距離感が掴めない
✳︎ ✳︎ ✳︎
私から口づけをしたのがいけなかったのだろうか。フェリアス様が目を合わせてくれない。
近づこうとすると、ススッと距離をとられてしまう。
「あの……。フェリアス様」
「アイリス……ごめん」
距離をとろうとするフェリアス様との攻防。なんだろう、野良猫との攻防みたいだ。
「あの……何か嫌われるようなことしました?」
「――――愛してる」
「えっ、それじゃなんで」
信じられないほど長いため息が聞こえた。地味に傷つきますが?
その次の瞬間、一歩踏み込んできたフェリアス様に口付けされた。そのまま、何度も何度も繰り返されて、息する間もないくらいに。
「アイリス……」
熱っぽいフェリアス様の瞳が、暗い焔を灯しているみたいに見えてしまって、私は後ずさりたくなってしまう。それなのに、後頭部を押さえられてそれも許してもらえない。
「好きだ……」
口付けの合間に何度も何度もフェリアス様は好きだと言った。私も好きだと言いたいのに、フェリアス様はやっぱりそれすら許してくれない。
長い時間が経って、ようやく私を解放したフェリアス様は「だから離れていたのに」と呟いた。
「あの、フェリアス様」
「このまま泣くまでいじめてしまいたくなる」
「えっ?!」
そう言いながらも、私からまた距離を取るフェリアス様。ちょうどいい距離感を保つのは難しい。
静かになってしまった室内に、時計の音だけが響き渡る。
その時、今この瞬間までぬいぐるみになりきっていた魔人うさぎが「来た……」とつぶやいた。
「仕方ない。この続きはあとでね?」
さっきまでの熱っぽい焔が、ファリアス様の瞳から消え去る。代わりに氷のようにその瞳が凍てついていく。
「でも、もう一度だけ」
もう一度だけ、フェリアス様から唇に触れるか触れないかの口付けが落とされる。冷たい唇に、フェリアス様の緊張が伝わってくるようだ。
「じゃあ、ちゃんと留守番していて。マーリン、アイリスを頼む」
その言葉に振り返ると、まーくんは銀の髪にアメジストの瞳をした姿に戻っていた。
その日、フェリアス様は夜になっても戻ってこなかった。
最後までご覧いただきありがとうございました。
『☆☆☆☆☆』からの評価やブクマいただけるとうれしいです。





イラストは木ノ下きの先生に描いていただきました。加筆改稿書き下ろしたっぷりの電子書籍版もどうぞよろしくお願いします(*´▽`*)