日取り
禎兆九年(1589年) 三月上旬 近江国蒲生郡八幡町 八幡城 朽木基綱
「毛利右馬頭様、御内室様、吉川駿河守様、御家来衆の方々がお見えになりました」
小姓が報告すると右馬頭、南の方、駿河守、安国寺恵瓊、児玉三郎右衛門が部屋の中に入ってきた。右馬頭と南の方は毛利家のトップとファーストレディ。駿河守は親族、恵瓊は毛利家の外務大臣、三郎衛門は駐朽木大使のようなものだから外交の最高責任者と現場の実務担当者、親族の代表がトップとファーストレディを支える形になる。結納の日取りを決めるだけなんだが毛利家はこの会談を重視しているのが分かる。
朽木家側も負けてはいない。俺と小夜。相談役、奉行衆、評定衆が立ち合うのだ。嫌でも重視している事が分かる。毛利側が不満に思う事は無いだろう。実際大広間に朽木の重臣達が集まっている事に駿河守、恵瓊、三郎右衛門は満足そうにしている。右馬頭と南の方は緊張気味だ。五人が座った。
「お久しゅうございまする。相国様には御健勝の由、右馬頭心よりお喜び申し上げまする」
右馬頭が頭を下げると他の三人も頭を下げた。
「ご丁寧な挨拶、痛み入る。遠路お疲れであろう」
右馬頭が顔を綻ばせた。
「お気遣い有り難うございまする。左程の事はございませぬ。この度は倅幸鶴丸に桐姫様を迎えられる事、真に嬉しく御信任に心から御礼申し上げまする」
右馬頭が頭を下げると”有り難うございまする”と他の四人が唱和して頭を下げた。随分と念入りに打ち合わせてきたな。
「こちらこそ毛利家との縁組みは望むところだ。桐は朽木の娘だが上杉家の血を引く娘でもある。桐が毛利家に嫁げば毛利家、上杉家、朽木家はこれまで以上に強い絆で結ばれる事になるだろう」
「真に、これほどの良縁はございませぬ。大樹も喜んでおりましょう」
俺と小夜の言葉に重臣達が”お目出度うございまする”と唱和した。どうだ、こっちもやるだろう。練習したんだぞ。
「御内室、幸鶴丸殿を国元に置いてきたようだが心配ではないかな?」
俺の問いに南の方が”はい”と答えた。
「心配でございます。ですが右馬頭が如何しても私に淡海乃海を見せたい。相国様は淡海乃海を海と繋ぐ事を考えておられる。それが何を意味するかを教えたいと」
朽木の重臣達から嘆声が上がった。右馬頭がちょっと面映ゆそうにしている。
「なるほど、そう聞いては知らぬ振りも出来ぬな。俺から大まかな事を教えよう」
「有り難うございまする」
右馬頭が頭を下げると残りの四人も頭を下げた。
「この近江という国は日本の中心にある。そのせいかもしれぬが街道が集まった。東海道、東山道、北陸道。そして西へ進めば山陽道、山陰道に通じる。極めて便が良い。日本の臍だな」
誰かが”臍”と言った。恵瓊かな?
「近江を押さえれば四方から物が流れる。そして淡海乃海を使って東西、南北に物を送れる。これほど便利な事は無い。その便利さが近江を豊かにした。近江を押さえれば四方に兵を送りあっという間に勢力を拡大するだろう。何故なら豊かという事は敵に狙われ易いからだ。近江を守るためには積極的に外に出ざるを得ぬ」
朽木の重臣達が頷いている。一向一揆との血みどろの戦いは朽木の豊かさが引き起こしたものだった。
「だがこの近江に無い物が一つ有る。それが海だ」
南の方が”海”と言った。
「近江は日本という国の内を向いているのだ。外を見ていない。だから水路を作り淡海乃海を海と繋げる。北陸の海、山陰の海、瀬戸内の海、伊勢の海。それらが淡海乃海と繋がれば諸国の産物が淡海乃海に集まりそこからまた諸国に流れていく。異国の産物も入ってくる」
「異国の産物もでございますか?」
小夜が目をぱちくりしている。あれ? 驚く事か?
