PURGEー75 虚像の幻!!
時は海水浴の直後にまで遡る。
事件の時、自らが以前から身に着けていたハニートラップによって解決したレニ。だがそうして助けたリドリアからは、余りいいようには思われていなかった。
もちろんリドリアも助けてもらった事には心から感謝している。しかしだからといってレニに自分の身を差し出すようなことをして欲しくない方だそうだ。
レニはこのことから仲間に心配をさせず、尚且つ仲間のために役に立てる方法はないものかと模索するようになった。
その末に辿り着いたのが、今闘技場でシャウにかけた技だった。
元々サキュバスとは、人の夢を操作する『夢魔』の一種。相手の頭にイメージを送り付けることは得意だった。
これはその応用。相手は目は覚めていても意識の一部を操作され、そこにはいないはずのレニの姿を視認し、逆に本物の位置は見えているのに視認できない。
「<虚像の幻>。皆と共に戦うために会得した、ボクの新たな技です!」
観客席からはシャウは一人勝手に暴れているようにしか見えない状況。一方の本人は、次々に襲って来るレニの対処に追われ表情に焦りが見え始めていた。
「クソッ! これも幻! これも! 本物は一体どこに行っちまったんだ!?」
動揺はしつつも攻撃の手は緩めないシャウ。レニは相手の暴れっぷりに感心していた。
(やっぱり、ボクの幻を見せつけるだけだと暴れ続ける。下手をすれば、全体攻撃を出されてこちらが出来ずにやられるかもしれない)
レニの考え通り、シャウはレニの幻を見かける度に片っ端から野球ボールやボウリングの玉を飛ばし続け、その一部がレニのすぐ傍を通り過ぎていった。
(猶予はやっぱりなさそう……でも、これを抑えられる策はある!)
レニが何かを考えている中、シャウは自分の力が尽きるまでの勢いで攻撃を連発していた。
「クッソ! どこにもいない! 何処行っちゃったのよぉ!」
腹を立てて鬱憤を口に叫ぶシャウ。上を向いた顔を戻しつつ再び攻撃を仕掛けようとする。
「シャウさん」
「え?」
シャウは自身の右側から聞こえてきた声に動きを止めて戸惑った。次に彼女が顔ごと動かして右を見ると、この場にはいないはずのレジアの姿が見えた。
「レジアちゃん!?」
この場所にいるはずのないレジアの登場に完全に困惑するシャウ。レジアは少し火照った様子でゆっくりレジアの傍にまで歩いて来る。
「シャウさん……私、なんだか変な気持ちになってしまいまして……」
汗ばみ、息を荒くするレジア。シャウは何処か妖艶な雰囲気を醸し出す彼女に、違和感など何処かに吹っ飛んでしまったように凝視してしまう。
「レ、レジアちゃん! なんてセクシーな!」
「……もっと、見たいですか?」
レジアは服を着崩すと、シャウはもうレジア以外のものが見えないとばかりに目を血走らせて凝視する。
レジアは足と同じゆっくりとした手つきで衣服を脱いでいき、シャウの目の前に紫色の攻めた下着姿になった。
「シャウさん……私……もう……」
火照った目つきでシャウに手を伸ばすレジア。シャウもこれに餌に引っかかった魚のように引き付けられていく。
闘技場で少し離れていたレニは、シャウの様子を見て術中に嵌った事を確信し、攻めるチャンスは今だと駆け出した。
(今なら警戒されていない。ここで勝負を決める!)
レニは右手に銃を構え、ある程度近づいたところで発砲しようとした。
そしてレニがシャウとある程度近づいたタイミング、ここだと判断してレニは銃の引き金を引き始めた。
(これで、勝利!)
勝利を確信したレニ。自信を持っていた彼女は気付いていなかった。自身を真横から狙う茶色のボウリング玉の存在に。
「え?」
気付いた時にもう遅く、レニは受け身を取る間もなくボウリング玉の直撃を受け、大きく吹っ飛ばされてしまった。
地面に激突したレニは、力弱くも動いた頭で前方を見る。その先には、レニの姿をしっかりと捉えているシャウの姿があった。
「ボクが、見えてる?」
「ええ、今の今になってようやくね」
シャウは上から見る形を取りつつまずはレニの異能力を素直に褒めた。
「幻を見せるなんて大した異能力ね。でもレジアちゃんの幻を見せたのは間違いだったわ」
「ま、間違い?」
「ええ、あんなことをされたってアタシをより苛立たせるだけ。なぜなら……」
シャウは右腕を伸ばしてレニを指さすと、大声で宣言した。
「本物のレジアちゃんは! もっと可愛くてもっと美しくて! 素晴らしい子なのよ!
それをあんな程度の幻で作った偽物で、アタシをだませるなんて思わないで!」
「そん……な……」
レニの幻は何も問題なかった。ただ一つミスがあったとすれば、シャウのレジアに対する思いの強さを侮っていた事にあった。
「ボクの魅了を、撥ね退ける思い……それは、強いですね……」
レニはこの言葉を最後に気を失い、上がっていた頭も地面に落ちて完全に倒れた。
シャウが一つ息を整えると、闘技場の機械アナウンスが鳴り響いた。
「勝者! シャウ シャッキー!!」
団体戦第二試合、結果はシャウの勝利に終わった。




