第122話 「恨みは買いまくってんだろうけどよぉ……」
※今回は水津(人質を取って荊斗をボコろうとした大輔の手下)視点です。
時間的には三章終了時から一週間ほど後になります。
『だからさァ! もう無理だって! ヤベェにも限度あるっての!』
「いやあの、ノリオさん? ちょっと落ち着いて」
『無理無理無理、洒落んなんねぇ! オレは逃げるぜ、今夜!』
「でもフケるっても、どこ行くんスか?」
コチラから訊ねると、大声で捲し立てていたノリオが口ごもる。
とくに計画してないのか、行き先を言いたくないのか。
池袋のチーム『リモート・フォート』にも籍を置いてる、大輔さんが用心棒として頼りにしていたウチの喧嘩屋が、今は完全にテンパっていた。
ポケベルに入った知らん番号に連絡したら、様子のおかしいノリオから延々とよくわからん話を聞かされてるのが現状だ。
『それより、アレだ! もう知ってんだろ、ゲンのことっ!』
「一応は……でも、アレってマジな話なんスか?」
『マジもマジ、大マジだって! でもよぉ、大麻でもMDMAでも好きなだけやれんのに、ガスパン中に煙草吸って部屋ごと吹っ飛ぶとか、そんなマヌケな事故ありえねぇだろっ! なぁ!?』
大輔さんの下についてる、神楠生じゃない学生のまとめ役だった源田。
そいつが大火傷で病院送りになったと聞いたのは、昨日の夜だった。
ガス爆発、までは聞いていたが詳細については今しがた知った感じだ。
ここ数日、身内から事故や喧嘩に関する情報がいくつも流れてくる。
ちょっと不穏な状況かもな、とは思っていたが――
『やっぱよぉ、ウチらを的に掛けてんのがいるんだって!』
「んー……トラブルの話は多いっスけど、ウチらはいつもこんなんな気も」
『バカ言ってんなよ! 前は喧嘩でヤバいってなっても、大体はやりすぎて揉み消しが大変とか、そんなんだったろが! 最近のは全部、コッチが狩られてんだわ』
「つっても、コッチのケツ持ちは雪枩っスよ? 正面切って仕掛けてくんのは、流石にバーサーカーすぎるんじゃ……」
言いながら、薮上のムカつくニヤケ面が浮かんでくる。
まさかな、と思いつつ首を振っていると、ノリオがまた吼える。
『その雪枩が、もうダメって話もあんだよ! 屋敷が襲撃されたとか、会長が身柄攫われたとか、そんな噂もな。実際、本家とは連絡取れねぇし、大輔も高遠も音信不通だ。オメェの方はどうだ、水津?』
「いや、連絡つかないっスね。緊急時はココにかけろってヒャッケン――百軒さんに言われてた番号もダメで」
手掛かりになりそうなモノなら、実は自宅に置いてある。
大輔らしき男が犯られてるビデオと、本家の状況に関する詳細な説明メモ。
両方がマジなら雪枩はもうダメそうだが、俺には真偽の判断がつかない。
だけど、相談できそうな相手とは、まるで連絡が取れずにいる。
下手に表に出すと、後々面倒なことになりそうだし、どうしたものか。
「えっと、大輔さんのことなんスけど――」
『そうそう、大輔に連れられて、ヤブガミってガキの家に乗り込んだんだけどよ。そいつが意味わかんねぇ程にバカ強ぇ……オレの他に五六人いたのに、全員返り討ちだ』
「アイツはまぁ、ヤバいっスね」
『オレが敵わねぇのに、大輔じゃ無理だろ。意識が飛んでる間、何があったかは知らんが……オレと他の連中は、お前らがメインで使ってる溜まり場に捨てられてた』
「それって、薮上がやったんスか?」
『たぶんだけど、本家の連中だろ。治療もされず放置されてたわ。で、そっから大輔に会ってないし、幹部連中も出てこねぇし、何がどうなってんだかサッパリだ』
トーンダウンしたノリオに、あのビデオとメモについて伝えるか迷う。
竿役の二人は、本家から大輔さんや高遠のところに時々来ていた奴ら。