「勿論だ。朝鮮、琉球、明、呂宋。南に行けば更に様々な国がある。そして更に遠くには南蛮がある。皆海で繋がっているのだ」
ホウッと息を吐く音が幾つも聞こえた。朽木の重臣達も息を吐いている。
「物が流れれば豊かになるのだ。いずれは皆がそれを実感出来る日が来る」
だから関を廃し街道、河川を整備するのだ。皆が豊かになれば乱世よりも平和が良いと思う筈だ。そして朽木が治める統一国家日本を支持するようになる。
「もっとも水路が作れるかどうかは未だ分からぬ。雪が溶けてから場所を調べる事になる。それに作れるとしても何年もかかるだろう。まだまだ先の話だ」
皆が頷いた。
「銭もかかりますぞ」
「それを言うな、平九郎」
「忘れて貰っては困ります」
荒川平九郎がニヤッと笑った。彼方此方から笑い声が上がった。
「さて、水路の話はこの辺で良かろう。結納の日取りを決めようではないか。そのために集まったのだからな」
「左様でございますな」
「真に」
幾つも声が上がり笑い声も上がった。目出度い話なんだ。楽しく行こうか。
禎兆九年(1589年) 三月上旬 近江国蒲生郡八幡町 八幡城 吉川元春
「余り揉める事無く纏まりましたな」
「結納の日取りを決めるだけですぞ。揉めるようでは困ります」
恵瓊、三郎右衛門が顔を綻ばせながら言った。
「来年の三月、結納は一年も先なのですね」
「年が明けてからと願ったのはこちらだ。年内は琉球攻め、天下統一、改元と忙しい。それに年が明けても正月は何かと忙しいからな。毛利家にとっては大事な結納なのだ。ゆっくりと準備して盛大に行いたい。相国様も年が明けてからの方が良いと頷いておられた。二月は未だ寒いから三月が良い」
不満そうな南の方を右馬頭が宥めた。南の方が素直に頷く。うむ、昔に比べると雲泥の差よ。夫婦円満、仲が良いわ。五龍の姉上も一安心だろう。
「やはり改元は有るのだな」
儂の言葉に皆が頷いた。朝廷は天下統一後に改元したいと望んでいるらしい。相国様もそれは同じ思いなのだろう。
「天下統一を喜び、そして朽木の天下の始まりを宣言する改元になります。一体どんな元号が選ばれるのか。楽しみでございますな」
恵瓊が満足そうに頭を撫でた。自分の予想が当たった事が嬉しいらしい。
「和という文字が使われるのでは有りませぬか。百年以上続いた戦国の世が終わるのです。或いは一か」
三郎右衛門が宙に一の字を書いた。
「平の字も有り得よう」
右馬頭も宙に平の字を書いた。皆が楽しそうにしている。朽木の居城で結納の日取りを纏め新たな元号が何かで楽しむ。乱世は終わったと実感した。
「失礼致しまする」
戸が開いて倅の次郎五郎が入ってきた。そして右馬頭と南の方の前に座ると深々と頭を下げた。
「この度は幸鶴丸様と桐姫様の縁談が纏まりました事、真に目出度く、心からお慶び申し上げまする」
「うむ。祝いの言葉、嬉しく思う。琉球攻めで忙しいのではないか?」
右馬頭が問うと次郎五郎が顔を綻ばせた。
「ここ半月ほどは物資の調達で堺に居りました。藤四郎殿は薩摩の内城に居ります。琉球攻めは内城が拠点となりますので」
”ほう”という嘆声が幾つも上がった。
「やはり海の外へ攻め込むとなると準備が大変か?」
問い掛けると次郎五郎が”はい”と頷いた。
「陸続きでは有りませんから兵糧を始めとする物資は多めに用意しております。薩摩の坊津と堺です。それと輸送船も多めに用意しました。堺と坊津、坊津と琉球。輸送船が途切れる事は有りませぬ。兵が飢えや玉不足で苦戦する事はないでしょう。幸い、この時期なら野分けも有りません」
次郎五郎が自信満々に言うと右馬頭が大きく頷いた。そして”野分けか”と言った。薩摩攻めの事を思いだしたのかも知れない。
