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モブキャラ人生が終了したら二周目が始まったんで、今度は主人公になりたい  作者: 長篠金泥
第3章

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第112話 「モビルスーツっぽく言うな」

 諸々の後始末と下準備を終え、馬鹿共ブランクヘッズから押収したアメ車に乗り込んだ。

 フォードのトリノかサンダーバードがベースなんだろうが、センス皆無の改造によって謎めいたシロモノになっていた。

 ハンドルは芦名あしなに任せ、助手席に俺、後部座席に奥戸おくとという配置で、ガソリンの無駄遣いを開始する。


「チーマー連中の車は他に二台だと。残りは多くて十人ってとこか」

「いや、バス二台で来てる可能性も捨てきれんぞ」

「野球部がつえー高校なのかー?」


 芦名らが雑魚共から訊き出した情報では、工場に向かった車は全部で五台。

 四台にブランクヘッズが分乗し、もう一台に米丸よねまる綾子あやこが乗っているらしい。

 そっちに外狩とがりやサンキチ、それに下浦しもうらなんかもいるとして、総勢で十五人を超えることはないだろう。

 数で押し潰される心配はなさそうだが、敵の陣容が不明瞭ふめいりょうなのは不安が残る。


「アリスが言うには、荏柄えがらがヤバいクスリを使ってるらしいが……渋谷あたりで出回ってる新型ドラッグの噂、聞いてないか」

貞包さだかねさんトコで扱ってたのは、基本は大麻クサでたまに覚醒剤シャブがあるくらい、だったから新しいのはあんまり」

「ヘロインもあったぞ、一キロくらい。便所に流してやったが」

「そういうのは、洪知会こうちかいから預かったブツじゃねえかな。しかし一キロが下水行きか……そりゃあ、もう終わりとか言うよな、あの人も」


 前の雇い主の末路に想いをせたのか、芦名がスッと遠い目になる。

 工場が近付いてきたところで、奥戸が得物ぶきをチェックしながら言う。


「ヤバいって、どんなモンだー? 飲むと巨大化とかじゃねーよなー」

「そいつはヤバさの方向性が違うだろ。アリスも詳しくは知らんようだが、常識外れのブチキレた行動をとる、とか何とか」

LSD(エル)とか|マジックマッシュルーム《キノコ》か? しかし、幻覚系アシッドをキメて喧嘩なんてまず無理だぞ」

「となると、リミッターが馬鹿になるタイプ、なんだろうが……」


 理性を飛ばし、攻撃性を高め、力加減をイカレさせる合成麻薬デザイナーズ・ドラッグは、俺が知るだけで数種類。

 実際に使ってるヤツとも、何度か遭遇したことがあったハズ。

 しかしアレはどれも両刃もろはの剣というか、デメリットの方が大きすぎる。

 中毒性が強く、内臓へのダメージがデカく、全力攻撃の反動で怪我も多い。

 使い捨ての兵隊に投与するなら、一応の効果は見込めるかもしれん。

 しかし、それなりの組織のトップがハイリスクなものを使う意味は何だ。

 

「自制心と恐怖心は喧嘩の邪魔だからなー。そこらを消せるってんなら、魔法の薬みたいなモンだろー」


 ブラスナックルを試着しながらの奥戸の言葉で、色々とに落ちた。

 さっき聞いた「殺す気で殴れるヤツが強い」説とも通じる話だ。

 今の時代でも、この手の薬に副作用があるのは知られている。

 だが、どれほど深刻かについては、そんなに浸透していないだろう。

 となれば、強さを求めて濫用らんようするヤツがいても不思議はない。

 そういえば、芦名にもリミッターを吹っ飛ばす特技があった気が――


「聞いてた通り、工場の前に車は三台だ。バスはない」

「どうするよ、ヤブー。深く考えずに強襲か、でなけりゃ正攻法で突撃か……堂々と正面突破って手もあるなー」

「全部一緒じゃねえか。内部構造や人員配置がわからんから、小細工の余地がないな。全員で正面から乗り込むか、一人が別動隊で攪乱かくらんするか……そのくらいか」


 曖昧あいまいに頷いた芦名は、ブレーキを踏みながら言う。


「もしかすると、ブランクヘッズの連中に俺を知ってるのがいるかも。それだと、かなり警戒される危険が」

「それなら、別行動で奇襲してもらった方がいいか……ああ、工場に続いてる道は一本だけっぽいから、こいつでふさいどこう」


 工場の敷地しきちから道路への出入口の手前に、車を横向きに駐車する芦名。

 移動させるには鍵もしくは物損事故が必要になる、絶妙な位置取りだ。

 

