266話 さようなら、冒険者の街ザガン、らしいです
土の精霊の助力を得る為にやってきた雄一達のザガンでの冒険者家業から始まり、『精霊の揺り籠』の攻略に『ホウライ』の介入による出来事に終止符が打たれた。
ザガンの街は冒険者に少なからずの死傷者は出たが、非戦闘員の住人達に被害はなかったようである。
冒険者達は城門の傍で集まり、火を焚き、大いに食べ、酒で喉を潤わす。街を守り切った誇りに胸を張り、大声で笑い、そして、仲間の死を悼んだ。
そんな中を堂々と歩く雄一達に歓声が飛び交う。
雄一の規格外さを笑いにするように騒ぐお調子者から、仲間の仇を、自分達の命を救ってくれた事に感謝する声が響く。
歓声を受ける雄一は口の端を上げるようにしながら握り拳を軽く上げ、笑みを浮かべながら歩いた。
その雄一の後ろを歩くホーラ達は誇らしく、頬が緩むのが止められない。
子供達が雄一に駆け寄り、ダンテが巴を受け取り、テツに預ける。アリアが左手、レイアが右手を掴み、嬉しそうな表情をして雄一を見上げてくるのを雄一は緩んだ幸せそうな笑みを返した。
雄一の変化を見て、歓声が大きくなるとアリア、レイア、スゥ、ダンテの4人は嬉しそうに手を振って返す。
油断してる雄一の背中を駆け上がるようにしたミュウが久しぶりに定位置だった雄一の肩車の体勢になる。
慌てた雄一がミュウを降ろそうとするが、アリアとレイアが悪戯をする時に見せる笑みを浮かべると両手で雄一の手を抑えて阻止してくる。
アリア達の行動に目を白黒させるが、苦笑いにシフトチェンジさせていく。それを察知したミュウは嬉しそうに、ガゥガゥと鼻歌を歌うようにしながらアリア達と一緒に手を楽しそうに手を振る。
色んな言葉が叫ばれるが、徐々にいくつかのある単語を連呼するようになった。
『ユウイチ、ユウイチ!』
そう叫ばれながら歩く先には目を潤ませたシャーロットがメリーと手を繋ぎながらこちらを見つめていた。
シャーロットに歯を見せる大きな笑みを浮かべる雄一。
『ノーヒット、ノーヒット!!』
『DT! DT! ディーティ――!!!』
歩く先にいるシャーロットの後ろでは、死んだ魚のような目をしたエルフと糸目で痩身の商人、ミラーとエイビスが愉しそうなアクマの笑みを浮かべる姿が見える。
雄一は優しい笑みを浮かべ、アリアとレイアを見つめ、やんわりと手を外してミュウも抱き抱えて下ろす。
そして、テツに預けていた巴を受け取る。
その時の雄一を後日、
「まるで相討ちでもいいから倒したいヤツがいるという気迫を感じたんです!」
震えるテツはそう語った。
雄一の最終決戦はこれから始まるのかもしれない。
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ザガンの街が守られたがそれから1週間は復興に追われ、飛ぶように日が過ぎた。
ソードダンスコミュニティでは、ノースランドがゼッツとガラントに鉄拳制裁を加えた。
今回の企みの善悪は問わなかったそうだが、中途半端な手口と真贋の無さを酷評すると2人のコミュニティの恩恵を剥奪をした上で身一つで世間に揉まれてこい、と家から叩き出された。
コミュニティの力でやりたい放題してきた2人には普通の生活が難しく、勘当同然にされた事を恨んだそうだ。
ノースランドの想いはどこにあるかは雄一にも話さなかったが、それについて雄一は「そうか」と小さく笑っただけであった。
最後の息子、ヒースにノースランドは冗談交じりに言いながらも、本気を滲ませ、ソードダンスコミュニティを継いでみるか? と聞いたらしい。
息子、ヒースは少し恥ずかしそうな顔を見せ、こう言った。
「嬉しい申し出ですが、2年後の10歳になったら僕はこの大陸の外に行こうと思ってます。ですから、今は受けれません」
「そうか、大きい男になって帰ってくる日を楽しみにしている。継ぐ気がなくとも顔ぐらいは見せに帰れ」
理由はどうであれ、息子の自立が嬉しいノースランドであった。
そして、雄一の最終決戦の結果はこうだ。
殺意の塊のようになった雄一が巴をミラーとエイビスに突き付け、並びながら笑みを浮かべる2人の喉元に刃先を添える。
