PURGEー77 正々堂々!!
音尾の事を思い出した黒葉。音尾ははだけた道場着を着直しつつ、自分側の事情を話した。
「あの時、春山君は私を助けてくれたのに、私は混乱して咄嗟に貴方を突き放してしまった。そのせいで貴方は周りからいじめられていたのに、私は勇気を出すことが出来なかった。
結局そのまま転校して、それっきりに……謝って済むことでないのは分かってる。それでも……本当にごめんなさい」
黒葉が初めて分解を発動させた相手。彼がいじめられ、独りぼっちになってしまったきっかけになった存在だ。
黒葉自身、その相手がどうなっていたのかが分からなかった。ここに来て姿を見せ、まさか深く反省しているなど、それこそ思いもしなかった。
「貴方に何も出来なかった自分が嫌で、次警隊に入り、人を助けることに従事して来た。そんなとき、レジアから貴方の事を聞いて、いてもたってもいられなくなったの! 今度こそ、春山君と離れたくなくて……」
「全部、俺の為だったのか。でも俺は……」
黒葉の頭の中に過去の映像が浮かんでくる。高校時代に信乃に心を救われ、次警隊に誘われた記憶を。
だが黒葉が今の自分の事を話す前に、大きなアナウンスが響いて来た。選手が入場口に移動しろという指示だ。
「お話は一旦ここまでね。待ってて春山君。今度こそ、仲良く一緒にいたいから」
「木花さん」
黒葉が語り掛ける間もなく、音尾は入場口に向かってしまった。
まさかこんな所で小さい頃の知り合いと再会した事実、自分を求めて団体戦を仕掛けていたのが彼女であった事実に、もやついた思いになる黒葉。
そしてここまでの一連の流れを、物陰に手聞いてしまった人物が一人いた。レジアに足止めされ、一歩遅れてやって来た信乃だ。
(黒葉君と木花小隊長が、小学生時代の知り合い!?)
信乃は曲がり角から顔を覗かせて黒葉を見る。最初は何か声をかけようと思った信乃だったが、目に見た黒葉の不安定な様子に身を引き、自身も入場口へと向かって行った。
ここまでとは違う不穏な思いがにじむ中、いよいよ団体戦第三試合が始まろうとしていた。黒葉と音尾の関係を知ってしまった信乃と、久しぶりの再会に心躍る音尾。二人が両サイドから闘技場へと足を進めた。
面と向かう二人。信乃が視線を下に向けてしまう中、音尾が先に口を開いた。
「いよいよ第三試合。この団体戦、勝たせていただきます」
黒葉と話をしていた時とは違う、クールな雰囲気を醸し出す音尾。対する信乃は気合の入り切らない、視線の下がった姿勢になっていた。
面と向かった相手に、音尾の方が逆に聞いて来た。
「どうかしましたか?」
「聞いてしまったんです。貴方と黒葉君が話しているところを」
音尾の瞼が少し動いた。信乃は音尾が自分側の主張をするか、話を聞かれた事を怒るのを予想したが、ここでの音尾は目を閉じ、冷静な態度を変えなかった。
「そうですか。大方レジアの企みですね」
「企み?」
音尾は森本小隊が控室にしていた部屋を睨みつけた。その先にいたレジアは、彼女に見られている事に身震いをする。次に音尾は信乃に目線を戻し、頭を下げて謝罪をした。
「申し訳ありません。彼女は隊員としては優秀なのですが、どうも味方を助けるためにやり過ぎるところがあるのです。
私と春山君の仲を知らしめ牽制にするつもりだったのでしょう。私はそれで勝っても何も嬉しくないのに」
「木花小隊長……」
音尾は申し訳ない気持ちをそのままに、自分の言い分を続けた。
「確かにこの団体戦は、私が春山君とまた一緒にいたいエゴから仕掛けたものです。でも……だからこそ私は、それを決める戦いに正々堂々向き合いたい!
今の小隊の人達にだって、春山君との思い出があるはずだから」
信乃は目の前にいる相手を誤解していた。以前に遭ったイブリスとは違い、『木花 音尾』は確かに次警隊の小隊長として納得の人物だ。
そんな音尾がこうまでして黒葉を自分の隊に入れようとすることには、自身の思いの他に何か事情があるのかもしれないと信乃は思った。
しかしならばこそ、自分の言いたいことも告げなければと思った信乃は、正直に話した。
「私は、黒葉君とは高校からの仲です」
「高校の!」
「彼が人助けをした姿に感銘を受け、次警隊に誘いました。今でも彼の事は、心から頼りになる仲間だと思っています。
貴方も彼の事を思っているのかもしれない。それでも私は、黒葉君を渡したくない! この戦い、勝たせていただきます!」
信乃の威勢の良い台詞に、音尾は笑うような真似はせず、真剣な顔をしたまま、真っ直ぐに言葉を受け取った。
「そうですか、いじめられていた春山君があんなに明るくなれたのは、貴方のおかげだったのですね。
貴方には感謝したい……だけど、勝つのは私です!」
音尾の覇気の籠った返答が聞こえたとき、闘技場全体に派手な機械音が響き渡った。
信乃と音尾。小隊長同士、団体戦最後の第三試合が開始された。
音尾は腰に携えた太刀を鞘から引き抜き、両手で握って剣道の構えを取る。
「『御伝流』木花音尾、参ります!」




