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モブキャラ人生が終了したら二周目が始まったんで、今度は主人公になりたい  作者: 長篠金泥
第3章

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第115話 「だいぶカリスマ不足のマンソンだな」

 ケラケラ笑っている米丸よねまるから、拘束された綾子あやこに視線を移す。

 かたわらのサンキチは、照明に謎刃物をかざしてぎ具合をチェックしていた。

 少し離れた場所からは、下浦しもうらがビデオカメラを手に二人の姿を撮影。

 守鶴もりつるは何か言っているようだが、タオルで猿轡さるぐつわされていて聞き取り不能だ。

 バケットハットの男は、薄笑いを浮かべて銃口をコチラに向けている。

 荏柄えがらは黙って座ったまま、煙を吸ったり吐いたりするだけで動かない。


「それじゃあね、これから佐久真さくま珠萌たまも――くまたま、解体バラしていきますんで。記念すべき光景をね、シッカリ目に焼き付けておくように」


 やろうとすることに不似合いな、テンション低い声でサンキチが宣言する。

 以前にも何度となく見た、愉悦ゆえつひたりきった薄気味悪い笑顔で。

 これはハッタリでも牽制けんせいでもなく、本気でやるというサインと判断した。

 奥戸おくと芦名あしなもそれを察してか、いつでも飛び出せる位置に移動。

 俺としても早急さっきゅうにサンキチを無力化したいが、ショットガンが邪魔だ。


「このままだと、アンタも誘拐殺人の共犯になるが……いいのか?」

かまやしねぇよ。俺らはココにいなかった、ってなるだけだ」


 動揺を狙ってハットに質問を投げるが、完全に開き直ってやがる。

 み消せる根拠があるのか、それとも単にどうにかなるとナメているのか。

 それならば、と米丸の方に向き直って怒鳴どなり気味に詰問きつもんしてみた。


「どういうつもりだっ、米丸! 今の時点でもうアンタは終わりだし、テールラリウムも終わりかねない! これ以上何かするなら、事務所も業界も巻き込んだ一大事になる!」

「アハッ、最高じゃないですかぁ! どうせもぅねぇ、テールは壊れちゃって……全部がおしまいなんですよ。だったらさぁ、残骸ざんがいでも何でも、残ったのを派手に燃やし尽くして伝説になるしかないでしょ? 熱狂的なファンが起こしたアイドルの猟奇殺人、その一部始終を至近距離で目撃するメンバー、解剖かいぼうの様子を克明こくめいに映した殺人スナッフビデオ……絶対、これでもう、誰もテールを忘れない」


 恍惚こうこつの表情を浮かべながら、芝居がかった物言いで応じてくる米丸。

 目的はわかったが、その内容は最悪だ――色々と理屈を述べているが、結局のところは古来よくある「自己顕示欲を充足させるための殺人」でしかない。

 大切に育ててきたグループが崩壊する絶望はわからんでもないが、破滅の美学だか何だかに付き合わされるのは、綾子にも俺たちにも迷惑なだけだ。


「伝説の一部として残りたいんだろ、元『ミミミ・シロップ』のマミは」

「アハハハッ、よく調べたねぇ……あぁ、あのアルジェント(ちっこいオッサン)情報かぁ。彼はあんま役に立たなかったけど、三吉みよしクンは今や主演男優だよ。くまたまを和製シャロン・テートにしてくれる、ヘルタースケルターのにない手だね」

「だいぶカリスマ不足のマンソンだな」


 マンソンを知っているのが意外だったのか、米丸は一瞬真顔になった。

 だが、何もなかったようにクーラーボックスから新しいビールを出して栓を開ける。

 チャールズ・マンソンが再注目されるのは今年のはずだが、あいつの曲が入ってるガンズのカバーアルバムが発売されたのは何月だっけか。


「それそろ、始めていいかな。頼まれたからにはね、ちゃんとやらないと。だから殺しますよ、うん……約束したからね。こういうのは、お座成ざなりじゃいけない」

「何言ってんだ、テメェは。米丸に頼まれたから殺すのか?」

「違う違う、違いますね。説明するまでもない、厳然げんぜんたる事実ですけど……君たちはバカそうなんで説明しますよ、はい。頼んできたのはくまたま、繰り返し繰り返し、何度も何度も、メッセージを送ってきましたよね。助けてほしい、解放してほしい、完全にしてほしいって。僕にだけ伝わるように、歌詞にアナグラムで組み込んだり、コラムに暗号を隠したり……あんなに必死に頼まれたら、流石に断れません」


 想定とはちょっと違う方向性で、サンキチがヤバさを全開にしてきた。

 ストーカーを演じる前からこんなだったのか、それとも綾子を追い回す生活をしている内に変なスイッチが入ったのか、詳細は不明だが完全に妄想世界に永住する構えだ。

 サンキチの中では、綾子からの依頼で今この状況になってる認識らしい。

 アルジェントの阿呆んだら、どこからこんな危険物を拾ってきたんだ。


「寝言もそのへんにしとけ、オッサン」

「わかってないですね……僕が手紙で伝えた通りのジェスチャーを三回。くまたまが去年発表した短編小説『クリーム色のカラスの羽根』に登場する、僕がモデルのキャラのジャケットと同じ色のスカート。サビの手前の振り付けで腕を動かすタイミングが早かったのは、歌詞の「ココでずっとキミを待ってる」を強調するため……つまり全部が、僕に早く迎えに来てほしい、ってメッセージだから。脱退前の最後のTV出演で、そういうのは伝わってるんです、ちゃんとね」