「今日こそ、この因果を断ち切ってみせる!」
「はっはは、そうそう断ち切れないのが因果というのですよ? ユウイチ様」
命の危機も感じてないような、いや、このやり取りを全開で楽しんでるのが分かるミラーは本当に楽しそうに笑う。
うんうん、と頷くエイビスはチクチクと巴の刃先が当たって喉元に血が滲んでいるが気にした素振りを見せない。
「まさに友の言う通りです。それに良いのですか? 本当に私達を涅槃行きにして?」
「くっ、俺はお前達の甘言にはのったりしない! 俺の精神衛生上の為、斬ってみせる!」
グッと巴を押し込もうと腕に力が籠った瞬間、2人は雄一に話しかける。
「ザガン冒険者の生活」
「補填方法」
その言葉が漏れた瞬間、雄一の手が止まる。2人の喉元に刃先が触れ、引こうとした時であった。
雄一の額に滲む脂汗と2人のアクマのような笑みが現在の優劣を示していた。
「何か、お願いしたい事があるんじゃないんですかぁ? 私達は優秀ですよ?」
「そうですよ、私達が出来る事なら、いくらでも、お力をお貸ししましょう! だって、私達はオ・ト・モ・ダ・チ! ですから! ねっ、ユウイチ殿?」
こうして、雄一は最終決戦を白星で終える事が叶わなかった。
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ザガンへのモンスター襲撃から2週間が経った。
雄一達は港でダンガ、家に戻る為に船の前にいた。
見送りにノースランドとミラー、エイビスがやってきていた。
ミラーとエイビスは雄一の依頼の冒険者の生活の補填の為、もうしばらくザガンに残る。
子供達は子供だけで別れをしているらしく、アリア達はこの場にいない。
冷静に頷くノースランドが雄一を指差して、銀髪のキツネの獣人の幼女、巴に質問する。
「この有様はなんだ?」
「なんだもへったくれもないのじゃ。お前の息子のヒースを闇に葬ると煩いのでこうしておる」
呆れるようにキセルを咥える巴は雄一を見つめる。
雄一は、鉄の鎖で雁字搦めにされ、荒縄で猿轡をされて転がされていた。
猿轡されて喋れない雄一であったが、巴に向かって必死に何かを言っていた。
「解け? ダメじゃ、解いたらヒースを斬るつもりじゃろ? 気持ちは分かるが娘に絶縁状を叩きつけられるぞ?」
絶縁状という件で雄一の瞳に激しい葛藤が過るが、打ち上げられた魚のように跳ねて暴れ出す。
どうやら、どうしたらいいか分からないがジッとしてられないらしい。
無駄に暴れる雄一を眺めていると街の方から走ってくるテツの姿があった。
駆け寄ったテツはミラーに小さなカバンを手渡す。
「これでいいんですか? 言われた場所にあったものを持ってきたんですが?」
「ええ、これで間違いありません」
ミラーはそう言うとカバンから小瓶を取り出すと小瓶の蓋を開け、その中に針を浸す。
透明な液体が滴る針を迷いも見せずに雄一の首に刺す。
刺された雄一が先程より激しく暴れ出す。
慌てた様子のテツがミラーの針を持つ右手首を掴むと問い質す。
「何をしてるんですか!?」
「いえね? おとなしくなって貰おうとレッサードラゴンも1発で昏睡する捕獲用麻酔を打ったんですが……効いてない?」
鎖を千切ろうとガチャガチャ鳴らす雄一を見て首を傾げるミラーを見るテツは「モンスター用を迷いもなくですか……」と恐ろしいモノを見るように後ずさる。
「いや、効いておるのじゃ。ご主人を抑えるのが少しだけ楽になったからのぉ」
「なるほど、鎖だけで動きを抑えられているカラクリはそう言う事ですか」
エイビスが巴を言葉を受けて、納得がいったとばかりに頷いてみせる。
それだけでなく、この鎖にもホーラの渾身の魔力が込められた付加魔法がかけられていた。
何やら納得顔になったノースランドは巴に確認を取る。
「今なら何を言っても、ユウイチは何もできんのか?」
「まあのぉ。さすがのご主人も無茶はせんじゃろうから大丈夫じゃ」
なるほど、と頷くとノースランドは未だに跳ねる雄一の耳に口を近づける。
「お前の所の娘の嫁入り、こちらはいつでも歓迎だ」
にこやかな笑みを浮かべるノースランドを雄一は血走った目に涙を浮かべて、怨嗟の言葉を吐きながら暴れるがノースランドには伝わらない。
