PURGEー60 気を遣う!!
突然に家にまで現れ、自分とのデートを誘って来たクオーツ。先に予定がない事を言ってしまっていたがために外堀を埋められた黒葉は、特に断る理由もなかったので彼女と共に出かけることにした。
とはいえ今一緒にいる相手は自分の直属の上司であるクオーツ。それも海での時のようにサングラスをかけて帽子の中に髪を隠す変装しており、お忍びで動いていることが暗に伝わっている。
となるとやはりリドリア達のように気楽にはいかず、緊張感を抱えて散歩後ろを歩いていた。そんな黒葉の態度に見かねたクオーツは後ろに顔を向けて声をかける。
「そう緊張しないで大丈夫ですよ。ちょっと付き合って欲しい事があるだけですので」
「付き合って欲しい事? それって」
「内緒です」
「えぇっと……」
肝心なところをはぐらかすクオーツに微妙な顔を向けてしまう黒葉。クオーツはそんな彼の態度すらも微笑ましく見ている。
「約束の時間までまだ少しありますね。ちょっと何処か寄っていきますか」
「え? 寄るって何処に」
黒葉がクオーツの腹が読めないままに引き連れられてやってきたのは、様々なスイーツ店が並ぶ商店街だ。クオーツは黒葉の分も含めてクレープを購入して一緒に食べている。
「ん~! 美味しい。前からここのクレープ食べたかったんですよねぇ」
美味しそうに頬張るクオーツに対し黙々とクレープを食べる黒葉。クオーツはそんな彼を見かねたのか話しかけた。
「お好みではありませんでしたか?」
「え? あぁいやそんなことは、とっても美味しいです!」
その場で言葉を作って返答する黒葉。だがクオーツは彼の返事に一瞬口角を下げたように見えた。だが黒葉が気が付かない間にクオーツは表情を戻したがために彼は気付いていなかった。
そこから更に移動する二人。不意にクオーツの方から黒葉に問いかけてきた。
「ここには色々なスイーツがあります。春山隊員。貴方が食べたいものはありますか?」
「え? お、俺ですか!? 俺は……俺は大丈夫ですよ」
またしても顔を作って返答した黒葉にクオーツはふと発言した。
「春山隊員……遠慮は必要ないですよ」
「え? 俺別に遠慮なんて」
「しています。常に」
クオーツからの指摘に何故か胸に矢が突き刺さったような思いになる黒葉。そこにクオーツは自分なりの言い分を口にした。
「春山隊員。貴方が過去にどんな事があったのかについてはあまり知りえていませんし、能力の事で下手な同情をするつもりもありません。
ですが、貴方はそれが故に他人に対し距離を取っている部分がある。付き合いのあった森本隊員に対しても一歩引いた姿勢だったように」
クオーツの言葉が黒葉に刺さる。確かに黒葉には自分の能力によって仲良くなった人に酷い目に遭って欲しくない。そんな思いから知らず知らずの内に他人と距離を取っていた。
「隊長、俺は……」
「別に今すぐ無理にそれを克服しようという訳ではありません。こういうのは強引に命令してどうにかなるものでもありませんから……だけど……」
クオーツは黒葉の方に振り返って顔を向けると、少々思いの籠った様子で声に出した。
「ここは大人として、上司として、私にかっこつけさせてください」
「隊長……でも」
困惑する黒葉にクオーツは大人びたような、だがしかし威圧は全く感じさせずに黒葉の心にそっと寄り添ってくれるような心地の良い感覚を与えた。
巨大タコとの戦闘時にはあれだけ身体が震えあがるような程の恐怖を感じ取っていたのとは打って変わっての安心感。黒葉は残っていた緊張感がほぐれていき、そこにクオーツは更に彼が安らぐような声をかけた。
「この程度大丈夫です。春山隊員、もっと気軽に私達を頼ってください」
心の底、人を躊躇してしまう暗く乾いた部分に美亜図が刺され潤っていくような感覚。黒葉は目の前にいる相手の醸し出す暖かみに包まれるような思いになっていた。
(自分の中にあった緊張がなくなっていく。凄い安心感……)
肩の荷も下がった黒葉。クオーツは彼の様子を見て再び優しく問いかけてきた。
「春山隊員。何か食べたいものはありませんか?」
同じ質問ながら、受け手の黒葉の心境は変わっていた。彼はクオーツに釣られて笑顔を浮かべると、素直な意見を答えた。
「その……色々頼んじゃってもいいですか?」
「もちろんです!!」
そこから黒葉も一緒になってしばらくの間二人は楽しみ続けた。だがクオーツは楽しむばかりに気を取られはしない。
元々も目的の事についても一切忘れることはなく、スイーツを堪能していた黒葉に話しかけた。
「春山隊員。これを食べ終わりましたら、そろそろ移動しましょうか」
「え? 移動って……」
「今回ここに来た目的です。最も正確にはこの近くに、という事ですが」
「アッ!……そうだった」
黒葉は楽しい状況にここに来た理由が別にあったことを忘れてしまっていた。クオーツはナプキンで口元を拭きとる中、黒葉は改めて問いかける。
「それで、結局何をしにここへ来たんですか?」
「フフッ、それは言ってからのお楽しみです」
微かに微笑んでまたもはぐらかすクオーツに黒葉は疑問を浮かべたまま移動していく。
目的が伝えられないままに二人が移動した先には、先程までいた明るい商店街とは打って変わって暗く何処か嫌な雰囲気が醸し出されている人気のない場所。外観からして潰れたアミューズメント施設だろうか。
「ここですか?」
「ええ、ここです」
クオーツの腹の底が読めないままに、二人は廃墟の中へと足を踏み入れていった。
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