232話 姉のプライドのようです
活動報告に書き忘れましたが、ここのところ土曜日が更新できない状態になっておりますので、遅れがある内は更新しますが、横並びになったら落ち着くまで土曜の更新はありませんのでご了承ください。
ザガンを出た辺りの所で、ホーラとポプリが地面に倒れていた。
2人共、震える手で必死に突っ張って起きようとするが、頭が上がるだけで体が地面に張り付いて動けないような様子を見せていた。
そんな2人に手を翳す雄一は、呆れたらいいのか、感心したらいいのか悩ましい顔をして回復魔法を行使する。
「いい加減に諦めたらどうだ? 今のお前達には一歩実力が伴っていない。後、一歩には違いないが、その一歩はお前達の次へのステップへの壁だ。短時間で体を虐めてもモノにはならないぞ?」
雄一の回復魔法で傷や骨折は治ったが、体力と血が戻らない。
とっくに体力の限界を超えているはずの2人は、骨さえ折れてなければ動けるとばかりに歯を食い縛って腕を突っ張って上半身を起こし始める。
起こし始めた体を覆うはずの服は、数々の雄一の攻撃を受けて扇情的な様子を見せていた。
それからエチケットとばかりに目を逸らす雄一が溜息を吐きながら言う。
「服だってボロボロだ。俺の回復魔法では傷や骨折は治せるが体力や血は戻らないのは知ってるはずだし、今も実感してるよな? 少し休め」
「嫌さ……テツは再試験を受けれるのに、アタイがお払い箱というのは納得する訳にはいかないさ!」
「そうです、私達にもプライドはあります。テツ君……弟、妹に格好の悪い所を見せる訳にはいきません。後、ユウイチさんに裸を見られる件はバッチコイです!! 自信がありますからっ!」
そう言ってくるホーラとポプリは活きた目をして雄一を見つめてくる。若干一名、こちらが想定するより余裕を隠してる疑惑が見え隠れするが、腹芸が得意な子だから判断がつかない。
ポプリには、その言動が恥である事を理解して欲しいと雄一は切実に祈る。
2人は震える膝を両手で押さえながら立ち上がる。
肩を竦める雄一は2人に思い留まらせるつもりで残酷だと分かりつつ口にする。
「テツが今まで、お前達と同格、僅かの差で格下に見えていたのは、アイツが自分を見つめ、認めようとしなかったからだ。アイツは……」
「知ってるさっ!!!」
肺にある空気を全部、声にしたのかと聞きたくなる程のホーラの大声がその場にいる者達に叩きつけられる。
普段のホーラは良く怒鳴る事があるので大声を出す事は珍しくない。だが、今回はその叫びに込められたホーラ自身への苛立ちが悲痛な思いに変換され、雄一は思わず、言葉を止めてしまう。
「知ってるさ……ユウよりアタイはテツと一緒にいたさ。そうさ、アタイは最初から今までテツの上に行ったと思った事なんて1度もないさ。どんなに努力してもテツはいつもアタイの前にいたさ」
ホーラは、自嘲するように笑うと、「そりゃ、同じ人物に教えを受けてるんだからね」と唇を噛み締める。
「縮まらない距離に苛立つ気持ちを抑えて、ユウから与えられる訓練と共に師匠、ミチルダの下に通い、簡易付加魔法と魔法銃の使い方などを必死に教わったさ」
当時の事を思い出すように遠い目をするホーラをポプリは辛そうに見つめる。
ホーラとポプリはなんだかんだ言いながらも仲が良かったので定期的に手紙のやり取りが成されていた。
その中にはテツとの実力の話に触れた事があったのだろう。
負ける訳にはいかない、というホーラの想いを受けたポプリは女王職を全うしながら訓練に勤しみ、アグートに師事を受けに行っていたらしい。
「ところがどうさ。テツの何倍も努力もしてたアタイを置いてけぼりにするように少しずつ距離を空けられる。そして、テツの身長がアタイを抜いた時が機にその距離は一気に広がった」
そう叫んだ瞬間、膝から力が抜けたようで腰砕けになるホーラを隣にいたポプリが支える。
叫び過ぎて、息が荒くなってるホーラに代わり、ポプリが雄一を見つめて話しかける。
「確かにテツ君は強い。でも、ユウイチさんが言うように自分の事を見ていないから、実力が発揮できてない。それを心配する気持ちもある。だけど、私達は嫉妬もしてます」
ホーラを抱え直しながらポプリは黙って聞いている雄一を見つめて続ける。
「テツ君が困った時に頼られる存在であるために私達はみっともなくとも足掻くのです」
「そんな事しなくてもテツはお前達を見下したりはしないぞ?」
