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優しいだけの嘘つきは今日もラブコメを演じる ~幼馴染、義妹、婚約者、金髪碧眼、親友に迫られてます! 俺? ごくごく普通の陰キャモブですが……  作者: なつの夕凪
~第一章 天使同盟編~

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第187羽♡ 親友との時間


 その後も刺激的な服装の楓とカラオケを続けた。

 

 油断するとヤバい柔らかさと女の子特有の良い香りと、霊装さくらんぼキラーの破壊力で欲望に飲み込まれそうになる。

 

 しかし俺は根性で耐えた――いや耐えるしかなかった。

 

 楓の親友として大切な話をしなければならないから。

  

 ふたりともレパートリーが少ないため、30分ほど歌うと一旦曲の予約が途切れ、演奏が止まった。

 

 俺達のいるカラオケルームは静まりかえり、話声が通りやすくなったので俺は楓に話しをすることにした。 

  

 「アイドル活動の件だけど、巻き込んじゃって悪い」

 

 「カスミのせいじゃないよね? あの日は途中から意識がぼーっとしたから、よく憶えてないけど、凛ちゃんとカスミの後輩の子が言い争いになってて、あれっ? 何でああなったんだっけ?」


 「あの子、佐竹葵さたけあおいちゃんって言うんだけど、前園や楓がカスミンの彼女だと思ったらしくて、自分がカスミンの彼女だから、元カノの楓と前園は近くによるなって突然言い出したんだよ」

 

 「えっ? 佐竹さんはカスミの彼女だったの?」


 「違う違う、ややこしい話なんだけどさ、まず葵ちゃんは俺のこと女だと思っている。あと男が苦手らしい。バイトに入った時に、俺がトレーナーとして教育担当だったんだけど、男ってことは内緒にしたんだよ。葵ちゃんのバイト期間は夏季だけで、あと一カ月もしたらバイトも終わりだからそのまま黙っているつもり」

  

 「そうなんだ、ところでカスミは……」

 「ん? なに?」

 

 「……ごめんやっぱりいいや」


 どうやら楓は俺のことで気になっていることがあるようだ。

 だけど、とても言い辛そうにしている。

 

 ん? 何だろう?


 「言いたいことあるなら言ってくれ、俺達親友だろ?」


 「じゃあ聞くけど、カスミは女の子になりたいの?」

 「えっ!?」

 

 「カスミンの時は女の子にしか見えない。ちょっと女装したくらいでは、あぁはならないよ」


 「そんなことあるわけないだろ、仕事だからやってるだけ」

 

 夏休みに入り、学校がない分バイト時間が延びたことでカスミンでいる時間も長い。それに最近は女の子のように振舞うのも当たり前になった。

 

 でも緒方霞は男だ。

 女の子にはなれないし、なり切れない。

  

 「カスミンの時の方が生き生きしてるって姉さんも言ってたよ、カスミの時は死んだ魚の目をしているって」

 

 普段の俺はスローライフを目指している。

 特に普段の俺はできるだけ脱力しているから死んだ魚の目になっている自覚はある。

 

 でも……

 

 「生き生きはしてない、むしろ男だとバレないかビクビクしてるし」

 「カスミンでいるのは辛いの?」

 

 「まぁな」

 

 「……わかった。カスミはディ・ドリームを辞めて良いよ。わたしが代わりに働くから」


 「えっ?」

 

 楓からの予期せぬ申し出に言葉を失う。

 

 ディ・ドリームをカスミンを辞められる。

 バイトを始めて以来ずっと願っていたことだ。

 

 だけど……

 

 「できるわけないだろ、アイドル対決があるし、それに二学期になったら楓は生徒会役員を目指すんだろ? バイトしている時間はないよ」

 

 「でもわたしにはカスミをディ・ドリームに紹介した責任がある。無理をしているカスミをそのままにはできない。生徒会役員よりカスミの方が大切。アイドル対決も姉さんから店長さんに頼めば辞められると思う。カスミが背負うことはないよ」

 

 確かに加恋さんに頼めば何とかなりそうな気がする。

 でも俺は楓を変人だらけのディ・ドリームで働かせたくない。

 

 それに生徒会役員を目指している楓を俺の都合で、邪魔したくない。

 

 そもそも俺はカスミンであることがそんなに嫌なのか?