「琉球の兵は三千ほどしかないそうです。こちらの兵力は二万。一万をもって琉球に攻め込み残りの一万は薩摩で待機します。攻略に手こずるような事は無いと思います」
皆がそれぞれの表情で頷いた。
「そうでしょうな。琉球は軍事力に自信が無いのでしょう。昔、相当に島津に圧されていたと覚えています。琉球が相国様に近付いたのも最初はそれを躱すのが目的だった筈です。未だ、義昭様が京に居る頃ですな。島津は義昭様に接近して相国様を抑えようとしていました」
恵瓊の言葉に皆が複雑そうな表情になった。義昭様の事を思い出したのだろう。好きになれるお方では無かったが最後は哀れだった。
「伊賀衆の報せでは琉球はこちらが攻めてくるとは思っていないようです。戦準備をしていないとの事でした。どうも天下統一を優先すると見たようです。不意を突けるかもしれませぬ」
次郎五郎の言葉に”なんと”、”真か”と声が上がった。
「不意は突けずとも戦の準備をしていないとなれば長期戦は難しいでしょう。戦は早期に終わると軍略方では見ています」
今度は幾つか溜息が聞こえた。呆れているのかもしれない。
「藤四郎もそう言っているのか?」
右馬頭が問うと次郎五郎が”はい”と頷いた。
「藤四郎殿は三月で終わると見ています」
また溜息が聞こえた。
「いくら不意を突くと言っても異国を三月で滅ぼせるのでしょうか?」
「兵は三千ほどと聞いた。ならば琉球の身代は十万石ほどだろう。有り得るのかもしれぬ」
南の方、右馬頭の遣り取りに皆が頷いた。そうだな、十分に可能だろう。問題は……。
「相国様は出陣せぬが大丈夫なのか?」
儂が問い掛けると次郎五郎が笑い出した。はて……。
「大丈夫です。まあ、此処まで来るには大変でしたが……」
此処まで来るには? 皆が顔を見合わせた。
「何かございましたか?」
恵瓊の問いに次郎五郎が頷いた。
「総大将は田沢又兵衛様なのですが日置左門様が自分にと願い出たのです。他にも鯰江満介様も総大将を望みましたしそれが無理なら琉球攻めに加えて欲しいと」
「どういう事か?」
儂が問うと次郎五郎が表情を改めた。
「まあ、日置様は宜しいのです。単純に戦の総大将がしたいと思ったのでしょう。しかし鯰江様は……」
次郎五郎が苦笑して語尾を濁した。鯰江? 朽木とは縁戚関係に有る家だ。毛利との戦では相当に活躍した筈。中々の有力者だと思ったが……。
「何か有るのか?」
右馬頭が問うと次郎五郎が頷いた。
「例の淡海乃海と海を繋ぐ水路が絡んでいます」
皆が顔を見合わせた。
「琉球攻めと水路が絡む?」
三郎右衛門が首を傾げた。恵瓊、右馬頭、南の方も首を傾げている。儂も訳が分からん。どういう事なのか。
「元々水路は敦賀と塩津浜を結んで欲しいと商人が願い出たのが切っ掛けでした。相国様はそれをやるなら淡海乃海を瀬戸内、伊勢とも繋ぐべきだとお考えになったのです。そこまでやらなければ意味が無いと」
溜息が出た。右馬頭も溜息を吐いている。何という事を考えるのか……。
「この時、問題になったのが若狭の小浜の扱いでした。小浜は昔から栄えてきた良港です。この繁栄を支えているのが小浜から今津へと流れる物の道です。しかし敦賀と塩津浜を水路で結べば間違いなく船はそちらに行くでしょう。小浜から今津への物の道は廃れ小浜は寂れる」
彼方此方から呻き声が上がった。
「鯰江一族は若狭、丹後に集中し二十万石ほどを領しています。小浜が寂れれば若狭も寂れる。鯰江一族も不利益を被るでしょう。鯰江一族は相国様の伯母が嫁いだ家です。丹波、丹後攻め。山陰攻めでは大きな功を上げました。無視は出来ません。相国様は小浜と今津も水路で繋ぐと考えましたが朽木家中がそれで纏まった訳では無かった。小浜と今津は距離が長いですし塩津浜の水路が有れば十分ではないかという意見も少なからず有ったのです」
