200話 国を滅ぼしたり、救えても……らしいです
はい、これで7章終了のお知らせになります。
いつも通り、数話、幕間を挟んで次章に向かいますので、7章、最終話を楽しんで貰った後、幕間もよろしくお願いします。
和平会議から1週間の時が流れた。
雄一とリホウはアイナに会う為にアイナの部屋へとやってきていた。
そこにはルーニュと一緒に枕に埋もれるダレたパンダのような2頭身の生き物が幸せそうな顔をしていた。
「おい、アイナ。全部説明してから寝ろ。まだ途中だ」
「んん? どこまで話したっけ? そうそう、つまりベへモスがいなくなってるから、代わりを探してこないところだった」
ダレたパンダが欠伸を噛み締めて、涙目で雄一達を見つめる。
このダレたパンダように転がってるのが雄一達が知るアイナであった。まあ、実際にパンダという訳ではない。8頭身が縮んで寝そべる姿がそう見えるだけの話。
どうやら、よそ行きの顔と家の顔を使い分けているようで、和平会議の時の姿は、かなりレアな姿であった。
「大地が沈もうとしたら分かる仕掛けはしておいたから、沈む前に私の力で支える。でも私でも1年ぐらいしか支えられないからね? それまでに代わりを探してくれば問題解決! ユウイチちゃんなら楽勝だよ。ということでオヤスミ」
言ったら、即寝息をさせるのを雄一とリホウは見つめて、頬に汗を流す。
半端ない睡眠への欲求であった。
「8頭身のアイナさんなら、寝込み襲っていいって言われたら嬉しいですが、これは萎えますね……」
「……言うな」
涎を垂らしながら幸せそうに眠るアイナと大口開けて眠るルーニュを放置して雄一達は部屋を後にした。
廊下を歩きながらリホウにシキル共和国の報告を求める。
「アニキが提示した2つ目の国民の国籍を変える自由をあっさりと飲みました。1つ目より性質が悪い事にまったく気付いている様子はまだありませんので、スラム街の子供と非合法の奴隷にされてる者、そして、刑務所に入れられてる思想犯扱いされて投獄されている有能なモノを優先に意思確認した後、とりあえずパラメキ国入りをさせています」
「そうか、馬鹿でもいつか気付く、なるべく急いでくれ」
そう言うと雄一は笑みを浮かべる。
雄一の狙いはシキル共和国の破壊であった。
1つ目の手を飲んでいれば、シキル共和国は存続ができた。そして、現在、上に居る者達も手痛い散財は食らうがそれなりの生活が保障されたが、目先に囚われたトップ陣は2つ目を選んでしまった。
シキル共和国のトップ陣に不満を持ってないのは、上流階級のみである。中が歯抜けしてる以上、下ばかり残り、そこに国籍を変える自由が与えられ、迎えまで来てくれるとなれば、どういう選択をするかは考えるまでもない。
当然のように国籍を変える者が続出する。
今までなら下の者など使い捨てで吐いて捨てる程いるという認識だっただろうが、最終目標が達成されたら、金を使う相手、絞り取る相手が存在しなくなる。
生産性が完全にストップに追い詰められる。
となると溜め込んだ財産しか残らなくなり、国内で必要な服飾、装飾は勿論、生きていくうえで必要な食料品を全て国外から買わなくてはならなくなる。
常に消費し続けるしかなくなる。
1を選んでいれば、財産を放出するだけで済んだが、2を選んだ以上、粘れば粘るだけ、財産放出だけでは済まなくなる。
罪を償う方法が賠償金ではできなくなるからであるのだから当然であった。
更に悪い事にシキル共和国には港が存在しない。
大陸の端なので海には面してるが港が作れる立地が存在してないのだ。
大陸の外に金銭に替えれるモノを持って逃亡も難しい状態だ。
その話をリホウがエイビスとしてた時に話を聞いた時は痛快であった。
「買うしかできない立場で駆け引きができない相手、最高ですね。言い値で買わせられるなんて最高のお客様です。どれくらいまでなら買ってくれるでしょう? とりあえず3倍からスタートして、他の大陸に逃げようという動きがあれば、しばらくは阻止してやりましょう」
素晴らしく良い顔をして話してたらしいが、見なくても想像するのは難しくはなかった。
「それでペーシア王国の宰相一派はどうした?」
「ちゃんと、居場所は掴んでますので、もう少し遊ばせてください」
暗い笑みを浮かべるリホウを見つめて雄一は笑みを浮かべる。
「シャーロットにしばかれたのがそんなに堪えたのか?」
リホウは、ぐぅ、と唸り、何故? と口にするが、すぐに理由に気付いたようだ。
「あの裏切りエルフかぁ!」
憤るリホウを笑いながら廊下を歩いていると曲がり角から話題に上がってたシャーロットが姿を現す。
リホウはバツ悪そうな顔をするなか、シャーロットはそれに気にする様子を見せず、雄一の下に行くと片膝を着く。
「いきなりどうした?」
「私、シャーロットは国に伯爵の地位を返上し、国を出る手続きを取りました」
真顔で言うシャーロットに雄一もリホウも目を点にする。
2人の様子などお構いなしにシャーロットは続ける。
「私は只の自称騎士になりました。ですが、それは全てはある人の騎士になりたいがため……」
そういうとシャーロットは腰にある剣を抜いて両手で捧げるように持ち上げる。
「私の初めての剣を捧げる主になってください。ユウイチ様!」
シャーロットは、目を瞑って断られるのを恐れるように歯を食い縛る。
今ある物を全て捨ててまで雄一の騎士になりたいと言ってくるシャーロットを見つめる。
