舌肥え嬢、味覚の旅~ヒノサククニ番外編~
むかーし、むかし、更にまた、すごい昔。ある、お屋敷に それは、物凄い舌が肥えたお嬢様がいました。
――これもでけーんっ!食材がイマイチッ!何だーっ、この、奇妙な味がする飲み物はーっ!
「えーっ!これら全て、貴女の為にと、料理長がわざわざ異国へ赴いて取り寄せた、最高級の物ばかりですよ? 」
タクト、水ッ!
「トホホ」と、世話役のタクトは、お嬢様が差し出すグラスに、 水を注ぎ入れました。
「唯一、口に合うのが、サックル山脈の天然水とは……。お食事は、あと、どのように致しますか?」
「仕方ない〈ブッタマガッタフルーツ味〉で、腹を満たす!」
それ、思いっきりお菓子……。
さっさと、もってこーいっ!!!
タクトは、お嬢様の罵声に身をすくませながら、部屋を飛び出していきました。
とぼとぼと、タクトは、お屋敷の廊下を背中を丸めながら、歩いてました。
――此処かな?お嬢様の舌が肥えすぎて、尽く、料理長が消えていくという、お屋敷は?
「はい?」と、タクトは、その声に顔を上げました。
「 失礼、申し遅れた。私の名は、ミスターロウス。私のこの腕にかかれば、どんな偏食な相手も、あ―――――――――……っという間に、ご飯大好き!と、変わるのです!」
タクトは、口を大きくぽっかりと、開けて、不思議な男を見つめました。
「はっはっはっ!藁にもすがるような、眼差しだな?よし、早速、その、お嬢様のもとに案内をしてもらいたい!」
タクトの目は半信半疑でした。でも、一条の光を、この者に託すことを決め、手招きをしました。
お嬢様の部屋の扉を三回ノックして、タクトは、入りました。
――遅いっ!何処で何をしていた。
お嬢様は怒りを膨らませ、タクトに怒鳴り付けました。
――ほう、貴女が〈舌肥え嬢〉といわれるアルマ様ですね?
「……。何だ?貴様は」
アルマ様は即、ミスターロウスを睨み付けました。
「ふっふっふっ。どんな味にも満足しない貴女の舌を、この私、ミスターロウスが、瞬時に満たして差し上げましょう!」
高らかと、ミスターロウスは、その言葉を解き放すと、身に纏うマントより、腕を伸ばして手にする物をアルマ様へと向けました。
「やれるものなら、やってみろ……」
アルマ様は、ミスターロウスに挑発的な眼差しを剥けて、そう、言いました。
それが、食材か?
イエースッ!この器いっぱいに盛られた、ライスに―――。
ミスターロウスは、タクトに歩みより、内緒話しをしたあと、再び、アルマ様に正面と向き合いました。
「貴女の味覚を麻痺……もとい、食材の味をごまかし続けた調味料抜きの具材をくまなく、押し込み―――」
お嬢様、塩分控えめのピクルスと〈コギャン魚のほぐし身〉で、いきますよ?
いっちいち、同意を求めなくてもいいから、さっさと、貴様の技を見せるのだーっ!
ミスターロウスは、更に手を動かします。
「このように、トッピングされた具材とライスを、ラッピングして、ひたすら――」
握るべし、握るべし、握るべし――っ!
「………なんと!」と、アルマ様は感嘆しました。
ミスターロウスは、塊となったそれからラップを剥がすと、反物に似た黒い食材をそっと、被せ、更に、丸めていきました。
――さあ、召し上がれ。
ミスターロウスが 差し出す、その、塊にアルマ様は恐る恐る、腕を伸ばし、そして、手にしました。
「ごくり」と、アルマ様は喉を鳴らし、ぱくりと、口に含みました。
―――なんと、いうことだ!
一つの塊に数多の具材、口に無限に広がる味。混ざり合いつつも、なおかつ、調和を保ってる!
アルマ様は瞳を澄みきらせ、ミスターロウスを見つめ、そう、言いました。
「それは、空を越え、宇宙の果てまで貫く言葉……」
ミスターロウスも、穏やかにその言葉を解き放します。
アルマ様のお顔は、更に歓喜に満たせ、こう言いました。
うま―――――…………いっ!!!
「私の負けだ。よくぞ、その言葉を言わせた………」
アルマ様は、その言葉を言うと、床へと身体を押し込んでいきました。
「訊こう、このメニューの真の名を!」
アルマ様は、ミスターロウスにお顔を向けて、そう、言いましたが
「それは、ご自身で探し当てるべきです」と、言い返されてしまいました。
「何だと?」と、アルマ様はびっくりされて、ミスターロウスに訊ねます。
ミスターロウスはこう、言いました。
その名を探すと共に、この世界に散らばる味を、舌に乗せるのです。数々の味を舌に刻み込ませ、その“力”で、世界の真実を見てください。
―――そして、貴女は伝説になるのです!
アルマ様は震えました。そして、喉を鳴らし
「まだ、未知の味が存在してるというのか?」と、瞼をぱっと開き、そう、言いました。
「いかにも、そうです!」
「世界の真実と、この、真の名を求めて――」
―――いざっ冒険の旅へっ!!!!
………こうして、アルマ様は、旅立って行きました。
ひたすら、真の名と味を求めて――――
―――もしかしたら、キミの街にも舌肥え嬢が来るかも………ね!
―――――――大馬鹿者――――っ!!!
「悪ふざけにもほどがある!」
アルマ、食堂車でロウスに激昂し、更に追いかけだしていった。
テーブルよりひらりと、床に舞い落ちる、文章が綴られる紙切れをバース、拾い上げ、タクトと共に読みふける。
――ロウスさん、本当はこっちが性格だったりして?
――でも、アルマはよく、表してるぞ!
アルマの叫び、赤い列車の隅々に響き渡る。