「なるほど、鯰江はそれに危機感を抱いたのだな。相国様が水路を作ると言っても重臣達が反対するのでは無いか。或いは相国様自身が心変わりするかもしれないと不安になった。だから琉球攻めで武功を挙げる事を望んだ。そうだな?」
儂が問うと次郎五郎が頷いた。
「はい。鯰江を無視出来ない状況を作ろうとしたのでしょう」
「それで、どうなったのだ? 相国様は何と?」
右馬頭が身を乗り出して問い掛けた。どう捌いたか関心があるのだろう。何処の家でも親族の扱いは気を遣う。次郎五郎が顔を綻ばせた。
「水路は敦賀、塩津浜と小浜、今津の両方を作ると決めました。但し、鯰江に配慮したわけではありませぬ」
皆が顔を見合わせた。
「相国様は水路は二つ要るとお考えです。敦賀は越前から北の船が使い、小浜は若狭から西の船が使えば良いと」
”なるほど”、”確かに”と声が上がった。
「一本では負担が大きいというわけですな」
恵瓊の言葉に皆が頷いた。
「それに二本あればどちらかが使えなくてももう片方が使える。物の流れが止まる事は無いと」
次郎五郎の言葉に道理だと思った。皆が頷いている。水路は二本必要なのだ。
「鯰江は納得したのだな?」
右馬頭の問いに次郎五郎が”はい”と頷いた。
「納得しました。水路の順番としては敦賀、塩津浜が先になります。その次が瀬戸内でしょう。小浜はその後です。或いは伊勢の方が先になるかもしれません。その間は小浜は寂れるでしょう。しかし水路が作られれば必ず繁栄を取り戻します」
皆が頷いた。
「満介様は改めて琉球遠征に加わりたいと願い出ました。相国様も笑ってお許しになりました」
皆が笑った。まあ鯰江としては水路が作られる事が決まったからといって遠征は関係ないとは言えぬな。
「驚きました。水路とはそれほどまでに重要なのですか」
南の方がホウッと息を吐いた。
「重要です。相国様は近江は日本の臍だと言っておられます。日本の中央に有り街道が集まるからです。しかし淡海乃海を十分に活用していないと御不満です」
「水路だな?」
問い掛けると次郎五郎が頷いた。
「水路を作れば日本全国から物が淡海乃海に集まり淡海乃海から日本全国に流れる。そうなれば淡海乃海は日本の心の臓になると」
心の臓か……。皆は黙って聞いている。度肝を抜かれているのかもしれない。
「大袈裟とは思いませぬ。物が流れるという事は銭も、人も動くという事です。水路を作れば物も銭も人も淡海乃海を中心に動く事になるでしょう。まさに心の臓です」
皆が溜息を吐いた。これまでの武家の棟梁は武を以て天下を治めた。力こそが要求されたのだ。だから力が衰えれば天下が乱れた。だが朽木の天下は武だけでは無い。そこに物と銭が加わる。つまり武と富で天下を治めるのだろう。一体どんな天下になるのか……。
禎兆九年(1589年) 三月上旬 近江国蒲生郡八幡町 八幡城 朽木基綱
「あの男の調べが付いたのだな?」
「はい、医師としての腕は良かったようですな。堺では名医として尊重されていました。会合衆にも信頼されていたようです。そのおかげで調べるのに苦労しませんでした。中々面白い経歴で」
百地丹波守が笑みを浮かべている。面白い経歴か。楽しみだな。寝ようとしている所を邪魔されたんだ。期待してるぞ。
「それで?」
「謝啓紹ですが琉球の医師の家に生まれました。そこそこの家のようです。しかし十歳頃に母親が亡くなり父親は後妻を迎えました」
「ふむ、その後妻が問題か」
丹波守が”はい”と頷いた。
「格上の家から迎えたようです。後妻に子供が産まれると謝啓紹の立場は微妙なものになりました」
「良く有る話だ。珍しくはないな」