「俺なんかの騎士になっても、お前が思うような栄誉はないかもしれないぞ? まして、俺は国は持ってないし、持つ気もない。興す気ももっとない」
「私もそんな事は望んでいない。ここの温かい場所の主の貴方に仕えたい、ただそれだけです」
不器用なまでに真っ直ぐなシャーロットに雄一は嘆息しか洩らす事ができなかった。
不安で一杯一杯になって目を瞑って震えるシャーロットの想いを蔑ろにする事は勿論、雄一にはできる訳もなく……
「俺はこういう作法は知らん。どうしたらいいんだ?」
雄一がそういうと分かり易いぐらい表情を明るくするシャーロットに苦笑する。
シャーロットは嬉しそうに手順を説明するのでそれに沿って雄一は動き、儀式を完了させる。
「これで完了です。死が分かつ時まで私は主と共に……」
頬を朱に染めるシャーロットの言動に首を傾げる雄一にリホウは拍手をする。
「さすがアニキ、最近は色々受け入れ始めたから覚悟をお決めになられるのが早かった!」
「ん? どういう意味だ?」
怪しい空気が漂い出し、雄一は嫌な汗を掻き始める。
「女騎士が国に剣を捧げるという事は、身も心も国に捧げ、結婚せずに国の為に尽くすという意味合いになります。ですが、それが個人、しかも異性である場合……」
リホウがそこまで口にした瞬間、雄一はリホウの胸倉を掴んで持ち上げる。
「お前、知ってて黙ってたな!」
「あ~、はい。でも今回は楽しいからじゃなくて、シャーロット嬢に引け目があったんで、あそこまで捨て身で来てるのに言えませんよ……」
雄一とリホウのやり取りが聞こえてないぐらいに喜びまくってるシャーロットを見て、雄一は今更、撤回もできないと泣きそうになるのを堪える。
肩を落として建物を出ようとして歩き始めると我に返ったシャーロットが必要以上に、主、主と連呼して嬉しそうにスキップするようにして着いてくる。
玄関に行くと男の子が雄一を見て、いたぁー!、と叫ぶ。
「ユウイチ父さん、お客さんがきてるよ」
そういうと雄一によじ登り、背中から抱きつくようにしてぶら下がる。
「客?」
そう呟く雄一だが、この流れは最近したようなと後ろにいる嬉しそうにしているシャーロットを見つめて、まさかな、と呟く。
表に出ると雄一と男の子を見て、駆けよってくる眼鏡をかけたシャーロットと変わらない年頃の三つ編みの少女の姿があった。
「ユウイチ父さん、あの人」
背中にいる男の子が教えてくれるが違うと否定して欲しいと思う雄一がいた。
「あ、アンタがユウイチはん? ウチ、イーリンっていいます」
「ああ、俺が雄一だが……」
最後まで雄一が喋る前にイーリンは話し始める。
「あぁ~良かったわ。ウチな? シキル共和国の前身の国の王族の生き残りやねん。でも貧乏でな、語るのも涙、聞くも涙な話でやっとの思いでダンガ入りしたんよ」
「はぁ……」
どうやらリホウですら対応に苦慮するらしく、一生懸命に間を計ってるようだが無理のようだ。
「これでも王族の血が流れてるせいで、ウチを担ぎ上げて国を興そうというアホがおりましてな? 巻き込まれた堪らんと思ったウチはナイファの王子に嫁ぐ、あっ、別に妾でも良かったんやけど、乗り込んだんですわ」
話を聞きながら雄一は汗を流す。これは話し出したら止まらない地域の人と同じだと。
「行ってみたら、可愛い男の子やったけど、ウチより3つも下やし、えらい可愛らしい婚約者がいてな、1人以上は要りませんって言われて、ウチ、ポイされそうで涙を流す直前までいきましたわ」
雄一は殴って黙らせようかと本格的に悩むが相手は悪意はないし、女の子を殴るのはな、と真剣にどうするかと苦慮する。
「そしたら、ユウイチはんの事を紹介されましてな? 何でもお嫁さんがぎょうさん居るって話やし、1人ぐらい紛れても分からんと言われて、「これやぁ!」と思って来たんですわ」
ナイファ城がある方向を睨み、ゼクスゥ!! と怨念を送る。
「ユウイチはんの所やったらアホもこんやろうし、ここでは色んな研究も勉強もできるって聞いて、ウチ堪らんようになりましてな。元、王族ですけど贅沢に興味はありませんので置いてくださいな」
どうしたらいい、とリホウに目を向けるが目を背けられる。
「ユウイチはん、ええ男ですし、夜のお誘いもいつでもお待ちしてますよ? 同じ年頃の娘ぐらいにはウチも育ってますんで後悔はさせません」
確かにホーラより女性らしい体つきはしてるが、違うと雄一は被り振る。
「では、早速、見学してきますわぁ!」
そう言うと飛び出すように実習室が固まる建屋に向かっていく。
見送った雄一達は、疲れたように嘆息する。
「嵐のような女性でしたね、主?」
異論はないが、これはどうやって覆せばいいのか、さっぱり分からず途方に暮れる。
国を滅ぼしたり、救う方法はあれこれと浮かぶが自分を救う方法が思いつかない雄一は遠い目をする。
そんな雄一の肩に手を触れて、良い顔でサムズアップするリホウが言う。
「アニキ、やりました! これで大陸コンプリートです。もうアニキにこの大陸には安息の地はありません!」
そんなリホウに返礼として、昔、テツにした骨はギリギリ折れないが痛みが長続きする拳の入れ方を体で教えてやる事した。
リホウが、「気絶しそうなほど痛いのに気絶できない!!」と地面で跳ねるエビのようにする姿を見ながら雄一は声も上げずに泣いた。
7章 了
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