【電子書籍化記念SS】色あせない薔薇とサプライズ
電子書籍記念SS、楽しんでいただけますように!
朝起きると、なぜか寝室の床が凍り付いていた。そして、起きればいつでも私の寝顔を見つめているはずのフェリアス様の姿がない。
(いや、フェリアス様には筆頭魔術師のお仕事があるのだから、それが普通なはず……ううん、やっぱりおかしいわ。まさか、フェリアス様の魔力が暴走した……?)
そういえば、ここ最近フェリアス様は様子がおかしかった。
もしかすると、我慢強い彼は魔力が不安定であることを隠していたのではないか。
そう考えると、それが真実であるように思えてくる。
扉まで凍り付いているせいで、鍵が閉められたようにノブが回せない。
しばらく考えて、先日作った魔法薬を扉に掛けてみた。
この魔法薬は不死鳥の羽根から落ちた火の粉をわずかに混ぜ込んである。
瓶の中を覗けば、消えない炎が溶液の中でユラユラと燃えさかっていた。
消えない炎であれば氷を溶かすことだってできるはず。
「えいっ!」
それは、単なる仮説ではあったが、思った以上に効果があった。
シュウシュウと水蒸気を上げながら扉が開いた。
熱せられ得てしまったノブをシーツでくるんで開ける。
私はフェリアス様を探し始めたのだった。
* * *
屋敷の中は人の気配がなかった。
いつだって、呼べばすぐに来てくれる侍女長、ルシアの姿すら見えない。
(もしかすると、魔人の再来)
そんなことを思ってしまうほど、屋敷内は静まり返っていた。
そのときだった、扉の隙間から黒いうさぎのぬいぐるみがぴょんぴょんと跳びだしてきた。
『あ、しまった』
「まーくん!」
黒いうさぎのぬいぐるみは、もちろん単なるぬいぐるみだはない。
それは、魔人であるマーリンを宿した特別製のぬいぐるみだ。
まーくんは全速力で跳んで廊下の端に行くと消えてしまった。
誰の姿も見ることがないことと先ほどの『しまった』という言葉は関連しているのだろう。
魔人の再来という線は薄くなったな……と思いながら、不安を消しきることもできず、私はまーくんが消えた廊下の端へと向かうのだった。
* * *
途中で、魔術師の正装姿のリリードさんが現れた。
「お久しぶりです」
「ああ、久しぶりだな」
「フェリアス様に用事ですか?」
「……」
リリードさんは困ったように微笑んだ。
リリードさんとリリーさんは双子らしい。
時々、魔術師団長としてのリリードさんと、リリー・チュールの店主のリリーさんは入れ替わっているという。
(最近わかってきた。こちらは魔術師団長のリリードさん)
本当はどちらがそうなのかはわからない。
けれど、私は二人を見分けることができるようになってきたのだ。
(つまり、こちらは暫定リリードさん)
ニッコリ笑いかけると、困ったように目を逸らされた。中身(?)がリリーさんの場合、ここで見つめた上距離を詰めてくることだろう。
『それはまずいぞ』
「まーくん! ねえ、フェリアス様は?」
『……ここで、即フェリアスを心配するとは、アイリスはさすがだな。首の皮一枚繋がったな、リリード』
「……そうですね。三秒目が合うだけで危険域なのに微笑みかけられるとは」
三秒って以前フェリアス様が呟いていた単語ではないか。
廊下の端の扉の向こうから、物音が聞こえてくる。
あの扉の向こうにフェリアス様はいるのだろうか……。
「待ってくれ!」
「リリードさん?」
『……とりあえず、こちらの部屋に行くぞ』
「まーくんまで、どうしたの」
フェリアス様を探したいのに、二人は先に行かせてくれないようだ。
『……はあ、仕方ないな』
そのとき、ウサギのぬいぐるみが美しい紫色の光に包まれた。
直後、私の前にはアメジスト色の瞳をした執事姿の美少年が立っていた。
「さ、こっちに行くぞアイリス」
「まーくん……」
「ロイに頼まれているんだよ」
「ロイも来ているの?」
最近ロイは、シェラザード公爵家の執務に忙しく、以前のようにフェリアス様のお屋敷を訪れる機会は少なくなっている。
* * *
「アイリス姉様!」
「ロイ?」
待ちくたびれてソファーでうたた寝していると、ロイが部屋に飛びこんできた。
久しぶりの再開を喜んでいると、フェリアス様も部屋に入ってくる。
「フェリアス様! 起きたらいなかったから心配していたんですよ!」
「……ああ、すまない」
「いったいどうしたんですか?」
「姉様に見せたい物があるんです!」
フェリアス様にエスコートされた私の背中をロイがグイグイと押してくる。
先ほど入れてもらえなかった部屋の扉を開けると、そこは薔薇の花で埋め尽くされていた。
「姉様! 見てください! 薔薇の花を保存する魔法に成功したんです」
「すごい」
薔薇の花の一つ一つは全て枯れることのない魔法が掛けられているらしい。
フェリアス様も手伝ったのだろう。
それにしてもロイは幼いのに天才なのか……。
「俺も手伝ったんだ。サプライズパーティーがしたいとロイがねだるから」
「まーくん……ありがとう」
美しい薔薇と幸せな時間。
フェリアス様から差し出された薔薇は、あの日くれたものと同じ、淡い水色だった。
最後までご覧いただきありがとうございます。





イラストは木ノ下きの先生に描いていただきました。加筆改稿書き下ろしたっぷりの電子書籍版もどうぞよろしくお願いします(*´▽`*)