「見張りはナシか……中から監視されてる可能性もあるが」

「チーマーとかヤンキーは、あんま細かいこと考えねーと思うぞー」

「そいつは一理ある……それでケイ、優先するのは綾子の救出、米丸の確保、荏柄の無力化って順番でいいんだな」


 奥戸の雑な意見に同意を返した芦名は、突撃後の行動について再確認してくる。


「ああ。他のは死なない程度にブッ飛ばしていい。あと、外狩とがりは飛び道具を使ってくるだろうから、高所や物陰は要注意で」

「おー、注意しとけアッシナー」

「モビルスーツっぽく言うな。ていうかお前も気をつけろよ、オク」

「わかってるってー。オレは常にからくれない運転だぜー」

「何人かき殺してる感じだし、運転していい歳じゃねえし」


 奥戸の戯言たわごとなしていると、芦名は苦笑しながら工場の裏手に回る。

 その背中を見送ってから、俺たちは工場の正面入口へと近付いていく。

 メインの出入口は大きな鉄製のとびらで、その横に従業員の通用口が。

 ドアは施錠せじょうされてない――ゆっくり開けて、奥戸と二人で様子をうかがう。

 廃工場なのに電気が通っているようで、所々に蛍光灯がいていた。

 そう遠くない場所から、笑いの混じった複数人の話し声が聞こえる。


 ジェスチャーで「ついてこい」と伝えて中に入り、足音を立てずに進む。

 奥戸も静かなので、やるじゃないかと背後を見れば動きがヒゲダンスだ。

 何してんだお前は、と反射的にツッコミたくなるのを耐え、人の気配がする部屋の手前で足を停めた。

 場所や雰囲気的に、かつては応接室として使われていたのだろう。

 半端に開いたドアから、アホそうな連中の会話と煙草たばこの臭いが流れてくる。


『あー、始まんのは夜になってから、だっけ? 腹ァ減ったんだけど』

『だぁらよー、サービスエリアでメシ食っとけつったろーが』

『いやいや、どうせなら名物とか食いたいじゃんよ』

『旅行じゃねんだよ、ったく。仕事中はビッとしろって……なぁ、ミーくん』

『まぁ、ガリさん経由けいゆのネタだし、半分は遊びじゃねぇの』


 聞こえてくる声は三つ。

 二人は向かい合って座り、一人は少し離れて立っている。

 腹ペコとツッコミとミーくんで、たぶん全員が若い男。

 一番真面目そうなツッコミ役は、酒と煙草で焼けてるのか声がガラガラだ。

 コチラに気付きながら演技をしているような、そんな気配はない。


 スルーしておく意味もなさそうだし、まずはこいつらを潰すか。

 振り返って「突撃だ」と無言で伝えると、奥戸は両手でカエルを作る。

 ちゃんとわかってるのか不安が残るが、たぶん大丈夫だと判断。

 俺が動いたら続いて動いてくれる、程度には信用していい……はず。

 しのび足で強張こわばった筋肉を屈伸くっしんほぐして、ドアを全力で蹴り開けた。


「んぉっ!? んだテメェらっ――」


 異変に気付いて、ツッコミが怒鳴りながらソファから腰を上げる。

 トラブルに即対応する瞬発力は評価できるが、それでも遅い。

 室内に駆け込んだ俺は相手に身構える余裕を与えず、低いテーブルに跳び乗ってから更に跳んで顔面を蹴り飛ばす。

 そして、ソファごと引っくり返ったツッコミのノドを狙って膝を落とし、トドメとして股間キンタマにも膝を入れておく。


 身を起こし状況を確認すると、奥戸は腹ペコの背後から取り付いていた。

 小柄な相手の体を持ち上げ、足を浮かせたスタンディングのスリーパー。

 奥戸の腕を外そうと藻掻もがいているが、もう数秒もせずに落ちるだろう。

 残りはミーくんってヤツか――と姿を探せば、混乱から回復したばかりらしい、プリントが騒々(そうぞう)しい柄シャツを着た男が。

 そいつはコチラではなく、壁に向かって慌てた様子で移動している。


「クッ――」


 嫌な予感がして止めようとするが、間に合わない。

 男の指が、壁にしつらえられた警報装置のボタンを押す。

 直後、けたたましいベルの音が工場内に充満じゅうまんした。

 電源が生きているせいで、いらん機能までが現役なようだ。


「邪魔だっ!」


 まずボタンから遠ざけようと、脇腹にミドルキック。

 勢い任せに放ったせいか、入り方がだいぶ浅かった。

 少しよろけたものの、まだミーくんの戦意はうばえてない。

 一歩引いて間合いを作り、次の攻撃に移ろうとすれば、そこで相手も動く。

 武器らしきものを取り出し、警報に負けじとえてくる。


「調子のんなァ、ォオィ!」


 尻ポケットから登場したバタフライナイフに、またかよと言いたくなる。

 チャカチャカ音を鳴らし手の中でそいつをおどらせ、威嚇いかくしてくるミーくん。

 その最中、腹ペコを締め落とした奥戸が、気絶した相手を放り捨てた。

 仲間二人が倒されて二対一になってるのに、ミーくんは随分と余裕の表情だ。

 刃物を出せばイニシアティブを取れる、ヌルい世界で生きてやがるな。


「のぅばっ!?」


 右手首を蹴ってナイフを叩き落とすか、刺しに来た右腕を取って折るか。

 そんな二択を考えていたら、奥戸が無言でソファをブン投げた。

 デカい飛来物に押し潰され、壁に頭をぶつけて意識を飛ばすミーくん。

 それにあわれみの視線を向けつつ、俺は警報装置を停止させた。

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― 新着の感想 ―
キャラのセリフが喧嘩商売の主人公に似てて大好き、正直作者本人がこの作品書いてますって言われても驚かないレベル。 大好きです
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