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CGD5-⑦

 それから数日後、私たちはついに「エリア奪還作戦」開始当日を迎えた。


 プランβに関してはまだまだ実践レベルに至っていないことを理由に、今回の作戦においては通常の陣形でいくことは既に皆に告げてある。哀華さんはせっかく上手くいきかけていたプランβを採用しないことに関してチクチクと文句を言っていたが、あずさがこのプランに否定的である以上無理強いはできない(あずさが反対しているからとは当然皆の前では言っていないが)。故に、皆には無理やりにでも納得してもらうより他にない。


 榎並軍団長による作戦開始の合図を受け、次々と分隊が出撃していく。そして私たちも自身の出番を作戦室で今や遅しと待っていた。するとそこに小隊長である初さんが現れた。


「全員揃っているか?」

『はい!』


 いつもはチームワークにかなりの難がある第三分隊だが、さすがにこの時ばかりは全員が息ぴったりに返答を寄越した。私を筆頭に、全員が初さんの前に列を作る。


「ほう、これから敵エリアに向かうというのに、随分と堂々とした面構えだな」

「皆この日の為に鍛錬を積んできましたから」

「そうは言っても、普通なら一世一代の大一番を前にすると身体が震えだしてきてしまうものだ。やっぱり、お前たちは大物ぞろいだな」


 初さんは私たちを見渡しながら笑った。

 初さんには緊張していないように見えたのかもしれないが、正直言うと、私は昨日の夜は緊張のせいで一睡もできていなかった。我ながら情けないが、肝っ玉の小ささならここの誰よりも自信がある。あくまでも、今の私は緊張に飲まれないように虚勢を張っているに過ぎないのである。


「さて、冗談はこれぐらいにしようか。そろそろ我々も出撃だ。全員心してかかれ! そして必ず、生きて帰ってこい!」

『はい!』


 初さんの激励に再び全員が声をそろえて返事する。私が今一度全員の顔を見渡すと、全員私に対して頷き、覚悟のほどを示してくれる。ここで私だけが怖気づくわけにはいかない。私は表情を引き締めなおした。


 ロイエ本部の建物の正面の広場に出ると、既に第五小隊の第一分隊、そして本作戦においてタッグを組む予定の第四分隊の面々の姿があった。


「おはよう小鳥遊さん。緊張しているかい?」


 案の定と言うか、話しかけてきたのは第四分隊の三笠さんだった。三笠さんはニヤニヤと笑いながらそんなことを言う。はっきり言ってウザいことこの上ないが、もしかすると私の緊張をほぐそうという意図があるのかもしれないから、一応ちゃんと返事はしておくことにする。


「大丈夫です。これぐらいで緊張していては指揮官は務まりません」

「ほう、相変わらずだな。俺は昨日は興奮して一睡もできなかったぜ」


 カラカラと笑いながら彼は言う。なんか、この人と同じ状態だったのは非常に嫌だ……。


「眠れなかったんですか?」

「ああ。ついに念願の作戦に参加できると思うと武者震いがしちまってな」

「うちの指揮官は緊張しているだけですよ」


 口を挟んできたのは黄色のリボンで髪の毛をポニーテールにした第四分隊の女性隊員であった。彼女は三笠さんを小馬鹿にしたように笑っている。


「あ、藤乃こら!? なに適当なこと言ってんだよ!?」


 それに対し猛抗議する三笠さん。藤乃さんは真面目に取り合うことなく「ホント見栄っ張りですね」と再び彼を弄った。


「まあ、流石に緊張しますよね」

「だ、だからしてねえって! こいつの言うことなんて信じなくていいから!」

「小鳥遊さん、この人の言うことこそあんまり真面目に聞かなくても大丈夫ですからね」

「なんだとこの野郎!?」

「あはは……」


 それからもなお三笠さんと藤乃さんの漫才のようなやり取りは続いた。

 とてもこれから死地に向かうとは思えない雰囲気の二人に少し呆れながらも、私自身の緊張が少しほぐれていたことに気が付き、私はこっそり心の中で二人に感謝したのであった。


 装甲車に揺られてレベルCを目指す。私たちがこれから突撃するのは、二十年前までは「渋谷」と呼ばれ、若者たちに人気のエリアであった。多くの人で賑わっていた歓楽街も、今やエーテルが我が物顔でのさばる死の街となってしまっていた。

 それでも、レベルCはエーテルの出現頻度は比較的低い方のエリアだ。エーテルの根拠地である「東京駅跡」などがあるレベルAに行けば、それこそ休みなくやつらに襲われることになる。将来的にはそこを攻めなければならないことを考えたら、レベルCぐらいで恐れていては先が思いやられるわけだ。


「そろそろレベルCに到着します。みなさん、出撃の準備をお願いします」


 装甲車のドライバーがそう言うと、瞬間的に皆の目の色が変わった。

 皆は既に臨戦態勢だ。私も遅れを取るわけにはいかない。

 焦る必要は全くない。VR訓練や普段の戦闘を思い出せ。何も特別なことなどない。大丈夫だ、必ずやれる。そう私は自分に言い聞かせた。


 装甲車を降りた私たちの視界には一面破壊されたビル群が広がる。私はかつて人間の営みが行われていた頃に想いを馳せる。これだけの規模なら、今の新宿にも決して引けを取らない。恐らく、人の往来の絶えない賑やかな街だったのだろう。

 これだけの大都市を奪われたままでいいわけがない。この戦いでここを必ず取り戻し、人類の反攻の足掛かりにしてみせる。


『小鳥遊、皆の準備はいいか?』


 すると、不意に初さんから私に通信が入った。私は残りのメンバーの様子を見て、問題なさそうであることを確認し、

 

『いつでも大丈夫です』


 と、答えた。


『よし、では作戦開始だ!』

『了解!』


 そしてついに、私たちの「エリア奪還作戦」が幕を開けたのであった。



 開始の合図とともに前衛の二人が一気にエリアの奥に向かって駆け抜けていく。その後を哀華さんが一定の距離を保って走り出し、佑紀乃さんはすぐに付近の高いビルへと登っていく。

 皆には既に相当量の魔力石を持たせてある。魔力石の持続時間は三十分程度はあるが、その間少しでも魔力石がもつなら、あずさの魔力石転送の負担が軽減され彼女が攻撃に参加する時間も長くなる。プランβが採用できずとも、彼女には積極的に戦闘に参加してほしいというのが私の作戦の根幹にはあるのだ。


『真昼ちゃん』


 すると早速前衛である守さんから通信が入る。


『どうかされましたか?』

『現在作戦開始地点より前方に100メートル行った地点だけど、エーテルを数体見つけたよ。数は四体だね』


 先日のVR訓練で一気に二十体以上が現れたことを考えると、四体はまだまだ少ない数と言える。だが数は少なくとも油断は禁物だ。これだけ構造物があれば、やつらがどこか物陰に潜んでいる可能性はまったく否定できない。早々に危険の芽は摘んでおく必要があるだろう。


『了解しました。いつも通り、遠慮なくどんどん攻撃してください』

『分かった! 任せて!』


 私の言葉に元気よく返事をしてくれる守さん。彼女がいつも通りの雰囲気であることに私は少し安心する。守さんたちが普段通りの力を発揮できれば、レベルCを突破することはそこまで難しいことではないはずだ。もちろん、油断だけは一番してはならないことではあるが。

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