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CGD1-⑪

 私とあずさは、まず守さんの元へと向かった。あくまで分隊のリーダーは指揮官である拓馬さんだが、拓馬さん亡き後現在の実質的なトップは守さんになるはずだ。つまり、私が正式に「指揮官代行」となる為には守さんの承認が必要となるわけだ。


 既に雨は止んでいる。しかしいつまた雨が降り出すかは分からない。私はあずさから「防護膜」の魔力石を受け取り、それを全身に纏わせる(これの発動に魔術変換は必要ない)。これがあればしばらくの間は死の雨からこの身を守ることができる。

 ちなみにこれはロイエの隊員のみが使用できるものであり、「防護膜」を使用できない一般人には雨の中を行動する手段はない。要は、エーテルと戦う戦士のみが死の雨の中での行動を許されているということだ。


「ちょっと! こんなところに一般人連れてくるなんて何考えてんのよ!?」


 不意に後方から誰かの怒鳴り声が響き渡る。振り返るとそこには、短めのポニーテールに、赤い縁がついた眼鏡を掛けた女の子の姿があった。ここにいるということは、彼女もあずさのチームのメンバーなのだろうか?


哀華あいかさん、ちょっと事情があってね。この人を今から守さんのところに連れて行きます」

「は? 事情ってなに? 指揮官が死んだのよ? 今はそれどころじゃ……」

「その為に彼女を連れてきたんです。悪いけど哀華さんも来てください!」


 哀華と呼ばれた女の子の手を引くあずさ。哀華さんは納得していないようだけど、あずさは気にせず走り出す。あずさは普段はおっとりしているのに、こういう時に躊躇いなく行動できるところがかつてのあおいに似ていると、私は密かに思った。


「守さん! 遅くなって申し訳ありません!」

「あずさちゃ……って、真昼ちゃん!? どうしてあなたがここに!?」


 向こうのビルから飛び移ってきた守さんが私の姿を見つけると、彼女は途端に驚愕の表情を浮かべる。さっきの哀華さん同様、いきなり一般人がこんなところに現れたら驚くのは当然ではあるけれど。


「落ち着いてください守さん。彼女をここに連れてきたのは他でもありません。まーちゃんの……いえ、真昼さんの魔力生成の実力、守さんは知っていますよね?」

「……それは、一緒に訓練もしたし知ってるけど、でも、真昼ちゃんは……」


 守さんは恐る恐る私の表情を見やる。彼女は私が「魔術変換」の能力がないせいで、魔術の訓練をやめたことを知っている。それだけに、私が今ここに「魔力生成」を行う為に来たことが信じられないのだろう。


「いいんです、守さん。今が緊急事態なのはよく理解しています。この状況で個人的な気持ちを優先している場合じゃないと思ったんです。だから、私に『指揮官代行』をやらせてはもらえないでしょうか?」


 私の提案にまたしても驚愕の表情を浮かべる守さんと哀華さん。向こうでは佑紀乃さんと、もう一人の隊員の人がエーテルとの戦闘を繰り広げている。この状況で、これ以上の猶予がないことは明らかだった。

 再び守さんへと視線を移す。彼女は僅かながら思案を巡らせているようだったが、やがて意を決したようにこう言った。


「……分かった。あなたの力を借りるわ」

「ちょっ!? 正気なのあなた!?」

「もちろん正気よ。私だって、本来であれば一般人である真昼ちゃんを巻き込むべきではないと思う。でも、今は一刻を争う時よ。それに、彼女であれば、上層部は誰も不満には思わないでしょうからね」

「え? それってどういうことよ?」

「それは見ていればわかるわ。悪いけど、哀華ちゃんは二人の援護に行って。さすがに二人だけでは持ちこたえられないから」


 哀華さんはなお納得していない様子だったが、緊急事態であることを理解しているからか、不満げな顔のまま二人の援護へと向かっていった。それを見届け、守さんが再び私の方へと向き直る。そして深々と頭を下げてこう言った。


「こんなことになってしまって本当にごめんなさい。大変なお役目だけど、よろしくお願いします」

「あ、頭をあげてください! 守さんが謝ることじゃありません。それに、遅かれ早かれ、私は戦うことになっていたと思います。だって私自身も、これ以上何もしない自分を許すことなんてできないから」


 言い方は悪いが、今回の一件が私の背中を押してくれたと言っても過言ではないんだ。このまま目の前で戦いを目の当たりにしなかったら、私はこれまで同様ずっと戦いから目をそらし続けていただろう。前衛に立てない自分に価値なんてないと、自分を卑下しながら死んだように生き続けなければならなかっただろう。

 この戦いに参加して、生きて帰れる保障なんてどこにもない。現に指揮官であった拓馬さんは私の目の前で殺された。それでも、私はこの戦いに参加することに後悔はない。とてもあおいと同じ土俵に立てたとは言い難いが、それでも彼女の背中くらいなら見えてもおかしくないはずだから。


 それから手短ではあるが「指揮官」として私がやるべきことを守さんとあずさが教えてくれた。

 私の今回の役割はただ二つ。「魔力生成」を行い、魔術の源である魔力石を作り続けること。そして二つ目は……


「死なないことよ」


 恋人である拓馬さんを失い、それでも感情を表に出さないようにしている守さんではあるが、この時ばかりは表情をかなり険しくさせた。私は黙って頷いた。


「大丈夫、まーちゃんはわたしが絶対守るから」


 あずさが力強い声で言う。それを受け、守さんも大きく頷いた。

 役割はシンプルだ。もちろんこれは、あくまで「指揮官代行」である私に本来の任務である作戦指揮は期待できない為の苦肉の策だ。しかし、それすらも私には簡単なことではない。それでもやらなければならない。誰かがやらなければ、ビル内にいる人々は皆殺しにされてしまう。それだけは絶対に許さない。私自身も人々を守りたいし、それに、あおいが命を賭けて守ってきたものを簡単に壊させるわけにもいかない。


「それじゃ行くよ! 真昼ちゃん、よろしく頼むね!」

「はい!」


 力強く返事をする。大きな声を出したおかげで、僅かにあった身体の震えが消えた。今ならやれる。私はそう確信した。

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