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PURGEー71 隠し玉!!

 連続した爆破のダメージに汗を流し、かといって周辺一帯に爆発物が仕込まれているとあっては気を緩めて動くことも出来なくなってしまったリドリア。

 観客室から現状を見ていたレニは瓦を震わせて大きく不安になっていた。


「リドリアさん、ピンチです!」


 慌てて席を立ちあがりかけるレニだが、その直前に黒葉が彼女の方に手を置いて止めた。


「大丈夫だ。リドリアなら……」

「え?」


 困惑するレニ。だが真剣な目付きなのは黒葉だけではなく、立ったまま見物している信乃も同様だった。


「このような事態に対応できない彼女じゃないから。そうでないと、小隊長相手には勝てない」


 レニは指摘されて思い出した。リドリアは過去にイブリスを倒した実績がある事を。


 仲間たちの信じる眼差しが背中に向けられる中、当のリドリア本人も息こそ上がっているが諦めている様子はみじんもなかった。


「いい目つきですわね。ここから何か出来ることでもあると?」


 挑発するように声をかけて来るレジアに、リドリアは負けじと口角を上げて返答した。


「ええ、もちろんよ」


 リドリアは返答してすぐに両腕を再び鳥の羽に変身させた。しかし変身させた鳥の羽は普段の彼女の羽よりも二倍以上は大きいものになっていた。


「何ですか、その羽?」

「隠し玉があるのは、アンタだけじゃないって事よ!」


 リドリアは巨大化した羽を力一杯後ろに引き、勢い良く羽ばたかせた。発生した風圧は周辺一帯の土埃や、その下に隠れていた羽をも風に巻き込み、全て彼女に接触する位置から離して爆発させた。

 土埃と爆発によってレジアは視界を遮られてしまい、誘爆を警戒していたずらに羽を飛ばすことも出来なくなってしまった。


「まさかあそこまで羽を巨大化させられるだなんて! 見掛け倒しではないものだとは思い知らされましたわ」


 レジアはリドリアの予想外の成長を見抜けなかった事を素直に反省しつつ、冷静に見失ったリドリアを探すために目を凝らす。


(土埃が多くて視認しずらい。でもここまで障害物が多いのならば、リドリアも下手な飛行は出来ないはずですわ。

 ならば隠れているのは地上。死角から攻めて爪で引き裂く気ですかね? いや、もしくは……)


 レジアが次に浮かべた予想。彼女が予想した途端に、背後から青い羽が大量に接近して来た。


「やはり、死角からの飛び道具!」


 予想が当たったとレジアは準備していた自身の羽をぶつけて爆発させる。羽単体の威力はレジアの方が上だったためにリドリアの羽はレジアに届くよりも前に破壊される。

 レジアはリドリアの事をよく知っている。当然彼女がイブリスと戦い、そこで彼女が新たな技を使った事についても理解している。


(<幸せの雨(ブルーバードレイン)>でしたっけ? あの攻撃は羽を広げて打つ都合上一方向からしか羽を飛ばせない。

 視覚からの飛び道具で決着を付けたかったのかもしれませんが、これでは逆にわたっしに居場所を教えたようなものですわよ!)


 レジアは爆発の影響が出ない回り道の軌道を取って自身の羽を十本ほど飛ばし、どの方向にも逃げられないように追い込みをかけた。

 直後にレジアの耳に入る爆発音。羽が何かに激突した証拠だ。


「命中しましたか……羽を広げた状態で忍んで動くことは不可能。この煙幕は貴方自身を追い詰めてしまいましたわね」


 レジアが聞こえているのかも分からないリドリアに向かって語り掛ける。返事はないものだと思ていた彼女はこのまま倒れているのを確認しようと前方に歩いた。


「さて、気絶しているところを確認しなければですわね」


 レジアが勝利を確信するために前方に歩みを進める。段々と土埃も収まっていき、前方の景色がうっすらとながら見えてきた。

 膝を付いた姿勢でレジアを見ている様子のシルエット。闘技場は一対一の都合上、見えている人影はリドリアのものだと確信させた。


「気絶はしていませんでしたか。ですが相当の負傷。これ以上の戦闘は無理ですわね。

 素直に降参するのでしたら、これ以上の攻撃はしませんわよ」


 リドリアからの返事はない。レジアはこれをリドリアが負けを認めたくない意地を張っているのだろうと判断した。


「認めたくないのでしたら結構。このトドメで、結果を証明させていただきますわ!」


 レジアはリドリアに勝ち誇った言葉を浴びせると、羽をいくつも同時に発射した。

 このとき、レジアは気付いていなかった。自身の真横から迫るリドリアの存在に。


「え?」


 数テンポ遅れて首を向けたレジア。だが羽を飛ばしているままでまだ身動きを取ることが出来ない。


 これがリドリアの狙いだった。レジアが目の前に見ていたのは、リドリアが闘技場の土で作った即席の偽物だったのだ。

 普通ならばすぐにばれてしまうこの囮も、視界が悪くなりシルエットだけでの判別となれば話は変わる。レジアは嵌められ、本物のリドリアに間合いに入られてしまった。


「しまっ!……」

「<鳥爪(バードネイル)>!」


 リドリアはレジアの態勢が整うよりも先に右足を上げ、すれ違いざまにレジアを爪で切り裂いた。


 鋭い一撃の直撃に身体が応えるレジア。一切容赦のない激痛に今自分が対峙している相手の強さを改めて実感した。

だが彼女の目つきはまだ諦めていなかった。


「この程度で、やられませんわ!」


 想定外の形ながらリドリアが姿を見せてきたチャンス。レジアは羽を飛ばして見事リドリアの背後に命中させた。

 背中の激痛が顔に出るリドリア。さらにレジアは自分から走り出し、飛び上がるとともに足を鳥の姿に変身させた。しかしレジアの足の爪はリドリアの者より幾分か小さく、正直相手程の威力があるとは思えなかった。


(私の鳥爪(バードネイル)はリドリアと違って小さい。威力もとても比べられたものじゃない……

 それでも負傷箇所にピンポイントならば、可能性は!)


 対するリドリアも左足の爪を地面に突き刺して軸にし、身体を回転させて向かって来るレジアに視線を向けた。


(負けない!)

(絶対に!)

((コイツに勝つ!)


 二人はお互いの爪を尖らせ、先手必勝の攻撃を繰り出した。


「「<鳥爪(バードネイル)>!」


 すれ違う二人。引き裂かれる衣服。着地して裂かれた布の切れ端が風になびく中、音が静まり返る。


 数秒の後、先に話し始めたのはレジアの方だ。


「全く、相変わらずのようですわね……ホント、凄いライバルを持ちましたわ……」


 レジアはその場で膝を崩して倒れ、気を失った。

 土埃が晴れきった闘技場の様子を見て、機械アナウンスが告げた。


「勝者! リドリア アイズ!」

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