黒いうさぎのぬいぐるみと魔人
フェリアス様の後ろから、足音がして視線を向けると銀色の髪とアメジストの瞳をした少年が現れた。
「むしろ、助けてやったのは俺だろ?まあ、魔人をアイリスが引き留めてくれたおかげだけどな」
まーくんが、髪の毛をぐしゃぐしゃと乱してそんなことを言う。
「――――感謝する。マーリン」
「ああ。しかし、やっぱりデュランは聖女に執着しているな」
「……デュランというのかあの魔人は」
「まあいい。こんなの長くいる場所じゃない。帰るぞフェリアス?……しばらくの間、お前がしっかりアイリスを守れよ」
まーくんが、笑顔のままに意味深なことをフェリアス様に言っている。その意味を問いたださなくてはいけないと思ったのに。
その瞬間、もう一度白銀の光が満ち溢れて、気が付けば私は再び硬い台の上に寝かされていた。一足先に起き上がったらしいフェリアス様に抱き上げられる。
「……不甲斐なくてごめん。俺のせいでアイリスを危険にさらすなんて」
「フェリアス様……。無事で良かったです」
ほっとした瞬間、安心しすぎて大粒の涙があふれ出す。フェリアス様が、こちらを見ていつもみたいに微笑んでくれる。そのことが、何よりもうれしい。
「――――まーくんは?」
その瞬間、室内から音が消える。
「え?」
手元にあるうさぎのぬいぐるみは、やっぱりクッタリと動く様子がなく、ただのぬいぐるみになってしまっている。
「マーリンは俺の中で眠っている。もともと、体を奪う時も、取り戻されるときも大量の魔力を消費するみたいだ。ましてや、短期間に2回行使している。魔力が枯渇したんだろう」
まーくんは、奥の手だって言っていたのに。
それがわかっていて、撤退しようとしたまーくんに無理に魔法を使わせた。
「……大丈夫。時間が立てば、目を覚ますだろう。そうしたらまた器に戻ればいい」
まーくんはこの器では、完全な力を発揮できない様子だった。不便ではないのだろうか。
「あの、赤い目の魔人は……」
「たぶん、精神を閉じ込めてしまうのがあの魔人の奥の手なんでしょうね?オーナーを閉じ込めるには多くの魔力が必要だったと思うわ」
その声の主の方を振り返ると、麗しいドレスを纏ったリリーさんがいた。
……リリーさんでいいんだよね?
「そのぬいぐるみ。しばらく私が預かってもいいかしら?当時の最高傑作だったけれど、今ならもっと性能をよくすることができると思うの」
私の手から、黒いうさぎのぬいぐるみがリリーさんの手に渡る。
「大事にしてくれていたのね……。私にとっても思い出の品だからうれしいわ」
まあ、大事にしていたのは悪役令嬢アイリスの方ですけど。でも、私の目に映る度に、幸せな気持ちにしてくれたこのぬいぐるみ。私にとっても何よりも大事な宝物だ。
そして、美しい微笑みのリリーさんを見ながら、私は思考が混乱していくのを感じる。
「あの……ところでリリーさん?」
どちらが本当の……と聞こうとしたときに、リリーさん?が低い声で呟いた。
「アイリス。世の中には知らない方が良いこともある」
私は、この件についてはリリーさんから話してくれる日まで、触れない方がよさそうだと直感した。
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イラストは木ノ下きの先生に描いていただきました。加筆改稿書き下ろしたっぷりの電子書籍版もどうぞよろしくお願いします(*´▽`*)