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幻想徒然絵巻  作者: 日生
晩秋
83/150

イレギュラー

 自然豊かな景色が残る町並みは、秋が深まるにつれ鮮やかに染められていく。


 銀杏並木は金色に、楓の葉は燃えるような紅緋色。春には薄桃色に町を染めた桜も紅葉し、道に落ちた葉っぱが絨毯のように敷き詰まって、天も地も美しく彩られている。


 十一月になり、最近は少し肌寒く、厚めのカーディガンを着ているくらいがちょうどいい。

 それでも晴れ間は多くて、過ごしやすい日々が続いていた。


 芸術の秋、と世間は言うけれど、美術部所属の私にとってはいつだって芸術の季節。


 相も変わらず、がらんとした美術室でスケッチブックを広げ、訪ねてくれた妖怪の絵を描いている。


「あんがとよぅ」


 小さな河童さんに完成した水彩画を渡すと、かわりに栗をたくさんいただいた。

 山の実りが順調なのか、近頃は絵を描くと木の実やキノコなんかをお礼にくれる妖怪が多い。


「天宮くんも持って行きませんか?」


 大きな栗の一つを取ってみせ、私は隣の彼に尋ねた。


「いや、いいよ。佐久間がもらったものだ」


 あくびをする彼の頭も、紅葉のように真っ赤だ。


 それは彼がその身に宿す火の神様の色。


 天宮家は大昔に強大な力を持った妖怪を封印するため、五柱の神様を五人の人の体に降ろした。そして現代に至るまで封印を守るため、その身に神様を宿したままでいる。


 そんなすごいお家の方と一緒にいる私は、ごくごく平凡な人間。勉強も運動も人並み以下で、取り柄と言えば唯一絵を描くことくらい。ところがこの取り柄が厄介事の発端。

 なぜか私が天宮くんの絵を描くと、彼に宿る神様が出てきてしまうのだ。


 つまり、私の絵には天宮くんたちから神様を奪い去る力がある。


 この厄介な力が妖怪や、天宮家をよく思っていない人などに利用されると非常に困るということで、天宮くんが私の護衛役として、部員でもないのに放課後は部活に付き合い、私が危ない目に遭うといつでもどこでもまっ先に駆けつけてくれるのだ。


 それが本当に申し訳なく、本当に助かっている。


 妖怪から助けてくれることもそうだし、他に部員が一人もいない美術部で、寂しく活動しなくて済むのも天宮くんのおかげ。

 毎日とても感謝して、少しでもお返しができないかと考えている。


「――ええっと、天宮くんは甘いもの好き?」


「? まあ、普通に」


「ほんと? じゃあ、今度これでお菓子か何か作ってくるので、もしよければ味見してもらえませんか?」


「わざわざ作るの?」


「せっかくこんなにあるから。と言っても、大したものはできないけど。ちゃんとおいしくできたら持って来るね」


 小さい頃はよくお母さんとお菓子作りをしていたものの、最近は絵ばかり描いて、あんまり台所に立つこともない。

 うまくできたらあげて、できなかったら謝って、なんだったらかわりにお店のをあげよう。変なものは決して食べさせられない。


「ん・・・なら、期待しとく」


「え」


 天宮くんはほんの少し口角を上げていた。


「佐久間ってそういうの得意そうに見える」


「そ、そんなに得意では」


「楽しみにしてる」


 え、えー・・・ほんとですか? 

 こ、これは全身全霊でもってがんばらなければいけない、かもしれない。


 天宮くんは社交辞令で言ってくれてるだけで、本気で楽しみにしてるんじゃないってことはわかってる。

 でも冗談であれ、ううん、むしろ冗談だからこそ嬉しい。だってこういうやり取りってなんだか、普通の友達みたい。


 天宮くんにとって私は護衛対象、つまりは仕事上の付き合いなわけで、クラスメートとはいえ純粋に友達とは言い難い。


 だけど私のほうは、いつか彼と普通の友達になれたらと思っているのだ。お互いになんのしがらみもなく、一方的に助けてもらうばかりじゃなくて、こちらも助けになれるような関係に。


 だが現実問題、私は自分で身を守ることすらできず、何かあったら天宮くんにおんぶに抱っこで頼るしかない。

 どんなにおいしいお菓子を作ってみたところで、ほんのちょびっとだって報いることになりはしないのだ。


 今すぐしがらみを取ることはできないにしても、もう少し迷惑をかけないようになれたらなあ・・・。


 ま、まあとりあえず、できることを一つずつ、だ。まずはおいしいお菓子作り。冗談でも期待してると言われたんだから、気合を入れて挑もう。


 そんなこんなで、今日も平和な時間を過ごしているうちに、日が暮れ始める。


 夏の間は六時まで部活ができたけれど、もう日が短くなってきているので、今は五時で終了となる。


 運動部などはまだしばらく六時までやっているものの、優しい美術部顧問の相馬先生は、暗くなってから仮にも女の子を家に一人で帰すのは忍びないと考えているみたい。


 ただほとんどの場合、天宮くんが家まで送ってくれるため、たとえ暗くなってからでも安心だったりする。


 道具を片付け、教室の戸締りをして、活動日誌と鍵を職員室の相馬先生に返したら今日も終了。


 夕日に染まる校舎を出て、運動部が練習しているのを横目に、いつもの通り天宮くんと下校する私は、この時《いつも通り》がずっと続くものだと思い込んでいた。


 永遠なんてこの世にないんだと、わかっていたはずなのに。


「―――れぇぇぇんっ!」


 校門を出た途端に、視界を黒いものが横切り、「ぅあっ!?」と隣で天宮くんが悲鳴を上げた。


「・・・?」


 早すぎてなんだったか確認できなかった私は、おそるおそるそちらを見て、固まった。


 黒い影の正体は、腰まで伸びたストレートロングヘアの女の子。

 ここではない学校の制服を着ていて、背は少し小さめ、だけど細くてすらっと足が長く、ミニスカートがよく似合う。


 そんな子が、天宮くんに抱きついていた。

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