「ユウ、さっき、ポプリが言ったさ。アタイ達にもプライドがあるって?」
2人の言葉を受けて、2人の気持ちも理解したが、やはり、このまま戦い続ける事はリスク以外の何物でもないと判断した雄一は力ずくでも寝かせようと身構える。
雄一が構えを見せた事で緊張したような様子を見せた2人だったが、突然、雄一は視線を2人から切り、城壁の方を見つめる。
すると反対側から笑い声がする。
実体化して黙って見つめていた巴であった。
「お前達のやる気は買うのじゃ。じゃが、本命が来たようじゃから、お前達は袖の向こうに下がって休憩でもするんじゃな」
楽しげにする巴を訝しげに2人は見つめるがすぐに答えに行き着く。
ホーラは舌打ちすると巴が座る岩を背凭れにするようにして腰を降ろす。ポプリもホーラに並ぶ。
2人も雄一と巴が見つめる先を見ていると、太陽を背に飛び出してくる姿があった。
雄一の前に着地した姿はアルビノのエルフの少年、テツであった。
テツを見つめる雄一がテツに話しかける。
「答えは出たか?」
「はい、でも、その前に……」
その言葉を吐いたと同時にテツはツーハンデッドソードを抜き放ち、迷いも手加減もない剣戟を雄一に放つ。
それを一瞬でイエローグリーンライトのオーラを纏う雄一に掌で掴まれる。
眉を寄せる雄一がテツを覗き込むようにする。
「俺の質問の解答を求めたつもりだが、これが解答だと言う気か?」
「まさか、これが答えだというなら昨日、ユウイチさんは質問を投げかけずに傷が癒えたら再戦させてやる、と言ってたでしょ?」
頬に汗を垂らすテツは、気合い負けしないように口の端を上げて雄一の質問に答える。
テツは掴まれているツーハンデッドソードを無理矢理取り戻そうとしたり、押し込もうとせずに柄を持った状態で雄一に廻し蹴りなどを放ち、テツの攻撃をギリギリ避ける雄一。
ギリギリ避けてバランスが崩れた雄一の胸をドロップキックするようにするとツーハンデッドソードを取り返す。
雄一の胸で跳んだテツは空中で一回転すると地面に着地する。
「じゃ、何の為に斬りかかった?」
「僕を鍛えてくれた人は言葉で伝えきれないと思ったら拳で語れ、という人なんですよ。それに昨日、ボコボコにされて手も足も出なかったまま、口頭で認めらるのは嫌なんですよ。僕にもプライドがありますし、男ですから!」
真面目な顔をして言うテツのセリフを聞いた雄一と巴は思わず噴き出してしまう。
それと同時に岩に凭れる2人は明後日の方向に韜晦を始めた。
いきなり、噴き出した雄一と巴に目を白黒させ、テツに興味がありませんよ、とばかりにテツに視線を向けない姉達にテツは置いてけぼりにされる。
「まったく、家の子達は似なくていい所ばかり似るんだから困ったモノだ」
笑いを引っ込めた雄一はテツに拳を突き付けて「かかってこい!」と告げた。
それから1時間が経った頃だろうか?
テツの一方的な攻勢で時間が経過していた。
元々、雄一は受け身に廻るつもりだった。
そんなテツを見つめていたホーラ達はテツの動きに驚きを隠せなかった。
「テツ君の動きがいつもと違う……」
最近、北川家に戻ったポプリであったが、テツの戦闘スタイルが過去と一緒だったので、突然、戦い方が変わった事に驚いたようだ。
「ああ、感じだと、昨日の最後の時のテツに近いさ」
ホーラが見つめる先のテツは、一撃一撃を力一杯放つが、普段であれば受け止められたら、そのまま押し返そうとする。
しかし、今は受け止められるとすぐに引き戻すと斬りかかる。
それだけではなく、最初に見せたように剣だけに頼らず、使えるモノは全部使うという考えか、手足も使って手数を増やしていた。
「あの馬鹿、遂に気付いた?」
「いや、まだじゃろ。テツは頭が悪い奴じゃが、手札にある戦い方を組み立てる事だけは上手いからじゃ」
そう巴に言われた2人はテツの様子を見つめると確かに手数は増えているようには見えるが単調だったり、チグハグしていて決して効果的ではなかった。
巴に言わせたら、こけそうになった時に咄嗟に掴む所を探すのと大差がないと肩を竦める。
肩を竦めていた巴だったが、何かに気付いたようだ。
「んっ? ご主人が何かに気付いたようなのじゃ。何やら楽しげな様子じゃから楽しみじゃな」
巴の言葉を受けて、ホーラとポプリは、テツと雄一の次の行動を見逃さないと見守り始めた。
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