丹波守が”はい”と答えた。正妻が亡くなり新たに迎えた後妻が力を振るう。もしかすると後妻の産んだ息子の方が後妻の実家に引き立てて貰える。家が繁栄すると父親は思ったのかもしれない。だとすれば随分と疎まれただろう。
「十五歳になると医術を学ぶという名目で明に送られたそうです。内実は後妻が追い出したのでしょう」
「だろうな。だから医術を修めると琉球には戻らず日本に来た」
丹波守が”はい”と頷いた。琉球には謝啓紹の戻る家が無かったのだ。死んでも構わないと思って明に出したのかもしれない。
「明では十年間、医術を学んだそうです。そして独立を認められ日本に来ました」
十年か、だとすると二十五で日本に来た事になる。
「丁度、足利と三好が激しく争っていた頃です。謝啓紹は直ぐに名医と評判になりました。会合衆の頼みで三好修理大夫、筑前守の親子、足利義栄様を診ております」
「本当か?」
俺の問いに丹波守が笑い声を上げた。
「琉球人ですからな。容体が漏れる事は無い。会合衆はそう考えたようです」
「日本語は喋れただろう」
「家族は居ません」
溜息が出た。重要人物の病気なんてトップシークレットだ。独身という事も有るのだろうが謝啓紹は人間性も信頼されたのだろう。口が固いと思われたのだ。
「謝啓紹が琉球に戻ったのは義栄様が亡くなられた後です。異母弟が病で亡くなり継母もその後直ぐ亡くなった事で父親に呼び戻されたようです」
「父親とは連絡を取り合っていたのか」
「そのようで」
父親との関係は悪くなかったか。義栄が死んだ頃というと能登、越中に攻め込んだ頃だな。天下は未だ足利の権威が重んじられていた頃だ。俺は北陸を中心に二百万石ほどの身代だった。有力大名ではあっても天下人ではなかった。その頃を知っているなら俺が天下を獲った事に驚いただろうな。
「謝啓紹はこの城を出た後、堺に向かっております」
大湊に戻らず堺に向かったか。旧知の人間、多分会合衆を訪ねたのだろう。だとすると謝啓紹は未だ諦めていないという事になる。
「誰に会った?」
丹波守がニヤッと笑った。
「今井宗久にございます」
「それで?」
また丹波守がニヤッと笑った。
「宗久に朝廷の有力者を紹介して欲しいと頼んだようで」
「宗久に確認したのだな?」
丹波守が”はい”と頷いた。朝廷の有力者? 俺を抑えようとしたのか?
「琉球が朝廷と直接交渉する事で戦を防ごうとしたようです」
「!」
「人質の他に領地の割譲、賠償金も支払うと」
丹波守が俺をジッと見た。もう笑ってはいない。厄介な事だ。外国の勢力が朝廷と結んで俺を抑えようとする。一番の悪夢だな。
これは禁止事項として朝廷を抑えなければならない。朝廷には祭礼、儀礼的な事を担当してもらい朽木が政を担当する。俺はそう思ってたんだ。祭政の分離だな。だがなあ、余り強権的にこれを推し進めると朝廷を圧迫していると取られかねない。加減が難しい。相談出来るのは太閤殿下だけだな。
「宗久は何と?」
「断ったそうにございます。時間的な余裕がない。それに琉球王を説得出来るという確言が無い。無駄に終わるだろうと」
駄目だな。本当は朝廷にはそんな権限は無いと答えなきゃ駄目なんだ。やはり法度みたいな感じで制限事項を書かないと駄目かもしれん。
「まあ、謝啓紹は大殿のアレを見ておりますからな」
「アレ?」
丹波守が和やかに頷いた。アレって何だろう?」
「御大葬、御大典を利用して和睦を成し遂げました」
「ああ、アレか」
「はい。日本に来た直後の事です。相当に印象に残ったようだったと宗久が言っておりました。それを思い出したのだろうと」
なるほどな。元はと言えば俺が元凶か。……自分の尻は自分で拭くべきだよな。溜息が出た。何でこんな事に……。今夜は小夜の所で休もう。




