哺乳類だよね?

 頭の中を疑問がグルグル。


「佐保が俺の腕に飛び込んできた時は、本当に胸がギュッと痛くなってさ、本当に可愛かったな」


 ん? んん?? 胸がギュッと痛く?


「俺の心配をして俺を助けようとしたから、指輪はあんな反応だったんだな。生命危機反応がなくて当然だ。今回の反応記録をもとに改善するよ。佐保が俺を心配した時は、佐保の身を護りつつ力も最大活用できるように。他に何が必要かな……」


 と言いながら照れるキタミ。

 イケメンのはにかむ笑顔は素晴らしい。非常に輝かしい。

 のではあるが、それに気を取られないようにしながら、私はひっかかっていることを口にした。


「キタミ、私がぶつかったせいで胸を強く打ったよね? 痛いんじゃない? まさか骨が折れてたりしない?」

「骨は折れてないよ」


 キタミはニコニコニコニコ満面の笑顔で答えた。

 骨は折れてない。でも、内出血は起こしているんじゃないだろうか。

 キタミが口にした『胸がギュッと痛く』という表現は、比喩ではない気がしたのだ。本当に胸が痛かったのではないか、と。


「キタミ、治療できるセットがあるんだよね? 胸のところ痛むんでしょ? 治療しよう!」

「えっ!? このくらいで治療する必要なんてないよ。ちょっと打ったくらいでは、みんな保健室に行かないだろ? それと同じだ」

「でも、キタミの治療セットだったらすぐ治せるんじゃない? 痛みを取るなら、早い方が」

「いいんだよ、佐保。痛いって、すごいよな。こう……生きてるって感じが、さ」

「……」


 私は何とも言い難く、キタミが痛くていいならまあいいかと思うことにした。

 キタミを車から避けさせようと私が突進したせいで怪我してしまったわけだけど、自分で事故を回避できたキタミに私の行動は余計なお世話で、必要のない怪我を負わせることになっただけ。

 しかし、それはそれでキタミには嬉しい怪我という……。

 私の気分は複雑だったが、飲み込むことにする。


「それにしても、今はキタミは普通の人に認識されるようになってるのに、あの運転手にはどうして見えなかったのかな? 車を降りた時、誰もいなくて助かったって言ってたよね。私もキタミも全然見えなかったみたいに」


「そういえば、俺、レベルアップしてたんだったな……」

「でしょ? 私はペンギンだったから管理局が見えないようにしてたのかもしれないけど、キタミの姿くらいは見えててもよくない?」


「そもそも人が運転する車が俺たちの方に突っ込んでくること自体がおかしい。同調している佐保がいたのに、それを回避しようとしないなんて」

「でも、運転者はよそ見してたから」


「よそ見していたからこそ、無意識に回避するべきなんだ」


 キタミはそう言うと視線を落として黙り込んだ。

 私は意味がよくわからなかったけど、キタミが黙っている間に、明日からも同調して登校したいという話をどう切り出そうか考えた。

 指輪が反応しなかったという誤解は解けたのだから、続行しても問題ないはず……。


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