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CGD2-②

 あの夢を見たのは随分と久しぶりだったような気がする。1年半前に魔術に脇目も振らずに打ち込んでいた時にはよく見ていたような気はするけれど、魔術訓練から逃げ出してからはめっきり見なくなっていたような気がする。


 ちなみに今日は、私が「指揮官代行」として戦場に初めて飛び込んだあの日から4日後の11月25日の金曜日だ。

 私はあの日、魔力石を体力の限界以上まで生成し、守さん率いる第三分隊の担当エリアにおけるエーテルの全滅を見ずして意識を失ってしまった。その後私が目を覚ましたのは、戦いから2日後のことだった。


 私が入院していたのはロイエ本部内にあるメディカルセンターだった。そこの医師によると、どうやら私はもう少し魔力石の生成を続けていたら命の危険すらあったのだとか。私はその医師から「もう二度とそんな真似はしないでください」とお叱りを受けてしまった。

 ベッドにはあずさがずっと付き添ってくれていた。私が目を覚ますと、あずさはいの一番に私に抱き着き、大粒の涙を流した。目を覚ましたばかりの私は自分の置かれている状況がすぐには理解できなかったが、彼女にどれほどの心配をかけてしまったかだけは理解できた。私はまだはっきりしない意識ながらも、ぎゅっと私を抱きしめるあずさを同じく強く抱きしめ返したのだった。


 その後、私の体調がほぼ全快すると、私の元にロイエの職員がやって来た。彼は指揮官不在の中私が「指揮官代行」の任を担ったことで作戦を遂行できたこと、そして第三分隊にあれ以上の被害が出なかったことに対して感謝を述べた。そして更に、今回の結果を踏まえ、改めて私にロイエに入隊してほしい旨を伝えた。

 ロイエからの入隊要請は担任の中林先生から何度も聞かされてはいたが、実際に本物の職員から言われるとやはり重みが違うような感じがした。どちらにせよ、あの戦いに身を投じたからには要請がなくてもロイエには入隊するつもりだったので、私は躊躇いなくその要請に応じることにした。


「本当に、まーちゃんはロイエに入るつもりなの……?」


 以前から私が戦うことには否定的だったあずさは、入隊の意思を告げた私に対してそう問うた。「まーちゃんが心配です」と顔にはっきり書いてあって申し訳ない気持ちも湧き上がりはしたが、それでも、今度こそはもう意思を曲げたくないと思った。


「もう決めたことなの。これ以上逃げることは私にはできない……だからどうか、あずさには、許してもらいたいな」


 私がそう言うと、あずさは首を大きく横に振った。


「べ、別に駄目って言ってるわけじゃないよ! まーちゃんが決めたことは、できれば尊重したいし、私が許すとか、そういうのは関係ないっていうか……と、とにかく! ロイエに入ることが、まーちゃんの想いなら反対はしないよ! だから、それだけは、しっかり知っておきたいなって思ったの!」


 それでも、決して無理だけはしないでねとあずさは付け加えた。私もこれ以上あずさに心配をかけることは本意ではなかった。だからせめて、この前の戦いみたいに自分を追い込みすぎて死にかけるような真似だけはしないように、もっと魔術を磨くことを決意したのだった。


 かくして私のロイエ入隊が決まった。母親は覚悟はしていたらしく「あんたが決めたことならそのまま進みなさい」と背中を押してくれた。中林先生は「今更こんなことを言うのもアレだが、逃げたくなったら逃げていいんだからな。逃げたところで誰もお前のことを恨む資格なんてないんだから」と若干目に涙を溜めてそう言ってくれた。私にロイエ入りを無理強いしたことを、先生は悔やんでいるようだった。


 十人十色のエールを受けつつ、私はロイエ入隊に向けて急ピッチで準備を進めた。今や、エーテルとの戦いには一刻の猶予もない。すぐさま入隊に関する手続きが行われ、入隊式の日取りが確定した。

 その夜、珍しく母親が早めに仕事をあがり、あずさと二人で私の壮行会を催してくれた。あずさはお祝いと言ってたくさん美味しい料理を作ってくれた。

 22時近くになって壮行会が終わり、翌日に雨の予報が出ていたこともあり、私はあずさを送るついでに近所のスーパーまで買いものに行くことにした。外はすっかり身体の芯まで凍らせるような強い風が吹き荒れていた。この調子だといつ雪が降ってもおかしくないなと思っていると、


「ほんと寒いよねぇ」


 あずさが身体を寒さで震わせ、手袋をしていない手に息を吹きかけているのが目に入った。かくいう私は寒がりなのもあり、しっかり両手に手袋をはめ込んでいた。

 あずさは私の為に遅い時間まで付き合ってくれたんだ。学校から帰るとすぐに料理に取り掛かり、手の込んだ料理を沢山作って振舞ってくれた。そして、私があまり気張らないように努めて明るく接してくれたのだ。


 そんな幼馴染の温かな心遣いが嬉しかった。その一方で、その優しさに対し何も返せないことが堪らなく嫌だった。あずさはそんなのはいらないと言うだろう。だけど、あずさの優しさに甘え続けることは人としてどうかと思うし、何より私の心がそれを許さない。もらったものは返す、というより、単純にあずさが嬉しくなるようなことをやってあげたいというのが偽らざる本音であった。

 だが、私の脳みそは些か創造性に欠けるようだ。自分も女のくせして、女の子がどんなことをすれば喜んでくれるのかがいまいちわかっていなかったんだ。花でもあげるか? それとも、美味しいスイーツでも買ってあげるか? どっちも多少は喜びそうではあったけど、なんだか単なる消去法のような気がして、私はあまり気乗りしなかった。もっとあずさが喜ぶことを考えたい。あずさが満面の笑みを返してくれるようなことをしてあげたい。いつしか私はそんなことばかり考えるようになっていたんだ。

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