そんな2人を呆れた顔をして見つめる巴はノースランドを諭す。
「ご主人を煽るな、麻酔の力を凌駕しそうになっておるのじゃ」
そう言う端から雄一は猿轡を噛みちぎる。
「レイアァ! お父さんは決して許さないぞぉ!!」
そんな情けない父親の嘆きの声が港に響き渡った。
雄一の叫び声を少し離れた場所で聞いていたアリア達は苦笑を浮かべる。
「レイア、何かしたの? 向こうに行くなら僕をユウイチさんに紹介して欲しいんだけど?」
「駄目だ、ヒース。アタシも頑張ったんだけどダメだった。次に会う時には何とかしてみせるから」
焦るレイアがヒースを止める。
2年後にヒースがダンガにやってくるという話を聞いていたので、レイアは次にという約束を口にした。
ヒースとしては、画面越しに見ただけで顔も分からないぐらいの距離の映像だったので雄一がどんな人が凄く興味を持っていた。
そんなヒースの肩を掴む澄まし顔のミュウが言ってくる。
「命、大事。ヒースとお別れ悲しい」
「えっと、元気で、また会おう、かな?」
ミュウの言いたい事を理解できなかったヒースは勘違いをする。
誤解を解かないほうが良い気がしたアリア達は苦笑いをして流す事を選択した。
首を傾げるヒースを眺める一同にホーラが声をかけてくる。
「そろそろ出航らしいさ。お別れはしっかりしとくさ」
ホーラの言葉に、もう? という感じで物悲しい気持ちになるが若干1名固くなる者がいる、レイアである。
それに気付いたスゥは隣にいるレイアを見つめるとガチガチに固まってるレイアの背中を叩き、ウィンクしてみせる。
動きをギクシャクさせながら手を差し出すレイア。
「に、2年後に会おうなっ!」
「うん、僕はそれまでに『試練の洞窟』をソロ攻略できるように頑張るよ!」
赤面するレイアに輝かんばかりの笑みを浮かべるヒースと握手する。
握手を終えたヒースが咳払いをすると姉のアリアに手を差し出す。
「ま、また会いましょう。僕は誰かを守れる男になってみせます」
「ん、また」
頷くアリアと握手するヒースの視線が胸にいった後、アリアの顔を見て赤面すると慌てて手を離す。
そして、スゥとミュウとダンテに駆け足のような挨拶をしたヒースは赤面したまま小走りでこの場から離れながら手を振る。
「また、会おうね!」
皆でヒースに手を振り、再会の約束の「またね」を言うアリア達であったが、1人、納得がいかない顔をしているレイアが緩慢な動きで手を振っていた。
「なんで、アリアとアタシでこんなに差がある? 顔はそっくりなのに!」
何故だ、と言いたげなレイアにスゥが悲しい現実を伝える。
「ヒース、胸を見てたの」
「男の子はオッパイが大好き」
自信ありげに胸を張るアリアを見つめるレイアは後ずさる。
そう、そっくりな双子なのに2人には決定的な違いがあった。
8歳にして成長の兆しが見えるアリアと成長の兆しが見えないレイアの違いがあった。
以前、風呂に入っている時にレイアは胸などに興味がないと言っていたが、前言撤回する覚悟を完了する。
アリアにどうしたらいいか問おうとするレイアだが、アリアが全部伝えたとしてもアリアを抜くのは今からでは無理と判断する。
振り返った先にいた頼りになる姉に助けを求める為に駆け寄る。
「ホーラ姉! 胸を大きくするには……」
レイアはホーラの顔から視線を下に下げていくと走り出した足が止まる。
短い沈黙が下り、見つめ合うホーラとレイア。
踵を返すレイアはその後方にいたポプリとシャーロットに声をかける。
「ポプリ姉! シャロ姉! 胸を大きくする方法の伝授をお願いします!!」
「おーほっほほ、正しい選択ですよ、レイア」
「レイアァ!! どういう事がしっかり説明を聞くさ?」
胸を抱き締めるようにして赤面するシャーロットはメリーを連れてホーラとポプリの傍から離れる。
シャーロットのように逃げないとばかりに高笑いしながらローブから胸を突き出すポプリと半泣きのホーラに挟まれたレイアが右往左往する様をアリア達は笑みを浮かべて見守った。
9章 了
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