CGD3-③
そしてそれから、もう一人の問題児、琥珀さんについてのことが話題の中心となっていった。
「宮藤さんは渡真利さんと違ってみんなに突っかかってくることはないよね」
「そうね。ってか琥珀さんの場合は、人との関わりを避けてるって感じかな。同じ前衛としては、もう少し色々と話したいとは思ってるんだけどね」
戦闘においては連携がなにより大事であることは疑いようがないことだ。本来であれば綿密な打ち合わせをして息が合うようにしたいはずなのに、それを避けられてしまってはどうにもならない。それはチームの指揮を執る人間として看過できることではなかった。故に、私はこう提言した。
「私が一度琥珀さんと話してみます」
「真昼ちゃんが?」
「はい。もちろん、恐らく私みたいな新参者には簡単に心を許してくれないことは分かっています。しかしそれでも、指揮官としてこの状況は見過ごすことはできません。少しでも戦いに臨みやすい環境を整えること、それが指揮官である私の役目であると思いますから」
決して勝算があるわけではない。それでもこのポジションに就いたからには、隊員から目を背けてはいけない。どれだけ難攻不落であろうと必ず真正面から向き合う。今の私はその覚悟ができていた。
すると、ずっと私たちの話に耳を傾けているだけだったあずさが口を開いた。
「でも、まーちゃん一人じゃきっと大変だと思うな」
「そりゃまあ大変だとは思うけど、これは指揮官として避けては通れないことだから」
「それは、確かにそうなんだけどね……」
なにやら歯切れの悪いあずさ。あずさは上目遣いで私を見やると、躊躇いがちにではあるがこう言った。
「わたしも、まーちゃんを手伝いたいなって。わたしも、これまで二人とはちゃんとお話出来てなかったし、もっと状況がよくなるように行動すべきだったと思うし……」
さっきから私の顔を窺っていたのはそう言うわけか。まあ、あずさならきっとそう言うのではないかと思ってはいたのだが。
幼馴染として、協力すると言ってくれるのは嬉しいことだ。だが、これはやはり指揮官である私の仕事であると思う。あずさはただでさえ日々の訓練で疲れている。そこに更に人間関係の負担はかけたくない。正直な話、あずさを矢面に立たせるような真似はしたくなかった。あずさは戦いで私を守ってくれている。ならせめて、それ以外の面では、私があずさのことを守りたいと思ったんだ。
「あずさの気持ちはすごく嬉しい。でもこれはあくまで指揮官としての仕事だから。あずさは戦いに集中していてくれればいいから」
「で、でも、わたしは、まーちゃんの力になりたいよ。だから……」
「いやぁ、お二人は実にお熱いですなぁ」
思わぬ茶々を入れてきたのは佑紀乃さんだった。私は思わず佑紀乃さんを見やると、佑紀乃さんはまた気の抜けた笑顔をしてみせたのだ。
「そ、そういうんじゃないですけど……」
「ええ、いいじゃん、こんなに友達想いの子が幼馴染なんて羨ましい限りだよ」
「そこは、否定しませんけど……」
私がそう言うと、やはりと言うべきか、あずさは顔を赤くさせて視線を左右に揺れさせていた。すると、今度は守さんが口を開いた。
「真昼ちゃん、あなたの気持ちはよく分かるけど、こういうのはみんなで協力してやるものだよ。頑張ろうとしてくれるのは嬉しいけど、独りで無理しちゃダメ」
「う……」
守さんにまでそう言われてしまうとなかなかに辛いものがある。私は視線をあずさに向けると、
「守さんもそう言ってますし、ね? 一緒に頑張ろうよ」
あずさはそう言って笑顔を向けた。いつも思うが、この子の笑顔は反則だ。そんな顔を向けられたらこれ以上私が抵抗できないことを知ってわざとやってるんじゃないかと思うほどだ。私は思わず頭を掻きむしりつつも、「わ、分かったわよ……」と同意を示すより他になかった。
ここでふと思ったのだが、いったいあずさはいつから、私のことになるとここまで意固地に意見を言うようになったのだろうか? あおいが生きていた時は、確かそんなことはなかったような気がするのだが……むしろいつもあおいや私の後ろに隠れていることの方が多かったくらいだし。
私はまたチラリと視線をあずさに向けると、あずさはジッと私のことを見つめていた。その視線からは、意地でも私一人に負担をかけないという強い意志が感じ取れた。しかし、心配してくれるのはありがたいのだけれども、私はあまり頼りにされていないのではないかといったモヤモヤとした気持ちが残っていたこともまた事実だった。と、そんなことを思っている時だった。
「ところでさあ……」
佑紀乃さんが唐突に話題を変えていた。たいして長い付き合いではないながらも、こういう突拍子もないところは実に佑紀乃さんらしいなと思った。
「この間の戦いで初めて真昼ちゃんの魔術を見たんだけど、あの能力っていったいどうなってんの? あの短時間であれだけの量の魔力石が送られてきたことなんてなかったから正直びっくりしちゃってさ。真昼ちゃんって昔から魔力生成が得意だったの?」
佑紀乃さんの疑問に対しあずさが答える。
「まーちゃんは、魔術の訓練を始めた時から凄かったんですよ」
「だよね! あれだけ素早く、しかも長時間にわたって魔力生成をやるもんだから驚いちゃったよ!」
当時のことを思い出したのか、守さんも少しテンションを上げてそう言った。確かに、当時訓練していた仲間内でも話題にはなっていたし、私自身もこれであおいに近付けると誇らしく思っていたのも事実だった。
「そうなんだぁ。身体もそんなに大きくないのに、よくそれだけ体力が持続するよね?」
佑紀乃さんが言うように、確かに私の身長はこの四人の中でも一番低いし、世間一般でも小柄な方だろう。そんな私がなぜあそこまで魔力生成が持続するかは、はっきり言って自分でもよく分かっていなかった。
私が初めて魔術を使用したのは中学三年生の時だ。あの時も、特に何かを意識したわけでもないのに、無限に身体の奥から魔力が溢れ出すような感覚があって、私はすぐに相当数の魔力石を生成することに成功した。
周りの人たちはそれには本当に驚いていた。もちろん私だって驚いた。それまで私は魔術の訓練をあおいに止められていた(彼女がなぜ私に頑なに魔術訓練をやらせなかったかは分からないけど)。そのあおいが亡くなり、私は彼女の想いを継ぐ為に魔術を始めた。その第一歩があまりに順調だったので、私は人知れず歓喜したものだった。
――努力を惜しまなければ、あなたはきっと立派な魔術師になれるわ。
その時、私の中では幼いころに出会った白い髪の女性の言葉が想起されていた。あの人の言っていたことは間違いではなかった。だからきっとこの調子で魔術変換も上手くいく。その時の私は心踊る思いだったのだ。




