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決断

事件が解決して……。

 経済会議で事件が起こった一週間後。私、エルヴィン殿下、ディルク殿下、コリンナさんの四人は、共に朝食を取っていた。

 コリンナさんが、心配そうにディルク殿下に聞く。


「あの、ディルク殿下……ヴラスタ様は、あれからどうなったんでしょう?」


 ディルク殿下は、目を伏せがちにして言う。


「ああ、母上は……無期限で塔に幽閉される事になったよ。でも、心配いらない。母上に同情する声もあってね。塔の中では丁重に扱われるはずだよ」

「そうですか……」


 アドラー王国を危険に晒したヴラスタ様に何の罰も与えないわけにはいかない。でも、ただ愛を求めていただけのヴラスタ様に思う所もある。これからは、ループレヒト様やディルク殿下、それに出来ればエルヴィン殿下ともきちんと向き合ってほしい。


 ちなみに、フベルト陛下には半ば強制的に帰国してもらう事になった。

 フベルト陛下が皇帝の座を降りる事は恐らく無いだろう。それでも、今回フベルト陛下がドラゴンを呼び寄せた事は他国にも知られている。国際非難を恐れる陛下は、もう下手にアドラー王国を攻撃出来ない。


 それと、ツェーザルさんはドラゴン討伐に協力した事が評価され、数か月の刑期を終えれば職場に復帰できるらしい。


 ドラゴンが出現する丁度数時間前にツェーザルに掛けられた呪いも解けており、今後の業務に支障は無いだろう。


 呪いが中々解けなかったのは、フベルト陛下がヘルムートさんの魔術の癖を熟知しており、それをヴラスタ様に教えていたせいらしい。それでも呪いを解いたのだから、やはりヘルムートさんは凄腕の魔術師だ。


「でも、ヘルムートさんがフベルト陛下の師匠だったなんでびっくりよねー」


 コリンナさんが、サラダを食べながら呟く。この所コリンナさんは、ディルク殿下の前でも少しだけ素を見せるようになっていた。


「そうだ。ヘルムートさんと言えば……」


 エルヴィン殿下が、思い出したように言う。


「今日の午後、俺達四人揃って広間に来てほしいと頼まれてたんだった」

「四人揃って……?」


 私は首を傾げた。一体何の用だろう。もうフベルト陛下はこちらにいないし、あらかた瘴気に関する人為的な事件は解決したと思うんだけど……。


       ◆ ◆ ◆


 午後になり、私達四人は広間へと足を踏み入れた。ドラゴンに壊された天井は修復作業が進んでいるけれど、まだあの襲撃を思い出させるような爪痕が残っている。

 広間の前方にいたヘルムートさんは、こちらの方を振り向くと笑顔で言った。


「ホッホ。四人揃いましたな」


 そして、私達四人ををゆっくりと見渡すと、彼は穏やかな声で告げる。


「聖女マシロ様を、元居た世界にお返ししようと思います」


 私は、一瞬何を言われているのか分からなかった。ヘルムートさんが、白い髭を撫でながら言葉を続ける。


「コリンナさんの身体に残った薬も抜け、もう以前のように瘴気を浄化できるようになったでしょう。まだ魔物が完全にいなくなったわけでは無いとはいえ、マシロ様が元の世界に帰っても問題ないと思われます」


 そうか。私はもう……ここにいなくてもいいんだ。ヘルムートさんは、更に私に言う。


「マシロ様。この国にまだいたいと言うのなら、陛下は認めて下さるでしょう。この国に留まるか、元の世界に帰るか、あなたが決めて良いのです」

「私が……決める……」


 その後、ヘルムートさんはエルヴィン殿下達にも色々と話をしていた。コリンナさんは今以上に忙しくなるだろうから、ディルク殿下はしっかりフォローするようにとか。護衛騎士の配置を決めるのはエルヴィン殿下だから、コリンナさんのスケジュールを把握してしっかり体制を整えるようにとか。


 でも、私の耳には、そんな言葉は入って来なかった。




 話を終えたヘルムートさんがその場を後にすると、広間には私達四人だけが残された。エルヴィン殿下が、私の方を向いて笑顔で言う。


「良かったな、マシロ」

「え……?」


 振り向く私に、エルヴィン殿下は優しく語り掛ける。


「お前、元の世界に帰りたかったんだろ? 召喚された時帰りたそうだったとヘルムートから聞いているが」

「あ……確かにそうなんですけど……」


 私は口ごもった。確かに最初は帰りたかった。でも、今は……。


「どうした? 何か気にかかる事でもあるのか?」


 首を傾げるエルヴィン殿下に、私は首を振って答えた。


「……いえ、何でもありません。確かヘルムートさん、一週間後に私を帰してくれるって言ってましたよね。荷造りしないと……」


 そして、私はフラフラと自分の部屋へを戻っていった。

 コリンナさんが、「エルヴィン殿下も鈍いわねえ……」と呟いた気がした。




 その日の夜、私はベッドに横たわりながら考えた。

 本音を言うと、今はもう日本に帰りたいという気持ちは薄らいでいる。でも、それをエルヴィン殿下達に言って良いの? エルヴィン殿下が好きだからここに残るって言って、殿下が困ったりしない?


 それに、日本には一応私の家族がいる。放任主義の親だったけれど、自分を探してくれていたら申し訳ない。

 そうだ。私は、帰るしか無いんだ。


 そう思って目を瞑るけれど、脳裏に浮かぶのはエルヴィン殿下の優しい笑顔。……日本に戻ったら、もう殿下と会えないんだ……。

 私の目には、涙が浮かんでいた。

実質的に、次回が最終回です!

最後までお付き合い頂けると嬉しいです!

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