海底神殿
扉の場所は、一定ではない。
それでも、海底神殿は扉の出現場所の一つらしい。
今は沈んでしまっているけれど……。
「とりあえず、海底神殿に行こう。アイリスちゃん」
ラウル師匠さんが私の肩をポンッと叩いた瞬間、景色が歪んで何度か訪れた海底神殿がある浜辺にいた。そこには、フェリアス様が海を見つめながら立っていた。
「ここに来るっていう、アイリスちゃんに関する嗅覚。恐れ入る」
「アイリスに危害が加わるなら、全て俺が壊す。魔人の世界を消してしまえばいいだけの話だ」
フェリアス様の纏う雰囲気が、どこか魔王みたいになっている。
それでも、私はリーティアやまーくんのいた世界を壊すなんて望まない。
デュランだけは、ちょっと恐ろしかったけれど、たぶん私たちと同じように生きているのだから。
「フェリアス様……」
「――――アイリス、こんな風に言う俺のこと嫌いになっていい。それでも、アイリスとほかの物を天秤に掛けたら、どちらに傾くか、俺にとってははっきりしてしまっている」
本当に……困ってしまう。
そこまでの執着を持っていたとしても、普通の人間だったら実現できないようなことがフェリアス様には出来てしまうから。
「フェリアス様……。私に力を貸してください」
「アイリス、決めてしまったんだね」
「ええ。私……こんなことを繰り返すのは嫌です」
フェリアス様が、その蒼い瞳を細めて、少し歪んだ笑顔を見せる。
本当は、何も考えずに二人で笑っていたい。
でも、きっとそれは私たちにいつか生まれてくる子どもたちに、その責を負わせてしまうことだから。
「フェリアス様と私の子どもたちに、同じ思いをさせるんですか」
「――――アイリスは、俺とそんな未来を考えてくれるの」
「当たり前です! ほかにそんな未来を考える相手なんていないです!」
そう、私だって、気が狂ってしまいそうな辛い閉じ込められていた日々に、たった一つの希望がフェリアス様だったから。
ここにまだ、こうして立っていられるのは、フェリアス様がいてくれたからなのだから。
「――――フェリアス様のこと、言えないくらい私だって。それで、師匠さん、とりあえず神殿を海中から出したらいいんですよね?」
「そうだね……」
なぜか、辛そうに顔をゆがめているのはラウル師匠も同じだ。
リーティアさんが、そんなラウル師匠をじっと見つめ、そっとその手を握った。
二人の力は、たぶん温存しておく必要があるのだろう。
私にも、リーティアさんの魔力がそれほど残されていないのが分かってしまうから。
フェリアス様と、私の首にかかっていた魔石。
二つの魔石は、もともと、海底神殿にあったものだ。
その二つの魔石を、魔力を注いで海に投げ込む。
次の瞬間、海底神殿はその姿を現していた。
「あ、フェリアスと俺は、魔法使えないから。海底神殿が、また沈んでしまうからね? リーティア、アイリスちゃん、頑張って」
あざとく小首を傾げたラウル師匠。
「行きましょう、ラウル?」
「あっ、リーティア痛いって!」
その直後、笑顔のまま怒りのオーラを出したリーティアさんに、耳を引っ張られてだいぶ無理やりしラウル師匠は、海底神殿に連れていかれた。
知りたくはなかった二人の力関係を見てしまった気がして、私は思わず目を逸らした。
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イラストは木ノ下きの先生に描いていただきました。加筆改稿書き下ろしたっぷりの電子書籍版もどうぞよろしくお願いします(*´▽`*)