表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/43

魔物学者は【大禍】に出会う。

 

 ルアドは、アスランが飛び退る間に、ジッと逃げた男を観察していた。


 どうにも気配がおかしい気がしたからだ。

 彼の周りだけ、どこか歪みを感じる。


 気脈が乱れ、水の気配が集まって増大していくのだ。


 ーーー何だろう?


 ルアドは、男の様子に興味を惹かれた。


 薄暗い中でもさらにどす黒く闇がわだかまっている風に、ルアドの目には映っており、それは陰の水気……底無し沼や人を呑んだ溜池にも似た、どこか不気味な気配である。


 あるいは、他に似ているものといえば【魔の領域】に差し掛かる時に感じる瘴気などにも、通じていた。


 ーーーあれ、まずいんじゃないかなぁ?


 初めて見るが、降り注ぐ雨の陰気を、もし彼が無限に吸い込んでいっているのだとすれば、確かに力は増すが、同時に許容量を超えて飽和するのではないだろうか。


「君さ、それ、どうやってるのか知らないけどやめた方がいいよー? 正気を失うよ?」


 この世界において、陰気がそのまま毒、というわけではない。

 陰に属する夜が狩場の生き物や、瘴気無しでは生きられない魔獣などが存在するように、あるいは雨ばかりでは作物は腐るが晴ればかりでは枯れるように、陰陽はどちらも必要で、均衡きんこうが重要なのだ。


 バランスが崩れるのは、世界から生き物まで、全ての存在にとって良いことではない。


 あまり極端に崩れてしまうと、精神に異常をきたしたり、病にかかったり、自然の中でそれが起これば災害となるのだ。


 ルアドから見て、男は今、そういう状態だった。

 極端に陰陽のバランスが崩れ、その分力が増大しているのだ。


 だが。


「ヒッ、ヒャ、ヒヒャッ……!!」

「聞こえてなさそうだねー」


 男には、もう声が届いていなかった。


 今の間にも、どんどん男を包む陰気が暗くなってゆき、まるで人の形をした闇が目だけを爛々(らんらん)と輝かせているようにしか見えなくなっていく。


「呑気なこと言ってる場合か! あれ、どうなってんだ!?」

「ボクに聞かれても、分かんないなー。でもまぁ、ああなっちゃうと殺すしかなさそうな気もするけど。……団長に怒られるかなぁ?」


 言いながら、ルアドは【賢者の記録書】に手をかざす。


「ゲ、ヒャァァアアアッッ!!」


 完全に正気を失っているのだろう、全く考えも何もなさそうな動きで男が突っ込んでくるのを、ルアドは、自分の周りに展開した防御結界で防いだ。


 どれだけ力が強まろうと、一介の冒険者程度が団長より強くなる、などということはあり得ない。

 この結界を突破したことがあるのは、せいぜい団長とその側近、あるいはよほどの力を持つ魔獣くらいのものだ。


 一応、連れて帰る約束をしているみたいなので、出来れば生きたまま拘束したい。


 が、大雨によって水の領域と化しているこの場所で、〝水生木の相生〟や〝土克水の相克〟を試してみたところで、どれほど効果があるかは分からなかった。


 あるいは、瘴気に似ているという自分の推察が正しければ、聖属性による浄化が有効になるかもしれないが……。


「いやダメだろ! それやっちまうと、報酬どころか下手すると罰金だぞ!?」


 アスランがこちらに走って来ながら、それを口にするのに。


「まぁそれは仕方なくない? これを放棄する方が多分」


 害がある、とルアドが言い返したところで。



 ーーー男の体が、突然どろりと崩れ落ちた・・・・・



「あ」


 呑まれた。


 ルアドは、直感的にそう感じて、早口に告げる。


「副団長、来るな!」

「あぁ!?」


 しかし、聞こえた言葉を彼が理解するよりも先に。


 崩れおちた男の体が爆発的に肥大化して、周りの全てを……アスランとルアドすらも一瞬で呑み込んで、辺りを包み込んだ。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