第51話:元村人Aたち、馬車で逃げます。
「アラン! こっちはあらかた片付いてきたよ!」
レイウスがこちらに声を送る。前線では金属同士がぶつかり、爆発など激しい攻防の音がする。
「助かる!」
俺は『クラフト』で壁を作り、医療班の保護に当たった。後ろではニーナがルリアさんと慕っている人がアリシアの回復を行なっている。
「ニーナちゃん。この人は知り合い?」
「はい。私を買った人です」
「……ニーナちゃんを買ったですって!?」
「人聞きの悪いようにいうな!!」
そんな風に言ったら怪しいおじさんみたいじゃないか! が、そんな悠長なやりとりをしている場合でもないのでそれ以上言うことはしなかった。
ホール内の全てのゴーレムたちを討伐し、皆がこちらに集まってくる。
「皆。聞いてくれ。さっき衛兵長から通信が来た」
「ヴィルヘルム兵長からか! なんだって?」
レイウスが聞く。
「あの巨大ゴーレムの目標がアリシアに変わったから、アリシアを出来るだけ遠くに逃すんだとよ!」
「私をか」
アリシアが後ろで座って治療を受けながら、返事をする。
「それなら私を置いていったほうがいい。犠牲は少ないほうがいいに決まってる」
「馬鹿か! ここでお前が死んだらどうせあいつは街も破壊し尽くすに決まってるだろ!」
「じゃあどうすればいいんだよ?」
アンジェラが口を挟む。
「とにかく逃げるぞ。逃げながら考える」
「ええー。見切り発車とかいうレベルじゃないんだが」
「……アンジェラ。黙って」
「セシア!?」
俺の発言にいちゃもんをつけるアンジェラをセシアが黙らせる。
「アラン。馬車は怪我人を運んだやつにしよう。あれに皆で乗っていくんだ」
レイウスが言ったその時、地響きが走って大きく地面が揺れる。
「今はまだ衛兵たちが食い止めてる。時間があるうちに、行こう!」
レイウスの発言に皆が動き出し、俺が馬に乗って走り出した。
鎧の巨人ゴーレムは俺たちが馬車で逃げ出しているのを見て追いかけてくる。
門を無理やりくぐり抜け、ゴーレムとの距離は50メートルほど広がった。
馬車にはセシア、アンジェラ、ニーナ、ルリア、レイウス、アリシアが乗っていて、馬に乗っているのが俺だ。
「この馬車って時速何キロくらい出てるんだ!?」
「まだ六人しか乗ってないからね! 百キロは優に出てるはずだよ!」
なんで大人を六人も載せて百キロも出るのか理解ができなかったが、それはただの馬ではなかった。
「聖馬アルバリオン。モンスターには分類されてないだけで馬の中でもとてつもない力と体力を持った強力なやつだよ!」
真っ白な毛色に整った毛並み。何より特徴的なのは水色の目だ。なんか生まれ持ってきました! って感じがしてムカつくが、今はこいつを頼りにするしかない。
蹄が地面にぶつかり車輪がゴロゴロと鳴る。ゴーレムが歩くたびにズシンズシンと地面が揺れる。
「ダメだ! あいつの方がちょっと速いぞ!」
アンジェラが叫ぶ。
「多分あと三分もすれば追いつかれるペースだね」
レイが目測で時間を割り出す。
「ええーい! しゃらくせー! オレは勝手にやらせてもらうぜ!」
「……手伝うわ」
セシアとアンジェラが立ち上がる。ふたりはスゥッと深く深呼吸をする。
すると体の周りにセシアは赤、アンジェラは青のオーラが現れ始めた。炎のような揺らめくオーラだ。
「「『魔力増強』」」
ふたりがスキル名を呟くと、オーラがひと回り大きくなる。
「『業火の旗印』」
「『氷結の花束』」
ふたりがスキルを発動すると、セシアは胸の前から掲げた掌から半径三メートルほどの柱、と呼べるほどの炎がゴーレムの右足めがけて放たれ、アンジェラは体勢を低くして馬車の床に手のひらをつけると、ゴーレムの左足がたちまちに凍りついた。
ひとたまりもなくゴーレムはバランスを崩し、地面に倒れ、這いつくばることになった。
その巨体が一気に地面に倒れることで、まるで大樹が切られ、倒れたような衝撃が地面に走る。馬車も一瞬浮いたが、なんとか着地することができた。
「ふたりともナイス! なんだ今のは!?」
セシアが見ない間に急成長を遂げていて素直に驚く。
「オレが教えた魔力増幅スキルの恩恵だぜ! 感謝しな!」
アンジェラがドヤ顔で言う。
「これでゴーレムは文字通り足を失ったから追いかけてくることはできないはずだが……」
ゴーレムが倒れて上がった土煙がだんだんと消え、姿が見え始めてくる。
「馬鹿な!?」
レイウスは思わず声を上げて立ち上がる。
「どうした!?」
俺は何が起こったのか気になってレイウスに聞く。
「足を再生し始めている……」
「「「えぇ!?」」」
俺とアンジェラとニーナが叫んだ。残りのメンバーは寡黙である。
「しかし、何もないところから足を再生させるとすると魔力が必要だ。自分の中の魔力を使えば弱体化はするだろう」
アリシアが口を開く。
「おいおい、もう私たちまともに魔法なんか撃てないぜ?」
アンジェラたちも不安そうに言う。
「だ、大丈夫です! おふたりの魔法が効いて半分くらいのサイズになるかも!」
ニーナが場を勇気づけるために言う。
「ニーナたんが頑張ってる! グハッ!」
「先生ー。ひとりゴーレム関係ないところで鼻血出てる人がいますー」
ルリアがいつものように鼻血を出すと、アンジェラが突っ込む。
その時、通話石からノイズが流れた。
「カインだ。聞こえるか?」
うっすらとカインの声が聞こえる。
「カインさん! 聞こえてる!」
俺は急いで返事をする。
「よし! そっちは大丈夫か!?」
「ダメだけど、誰も怪我はしてない!」
「そうか。それはよかった」
カインは安堵する。
「こちらの街のゴーレムは突然すべて機能停止した。そっちはどうだ?」
「え? 全然こっちはピンピンしてるけどな。なんで……」
「あ」
そこまで自分で言って気がついた。街のゴーレムたちが市民を襲っていた理由。魔力を吸い上げていた理由。
「まさか小ちゃいゴーレムが集めた魔力であいつの足を治してるなんてことないよな?」
俺は焦りながら馬車のみんなに聞く。
「「「「「ある。」」」」」
ニーナ以外全員が口を揃えて言う。
「ちくしょーーー!! なんでそうなるんだよ!!」
「落ち着け! アラン。アトラスを倒す算段は整ってるか?」
アトラスというのはあの巨大ゴーレムの名前だろうか。あんなチート級のモンスター、倒す算段は…
「方法はある。やれるかどうか」
俺がそう言うとカインがニヤッと笑った気がした。
「そりゃよかった。じゃあ、健闘を祈……」
距離が離れすぎたのか効力を失ったのか、通話はそこで途切れた。
「アトラスとの距離は三百メートルは付いた! だがそろそろ動き出すぞ!!」
レイウスが俺に向かって言う。
「さっきのスピードであいつが俺たちを追ってきたらどれくらい保つ!?」
「10分から20分はいけるはずだ!」
「なら大丈夫だ!」
振り返ると遠くでゴーレムがまた進んできているのが見える。俺たちはガタガタと音を立てる馬車の中からそれを見守った。




