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PURGEー80 流応間!!

 相対する二人が、お互いに次の攻撃で決着を付ける宣言をした。会場中の空気が二人の構えに静まり返り、別室の三人も注目していた。


「二人共、次で決めるって!」

「木花小隊長はともかく、貴方方のところの小隊長まで宣言を! 何かのハッタリですか?」


 信乃の言葉に疑念を抱くレジア。あまり接した事のない人物ならそう考えるのもおかしくないが、普段一緒に暮らしている黒葉とリドリアは、宛はないながらも確信していた。


「いや、何かあるわ。きっと……」


 リドリアが声に出してレジアに反論する中、黒葉は信乃の事はもちろんながら、同時に音尾の事も意識していた。

 音尾は黒葉に会った時、心から嬉しそうにしていた彼女。あの事件以降、ずっと自分の事を思ってくれていたのだと、黒葉は今更ながら知れた。


 そんな彼女が自分をこんな形で求めている事に、何か理由があると思っていたのだ。


(信乃さん……木花さん……)


 闘技場での二人は、お互いを睨み合ったまま動かない。本当の時間はわずか数瞬の事なのであろうが、周囲の人物はこれを長時間に感じた。


 沈黙がいつまでも続くかと思われたこのとき、微かな膝の曲がりから、ついに音尾は動いた。

 持ち手を握り、一瞬踏み込む音尾。次の瞬間に彼女はこの戦闘で一番の勢いで前方に飛び出した。


 『御伝流(がでんりゅう)』。異世界間での交流が増え、異能力による戦闘方が重宝されるようになった時代。異能力を持たない人物や、弱い異能力しか持てなかった人物が戦うために編み出した武術だ。

 太刀を使用した剣術を主体とし、鍛え上げる程に使える技が増えていき、あらゆる異能力の敵に対応出来るようになる。


 音尾が今繰り出そうとしたのは、その中でも高速かつ高威力な一撃必殺だった。


(<御伝流(がでんりゅう) 彼岸花(ひがんばな)>!)


 すれ違いざまの一撃。目にもとまらぬ素早さ。この場の誰もが、音尾の勝利を確信した瞬間だった。

 音尾を目の前にしている信乃のみが、彼女が近づいて来るタイミングを感知していた。


(来た! この瞬間、今!)


 信乃は普段取っている将棋の駒を動かすような構えを変え、ゴム銃を打つような構えを取った。

 不意打ちを外した信乃のもう一つの奥の手。それを発動させようとしていたのだ。


 信乃の異能力『盤面操作(ボードゲーム)』は、効果範囲内にある人や物の位置を瞬時に移動させることが出来る。その交換できる物の中には、空気やガスなどの、目に見えない気体も含まれる。

 信乃は空気を文字通り同じ位置にいくつも重ねる形で移動させ、空気の圧が逃げないように絶え間なく位置操作を繰り返す。


 何度も繰り返すことによって強引に重ねられた空気は、必然的に元に戻ろうとする強力な力が働いていた。

 そして音尾が間合いに入り、太刀を振るうために素早さが少しだけ鈍る一瞬の隙。信乃は指を動かし、重ねて圧縮していた空気を一気に解放させた。


「<流応間(りゅうおうま)>」


 信乃は口ずさんで圧縮した空気を一気に解き放った。当然元に戻ろうとする力は一瞬の内に働き、向かって切る音尾はもちろん、技を発動させた信乃をも吹き飛ばした。


「これは!?」


 見えない箇所から突然に発生した衝撃。流石の音尾も見えないものの対処は追いつかず、このままでは壁に激突してしまう。


(マズい! 何か受け身を!)


 一方の信乃も、諸共襲う強烈な空気圧に普通ならば身体を持ち上げられ、音尾共々闘技場の壁に激突されそうになす。だがそこは、信乃の異能力が強みを発揮した。

 飛び出し危機に瀕する直前に今いる場所に位置移動する。これを繰り返すことで、実質的にこの場に停止していた。


 自分は一切動けなるが代わりとして、周辺一帯にいる相手を複数人であろうとも一気に吹っ飛ばす信乃の奥の手、それがこの『流応間(りゅうおうま)』だ。


 衝撃が止まり、信乃が構えを解く。勝利するためとはいえ、絶えず何度も位置操作の能力を使用した彼女は、見るからにして酷く疲労していた。


 大きく息が上がり、膝も曲がっている信乃。そんな彼女が次に前に視線を向けると、壁に激突しているかに思われた音尾がゆっくり向かってきている様子が見えた。


「そんな……」


 自身の渾身の技が決定打にならなかったことに驚く信乃。音尾は近づきつつ、説明した。


「ギリギリのところで受け身が間に合いました」


 短く言葉を切る音尾。何とか足を動かしているものの、彼女も相当なダメージを受けているように見えた。受け身を取れたとはいえ、完全な回避が出来なかったのだろう。

 だが得物を持つ音尾と、技を出す余裕ももうない信乃。どちらが優勢化は明白だった。


 音尾は太刀を振り上げつつ、間合いに入って構える。


「お互いに宣言は嘘になりました……しかし、今度こそ終わりです」


 音尾は太刀を振り下げ、信乃にトドメを差そうとした。しかし、太刀の動きは信乃に当たる直前に止まってしまい、突然音尾は握っていた太刀をその場に落としてしまった。


「ナッ……」

「ええ……今度こそ、終わりです」


 音尾が視線を下げて見たもの。信乃が握りしめ、自身のみぞおちに激突する太刀の鞘だった。

 信乃は先程の連続の位置移動の際、音尾が受け身やそこからの反撃に意識が向くのを見越し、太刀の鞘を取り上げていたのだ。


 鞘とて鈍器には変わりはない。音尾は腹に受けた攻撃にとうとう意識が保てなくなり、その場に倒れてしまった。

 一方の信乃も鞘を杖代わりにどうにか膝を崩す程度で耐え、音尾の顔を見て言葉をかけた。


「私の、勝ちです」


 闘技場の機械アナウンスが鳴り響いた。


「勝者! 森元 信乃!!」


 団体戦第三試合の決着。団体戦は、森本小隊が勝利した。

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