 

 バイトを始めた頃は人前で女装をすることに気持ちの整理がつかなくて戸惑っていた。


 でも今はだいぶ慣れた。

 働いていて楽しいと感じることもある。 

 

 「最初は辛かった。早く次のバイト先を見つけて辞めたい思ってた。でも最近はそこまで悪くないと思う。アイドルレッスンで怒られるのが辛いけど、たまにはトレーナーに褒められることもあるし」

 


 「でも……」

 「心配かけてごめん、でも俺は大丈夫だよ」


 「カスミがそう言うなら、わたしは言うことはないけど」

 

 不用意なことを言うと楓に心配をかけてしまう。

 二度とこんなことがないようにしないといけない。

 

 「ところで前園と一緒にさくらのところでレッスン受けるんだろ?」

 「うん……でもわたしは歌もダンスも下手だから」

 

 「歌はボイトレを重ねれば、もっと発声できると思う、でもダンスがな……俺も苦労してるよ」

 

 ダンスを習得するのはどうしても時間が掛かる。

 よほど才能がない限り、すぐには上手くならない。

 

 俺も楓も中学の授業で少しやった程度のド素人だ。

 わずか一カ月ほどの練習で、どのくらい踊れるようになるのか見当もつかない。

 

 「とりあえず柔軟やストレッチとか、できることをやっておいた方がいいぞ。準備不足は怪我に繋がるし」

 

 「そうだよね……やるしかないよね」

 「やっぱりやりたくないのか?」

 

 「目立つのは苦手だし……何よりお姉ちゃんやカスミと争いたくないからね」

 

 前園の言っていた通り、楓はアイドル対決を避けたいようだ。

 

 「俺も楓とは争いたくない、でも楓にとっては良い機会だと思う。生徒会役員になったら書記や広報でも全校生徒の前で話すことがあるだろ? アイドルをやった後なら余裕でできると思う。それにアイドル対決で楓の知名度が上がれば生徒会選挙も優位に進められるかもしれないし」

 

 望月楓は1年B組クラス会長として、また天使同盟一翼としてその他の一般生徒よりは知名度がある。だが候補者に他の天使同盟メンバーが含まれる場合は、それだけでは足りないかもしれない。また現生徒会と元生徒会長である加恋さんとの確執もある。

 

 「……確かにそうだけど」

 

 「加恋さんに勝てばはくが付く。あの人一応元生徒会長だし。それに姉妹対決はバトル漫画みたいで熱い。それに加恋さんが負けても酒代が稼げれば満足だろう。何より楓には前園がついている、相棒としてあんなに頼りになるヤツはいない。きっと楓を上手く引っ張ってくれるよ」

 

 「そうだね……凛ちゃんの足を引っ張らない様にしないと」

 「楓ならできるよ」

 

 望月楓がこれまでも努力に努力重ね、困難を乗り越えてきた。

 今回だってきっと上手くやるはずだ。


 俺は信じている。

 

 「やれそうか?」

 「……まだ不安だけどね」

 

 「俺も同じだよ。でも練習を沢山やったら少しは自信がつくかも。さ、カラオケ続けよう」

 

 「うん」

 

 休憩を取りながらその後1時間ほど交代で歌った。


 そして時刻が午後4時を回りそろそろ帰ることを考えたところで、突然楓のRIMEの着信音が鳴った。

 

 「カスミ、姉さんと佐竹さんがバイト終わって後こっちに向かってて、もうすぐ着くって」


 「えっ?」

 

 今の俺は学園からここに来たから男用の学生服だ。

 葵ちゃんが来たら……俺が男だとバレてしまう。

 

 ――このままだとマジヤバい。

 

 さてさてどうする!?

お越しいただき誠にありがとうございます。


お時間がございましたら「ブックマーク」「いいね」「評価」「誤字修正」「感想」「ご意見」など頂けましたら幸いです。


 「第186羽♡ 二人カラオケ」を短編にしました。

 本編から1000字ほど加筆し一部ストーリーを変えております。

 

 お時間がございましたらよろしくお願いします。

 

 ・親友の美少女をカラオケに誘ったらえげつない恰好で現れた話

 https://book1.adouzi.eu.org/n0699jz/


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