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魔獣研究者と団長は、敵を一掃する。


 ーーーバカな。


 異端粛清官スレーンは、呪杖剣を構えた姿勢で、肩で大きく息をしていた。


 雨によって濡れそぼっているにも関わらず、気持ちの悪い汗が滲んでいるのが自分でも分かる。


「たわいもないのう」


 ククク、と喉を鳴らしたニーズは、喧嘩煙管でトントン、と自分の腿を叩く。


 その瞬間に、スレーンは後ろに跳んだ。

 すると、足元の土が蠢き、凄まじい勢いで尖塔となって天に向かって突き立つ。


 

 対するニーズは、最初の位置から全く動いていなかった。



 先ほどから、同じ動きで土の魔法を発動し続けており、その餌食になった異端粛清官たちが、周りに既に出現している尖塔に貫かれて百舌(もず)早贄(はやにえ)のように屍を晒している。


「口だけかの? 魔獣に比べれば、まるで赤子のようじゃ」


 ニヤニヤと小憎らしい笑みを浮かべる彼女の皮肉に、スレーンはもはや答える余裕すらなかった。


 ーーー邪悪めが……。


 魔に属するモノに嬉々として擦り寄る狂気の研究者如きに、教会の精鋭たる自分たちが手も足も出ないとは。


 しかし、引く選択肢はない。

 邪悪に屈することなきを『()』とする教会の教えにおいて、敵前逃亡は粛清による死を意味する。


 信徒一人を救い出した程度では、それを逃れることは出来ないだろう。


 ーーーこうなれば。


 スレーンは、ニーズと刺し違える覚悟を決めた。

 逃げて恥を晒しても死を免れないのであれば、せめて道連れに。


「来い!」


 生き残った者たちに声をかけると、部下たちは周りに集まった。

 彼らも、敬虔(けいけん)なる神の使徒として、逃げた己の定めは承知しているだろう。


「援護を。邪悪は滅する」


 スレーンの言葉に、即応した者たちが魔力を溜め始めた。


「ほう。根性だけはあるようじゃの」


 ニーズが、軽く喧嘩煙管を掲げる。


「来るがいい。己の愚かしさを、その身に刻んでやろう!」


 ーーー愚かしさを思い知るのは、貴様の方だ。


 部下たちの支援魔法と防御魔法により、神の加護を得たスレーンらの能力が増大する。


 水に対抗する土の魔法は、大雨の中で威力は削られない。

 しかし、火生土の相生により発動する土の魔法は、火克水の理において発動のリソースが削られているはずだ。


 リソースを集める必要がある以上、あの威力の魔法を連発することは出来ないはずだ。


「行くぞ!」


 部下たちに声をかけ、スレーンが最後の特攻を仕掛けようとした……ところで。



「ーーー好都合だな」



 そうつぶやく、低い男の声が届く。


 同時に、雨が横に割れて(・・・・・)、風が吹き抜けた。


「……?」


 スレーンは、一瞬何が起こったのか理解出来なかった。


 一体、いつからそこにいたのか。

 ニーズの横に、大剣を手にした大柄な男が立っている。


 その手の剣を振り抜いたように腕を大きく横に伸ばした姿勢で、無表情にこちらを見つめていた。


 その姿は、知っている。

 信者を連れて行った、冒険者団を率いる男だ。


 ーーーいつの間に?


 思いながら、足を前に踏み出そうとして……動かなかった。

 

 代わりに上半身が前に泳ぎ、ズル、と世界が上に動く。


「……え?」


 不思議に思う間に、地面が近づいてきて、腰から下の感覚が一切ないことに気づいた。


 ーーー何が、起こった?


 その意識を最後の、ブツン、と視界が真っ黒に染まる。


 スレーンは。


 自分の体が、集まった部下ごと真っ二つに斬り裂かれたことに最後まで気づかないまま、絶命した。


※※※


「なんじゃ、最後の矜持(きょうじ)に付き合ってやらんのか」


 転がる異端粛清官たちの死体を前に、ニーズが鼻を鳴らすと、団長は淡々と答えた。


「野生の動物とて、群れに危機のある状況では遊ばん。アレは獲物ではなく、敵だろう。慈悲をくれてやる義理もない」

「仮にも、同じ神を信奉する相手だろうに」

「信心とは、己の魂に刻むもの。我が神の土地を殺そうとした者は、我が心の内において使徒足り得ぬ。お前こそ、腕を奪われた恨みある相手に慈悲をかけるか」

「ほう、気づいていたか」

「神の使徒を騙り、くだらぬ真似をする連中、我が信仰心に従い、機会があればいずれ始末せねばならぬと思っていた」

「なるほどな。……まぁ、腕を奪った者が小物であったことは(しゃく)じゃが、恨みと呼べるほど気にもしておらんかった」

「そうか」


 団長は大剣を担ぐと、再び歩き出した。


「どこへ行くのだ?」

「俺の仕事は、土地を殺した者を無事に街に戻すことだ。探しに行く」

「なるほど。では儂は、ノーブル・ズゥの卵の下に戻ろうかの。もう敵はおるまい」

「一人行方の知れぬ者がいる。ルアドの見込んだ魔物使いの少女の側に在るなら、是非はない」

「ルアドに伝えておけ。早うせねば、ノーブル・ズゥの誕生に間に合わぬとな」

「ああ」


 そう、歩みを止めないまま団長がうなずいたところで。



 ーーー視界の遥か向こう、草原の半ばで、おぞましい気配が膨れ上がった。

 


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