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黒歴史をデリートするのは

今回で、実質最終回です!

 そして一週間後の朝。私は、再び広間へと足を踏み入れた。広間には、私とヘルムートさんの二人しかいない。


「マシロ様。帰る準備は整いましたかな?」

「はい! ヘルムートさん、短い間でしたが、お世話になりました!」


 笑顔で言う私を他所に、ヘルムートさんは辺りをキョロキョロする。


「エルヴィン殿下達は見送りに来ておられないようですね」


 私は、苦笑して答える。


「朝食の直後に、ディルク殿下とコリンナさんが鬼の形相でエルヴィン殿下を連れ出したんです。『話がある』って。大事な話かもしれないですし、仕方ないですよね」


 ヘルムートさんは、少し考えるような表情をしたけれど、私の方に視線を戻して言った。


「では、マシロ様、こちらへ」



 私は、広間の中央に移動した。ヘルムートさんが木製の杖を振って詠唱をすると、私の足元に複雑な文字のようなものが書かれた魔法陣が現れる。


「マシロ様、今まで聖女としてご尽力頂き、ありがとうございました」

「いえ、こちらこそ、良くして頂いて、ありがとうございました」


 私がニコリと笑うと、ヘルムートさんは再び杖を振るう。すると、円形の魔法陣が白い光を放った。

 ああ……本当にもうアドラー王国とお別れなんだな。


 私がそう思った時、バンと大きな音を立てて広間のドアが開けられた。


「マシロ!!」


 驚いて私が振り返ると、広間のドア付近にはハアハアと息を切らしたエルヴィン殿下がいた。


「殿下! どうなさったんですか!?」


 私が聞くと、殿下は息を整え、真っ直ぐと私を見つめた。


「……こんなの俺の我儘(わがまま)だって分かってる。お前を困らせるって分かってる。でも、言わせてくれ。……マシロ、元の世界に帰るな! ずっと俺の側にいてくれ!!」

「え……」


 目を見開いて固まる私に、殿下は続けて言う。


「最初は、瘴気を浄化する為にいてほしいだけだった。利用するつもりだった。でも、お前の優しさを知る度、笑顔を見る度、心が温かくなった! 俺は、俺は……お前の事が、好きなんだ!!」


 ……今、エルヴィン殿下、何て言ったの? 私の事を好きだって言ったの?


 どうしよう、すごく嬉しい。殿下への想いは胸に秘めるつもりだったのに、日本に帰るつもりだったのに、そんな事言われたら、私は……!!


「エルヴィン殿下!!」


 私は、魔法陣から離れ、エルヴィン殿下の元に駆け寄った。そして、殿下の胸に顔を埋めながら言う。


「私も……私も、殿下の事が好きです! 私を、ずっと殿下の側に置いて下さい!!」


 黒歴史のデリートとか、もうどうでも良い! 家族に会えないのも困るけれど、私はやっぱり、エルヴィン殿下の側にいたい!


 私が顔を上げると、エルヴィン殿下は茫然としていた。そして、私の肩に手を置いて聞く。


「……本当か? 本当に、俺の事を好きになってくれたのか?」


 私は、急に恥ずかしくなって無言で頷く。


「ハ、ハハ……ありがとう、マシロ! 大切にする!!」


 エルヴィン殿下は、ギュッと私を抱き締めた。


 その様子を見ていたヘルムートさんが、頷きながら言う。


「若いというのは良いですな。……まあ、一生元いた世界に帰れないわけでもないですし。この術を使えるのは一か月に一度くらいですが」


 私は、はたと思い当たった。そうだ、ヘルムートさんは、私を召喚する事も帰す事も出来るんだ。ここに残ったら一生元の世界に戻れないような気になっていたけれど、全然そんな事無かった。


「あの……ヘルムートさん。私の帰還を一か月後に延長してもらっても……?」


 私が恐る恐る聞くと、ヘルムートさんは白い髭を撫でながら答えた。


「まあ、良いでしょう。これからはコリンナさんが正式な聖女となるはずですので、ここにいる間はマシロ様がコリンナさんをサポートしてあげて下さい」

「はい、ありがとうございます、ヘルムートさん!!」


 私は、エルヴィン殿下の方に視線を戻して言った。


「エルヴィン殿下、これからも宜しくお願いします!」


 殿下――エルヴィン様は、優しい笑みを浮かべて答える。


「ああ、こちらこそ宜しく頼む、マシロ」


 私達は、優しい瞳でお互いを見つめ合う。私が黒歴史をデリートする日が来るのは、もう少し先になりそうだ。

次回、エルヴィン視点のおまけを投稿したら完結です!

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