 ダメだ、何を言ってるのかはギリわかるが、脳が理解を拒絶する。

 現実と妄想の境界が曖昧あいまいになったヤツには、過去で――というか未来でも結構な頻度ひんどで遭遇しているので、珍しくもないし対処にも慣れたものだ。

 しかし、こういう基本まともなのに一部分だけ認知がゆがんでいるタイプは、コチラの想像を軽々と超えて珍プレーをやらかすので油断ならない。

 どうにかサンキチを止める手段はないか探っていると、またいやらしい笑い声を響かせた米丸が、ねっとりした視線を向けながら言う。


「もうさぁ、諦めちゃいな。彼は止まらないし、彼女は助からないの。薮上やぶがみクンたちは、くまたまのラストステージを飾るセットの一部。だから、邪魔しようなんて考えないで、楽しんじゃってよ。こんなの、もう二度と見られないよ? 使い捨てられるはずのアイドルが、命を捨てるだけで永遠を手に入れる奇跡、その目撃者に――」

「ああぁああああぁ、うるっせぇえええええええええええっ!」

「にゃぶっ――ぉぼぅっほぉおおおぉっ!?」

 

 情感たっぷりに独演会を続けていた米丸が、背後から首を掴まれ宙に浮く。

 不快げにえながら動いたのは、無言で何かをキメ続けていた荏柄。

 コイツらは米丸に雇われてたんじゃなかったのか――と困惑するが、最低限の判断力すら消し飛ばすドギツいのを摂取しているのかもしれない。

 そう納得した直後、荏柄は掴んでいる米丸を大きく振りかぶる。


「やっ!? な、なぁ、なんっ?」

「どぅうぅ、ふるぁあっ!」


 疑問符のついた声を漏らしつつ、小さく手足をバタつかせる米丸。

 それを無視した荏柄は、奇怪な掛け声を発して手にしたものを投げた。


「ぴぁっ――」


 もしかして、自分に何が起きたのか把握はあくできていないのでは。

 そう思わせる短い悲鳴を残し、山なりに飛んだ米丸が視界から消えた。

 人体が床に衝突する音は、予想より長く間を置いてから響く。

 どうやら一階フロアではなく、半地下フロアまで届いてしまったようだ。

 安否あんぴが気にならなくもないが、綾子の安全と比べたらどうでもいい。


「おいおいおいおい、ぅおいっ! マジかっ? マジかよっ!?」


 当然ながらビビり散らし、階下を確認しようとする下浦。


「いいから、君は君の仕事をしてください」


 それを制止するサンキチの言葉は変わらぬ平坦へいたんさで、動揺の気配はない。

 守鶴は異常事態の連続に耐えられなくなったか、全身を激しく揺する。

 椅子をガタつかせ、どうにか逃げようとしているが、恐らくは望み薄。

 流石に引きった表情に転じたハットも、ショットガンは構えたままだ。

 そして米丸を強制退場させた荏柄は、パイプをくわえて大きく吸い込み、しばらく溜めてから濃厚な煙を吐き出した。


「ふぅうううううぅううう……いいぜ。いい感じに、整ってる」


 大麻をベースに色々と混ぜ物をしてあるハーブか何か、だろうか。

 青臭さの中に混ざったケミカルな甘みが、鼻腔びこうまとわりついてくる。

 話に聞いたようなヤバさとも思えないが、どういうことだろうか。

 問題のクスリの効きを調整するため、コイツを吸ってるセンもあるな。

 ともあれ、無警戒に吸い込むとコチラまでキマってしまいそうだ。

 煙を手で払いながら、さりげなく遠回りに、荏柄との距離を詰めていく。


「スポンサーを投げ捨てちまったが、ココからどうすんだ?」

「どうもこうも、オメーらブッ殺して、ビデオ撮って、そんでエンドじゃん」


 言いながら首を小刻みに左右に振り、ドレッドをわさわさ揺らす。

 体格は俺よりもゴツいが、奥戸や芦名と比べればだいぶ見劣みおとりする。

 少なくとも、片手で五十キロ以上の人間を投げられるとは思えないので、さっきのアレはドーピングの賜物たまものだろう。

 怪力化されるのも面倒だが、苦痛にも鈍感になっていると更に厄介だ。

 何やっても止まらないなら、それこそショットガンでもぶっ放すしかない。


「やけにスカしてやがるな……どこのどいつがケツ持ってる?」

「あぁ? 勝手に寄ってくんだって。コッチが頼んだワケでもねぇ」

 

 やはり何かしらがブランクヘッズの背後に、いるにはいるらしい。

 だが、そこまで繋がりは強くないというか、互いに利用してるって程度か。

 裏ボス出現を警戒する必要がなければ、気持ち的にはだいぶ楽になる。

 それはそれとして、コイツの相手をするにもハットの存在が邪魔だが――


「うぉしっ、景気よく鳴らせっ! パーティなんだろっ!?」

「あいあい、了解っ!」


 荏柄のコールに応じて、ハットが素早くレスポンス。

 天井に向けてショットガンを発射し、轟音ごうおんが再び鼓膜に突き刺さった。

 その残響が消えぬ間に、奥戸はハットに、芦名はサンキチに向かって突進。

 水平二連ショットガンの装弾数は二発、補充もしてないから弾切れだ。

 俺から合図するまでもなく、それを理解して動いてくれるのは助かる。

 仲間のありがたさを噛み締めつつ、俺は四歩ほど先にたたずむ荏柄を見据えた。

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― 新着の感想 ―
ストーカーを演じてるうちにガチのストーカーになったのか、それとも最初からストーカーだったのか どちらにせよロクでもねえ
銃を無駄撃ちとは緊迫感がないほど薬中なのかな?主人公たち3人に刃物だけで勝てると勘違いしている? まあ人に向けて銃を撃つのはそれなりに狂気が必要だとは思うが。そういう意味ではマネージャーさんが一番狂っ…
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