あんな映像が存在してる経緯はわからんが、普通じゃないことが起きてるのは確かだから、メモに書かれた本家で起きたトラブルも本当なのかも。
問題は、これの出所が薮上らしくて、俺に渡す意図がわからんことだ。
『とにかく、オレはしばらく姿を消すから! オメェも隠れとけ!』
「隠れるっても、アテもカネもねぇっていうか……そもそも学生っスよ」
『んなトボケたこと言ってる場合か? ヤられた連中のザマ知ってんだろ』
「いや、どんな状態なってんのか、ゲンの他は知らないんスけど……」
俺が言うと、受話器の向こうで「くゎあああぁんっ」と変な嘆きが。
何だかんだで、俺のことを心配して言ってくれてんだろうか。
『マジかよ!? じゃあ教えてやっけど、どいつもこいつも回復不能だ! もう一生、治らんタイプの傷を残されてんの! 指を落とされる、鼻を削がれる、目を潰される――そんなんなっ!』
「えぇええぇ……いやあの、シャレんなってなくないスか」
『だぁら、そう言ってんだろがっ! いいか!? とにかく相手はイカレてっし、集団で動いてるっぽい。捕まったら終わりだっ、マジで覚悟決めろ!』
それだけ言うと、ノリオは受話器を叩きつけて通話を終わらせた。
プープーいってる機械音を聞きながら、ゾワゾワ不安が込み上げる。
大輔さんと暴れ回ってた俺たちは、それなり以上に喧嘩慣れしてるハズ。
なのに、皆が揃って負け続けてる、ってのは一体どういうことだ。
薮上なら出来そうだが――そこまでやる理由がアイツにあるか?
「恨みは買いまくってんだろうけどよぉ……」
集団でボコられる程度なら、まぁ仕方ねぇかもと思わなくもない。
でも、指を落とす、鼻を切る、目を潰すとなると、いくら何でもやりすぎだ。
そりゃあ、やりたい放題やってたし、バレたら少年院直行なヤバいやらかしも、いくつかはあるだろう。
だけどそんなの、全部もう終わったことだし、今更な話でしかねぇ。
映画やドラマみたいな復讐を計画する、自分に酔ってるだけって話だろ。
加減を間違えるとか、その場のテンションに流されるとかで、後遺症が残るようなケガをさせたってのも、何回かはあるかもしれない。
だからって、それをそのままやり返してくるとか、マジ正気じゃねえ。
つうか、こういう時のためのケツ持ちだろうに、何してんだ雪枩は。
「何なんだよ、マジで……何なんだってんだっ、クソがっ!」
所詮はガキの遊びだってのに、どんだけ余裕がねぇんだよ。
無茶できるのは、十代の間だけ――ちょっと延長しても二十過ぎまで。
そんな短期間のやんちゃも許されないとか、世間ってのは冷たすぎる。
だから安全に遊べるよう雪枩の看板借りてたのに、一体どうなってんだ。
もし本家の襲撃がマジで、会長や大輔さんに何かあったらどうすれば。
プライドを捨てて、警察に駆け込むべきなんだろうか。
でも、雪枩がもうダメってのがデマだった場合はマズい。
事情を説明すれば、ポリにウチらの内情をバラすことになっちまう。
それが知られたら、本家の連中に何されるかわかったモンじゃない。
とりあえず、ノリオが言うように遠くまで逃げるべきなんだろうな。
源田の大火傷が事故じゃないなら、家に籠もってるのも危険かも――
『ピンポーン』
それ正解と告げるようなタイミングで、インターホンが軽やかに鳴った。
長くなりすぎたので二話に分割しました。続きは数日後に更新の予定です。
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もっと悲惨な展開が見たい! という紳士淑女はコチラの悪趣味ホラーをどうぞ。
『友達の友達』
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