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CGD4-①

 私が第三分隊の指揮官に就任してから数日が経過したある日、ロイエ本部の32階の大会議室にて、ロイエの軍団長である榎並真咲より、「第二次エリア奪還作戦」の作戦概要の説明が正式に行われていた。大会議室に全員が入ることは不可能であることから、大会議室に来ていたのは第三分隊の中では私と守さんの二人だけであった。残りの皆は第三分隊の作戦室のモニターに映し出されている映像を固唾を飲んで見つめているはずだ。

 ちなみに今回の作戦概要説明には各エリアのお偉いさんも出席しているらしく、大会議室内はかなり重苦しい雰囲気に包まれていた。

 作戦の内容については既に大方を初さんや職員の人から聞いてはいたが、改めて軍団長から伝えられるとなると、より身が引き締まる思いになる。


「私たちも作戦に参加できますかね?」


 私は周りに聞こえないように、隣に座っている守さんにそう尋ねた。


「どうだろうね、うちは指揮官も変わったばかりだし際どいところだね」

「そうですか……」

「まあでも、隊としての実績はこの短い期間で多少は作ることができたし、なにより真昼ちゃんが指揮官に就任した以上上層部はかなり期待をかけているはずだから、参加できる可能性は十分あると思うよ」


 守さんが言うように、この数日の間に私たちは何度か浄化作戦に参加し、実際に戦果をあげていた。誰一人負傷しないだけでなく、早々に作戦が終了した場合は、他のエリアを担当する分隊の援護に行ったりもした。


「私に関してはどう評価されているのかあまりよく分かりませんが、守さんの突破力、そして琥珀さんの圧倒的な破壊力は他の人の目にも止まっていると思います」

「ありがとう。それにしても相変わらず真昼ちゃんは腰が低いよね。もっと自分に自信を持ってあげてもいいと思うけど。私らが前線で戦えるのは真昼ちゃんのお陰なんだし」


 守さんはそう言って私に笑顔を向けてくれる。守さんは本当に優しい。こうやって私が自分に自信がなさそうにしているといつもこうやって励ましてくれる。せっかくこう言ってくれるので、私ももう少し胸を張ろうともするのだけど、この一年半で染みついてしまった負け犬根性はなかなか払しょくすることもできず、素直に自分を誇ることができていないのが実情だった。


「まあでも、そうやって周りの人を立てられるのは真昼ちゃんの特技でもあるし、私も気持ちよく喋れるから無理して止めなくてもいいんだけどね」

「そ、そうでしょうか?」


 守さんや琥珀さんの実力は自明だし、哀華さんも普段はあんなだけど戦闘においてはその行動範囲の広さで各方面に救援を行えるし、佑紀乃さんは相変わらずの射撃力で的確に敵を沈めてくれるし、そしてあずさの鉄壁の防御は私へのエーテルの攻撃を完全にシャットアウトしてくれていた。そんなメンバーを凄いと言うことは私にとってあまりに当たり前で、守さんの言うように周りを立てようという意識があるかと言われると、私自身その自覚は正直あまりないのが実際のところであった。


「ま、ちゃんと実績を作れれば自然と自分を誇れるようになるだろうし、あまり焦らなくてもいいかな」


 守さんはそう言うと、再び軍団長の方へと向きなおった。それを見て私ももう一度軍団長の話をしっかり聞こうと意識を集中させた。


『本作戦では250の精鋭部隊を、まずは一番エーテルの攻勢の弱いレベルCに派遣し、早期にエリア奪還を達成する! そしてその暁には……』


 本作戦では、第三ブロック内の720ある分隊の内、その約三割である250の分隊を作戦に投入する訳だが、攻撃を強化する反面守りが手薄になるリスクを孕んでいることは明白だ。中には都市部を危険に晒すリスクが上がることに対し否定的な意見を持つ者もいる。だが、リスクを取らずして何かを得ることなどできはしない。私は大方の人々と同様に、エリア奪還の為には危険を冒すことも止む無しであると考えていた。もちろんそれは第三分隊の皆も同じだ。


 昨日、作戦の発令を前にして、私は改めて皆に本作戦についての意見を求めた。


 それに対し琥珀さんは「ここで退くことなどあり得ない」、哀華さんは「逃げるくらいなら死んだ方がマシよ」、佑紀乃さんは「これだけの作戦をやるならある程度の犠牲も仕方ないんじゃない?」、あずさは「わたしはまーちゃんと同じ意見だよ」と答えた。そして最後に、守さんは全員に向かってこう言った。


「ここでこの作戦に臨まなければ、いずれもっと多くの人命が失われる可能性がある。それにそもそも、私たちはこの時の為に牙を研いできた。この戦いを回避することは、私たちの存在意義を放棄することと同じよ」


 守さんの言葉に、普段は素っ気ない態度をとる琥珀さんもこの時ばかりは首を縦に振っていた。

 みんなの言葉を聞き、みんなの覚悟は痛いほど伝わった。私もつい先日ロイエに参加したとはいえ、元々はこの世界の為に戦うことを夢見ていた人間だ。エーテルとの全面戦争を前にして怖じけずいたりはしない。それに、人類に平和を取り戻すことはあおいの悲願でもあった。彼女の想いを継ぐ者として、この作戦は必ず成功させる。私は改めて胸に宿した炎を燃え上がらせた。


『以上が本作戦の概要だ! 本作戦に参加する隊も、留守を預かる隊も、全ての隊が人類の命運を握っていることに違いはない。全員、心して本作戦に臨め!』


 軍団長の気合の入ったスピーチに、大会議室内の全ての人間が例外なく気合の雄叫びを上げた。

 こうして、『第二次エリア奪還作戦』は発令された。人類の自由と栄光を取り戻す史上最大規模の戦いがついに幕を開けたのだった。

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