お宅訪問
というわけで、兄の清人を助けるために樹里の実家へとやってきた御一行。
いろいろと計画してきたものの、結局のところマスケラの能力しかわからないため、悠真が提案した策を採用することくらいしかなにも準備はできなかった。
しかし行き当たりばったりは彼らの得意とすることである。そんなものである。
「よっしゃ。行きますか」
腕まくりをする琴音とその隣に立つ樹里を先頭に、一行は屋敷の入り口の門の前に立つ。
すると自動で門が開いた。
「歓迎しますってことね」
「琴音だけが使えるギャグね」
「……樹里。そういうつもりで言ったんじゃないからね」
「……ごめん」
緊張感のない二人の背中を見る悠真と奏太。
昨日の夜、マスケラにやられた二人は、夜遅くまで対策を練り、悠真が提案した策の他にもいろいろな状況を想定したパターンを考えていた。
これならばマスケラに負けるはずがない。
そう確信していた。
そして、まさにその直後だった。
「ようこそ。いらっしゃいませ」
そう言って一行の前に突然現れた燕尾服を着た初老の男性。片腕を胸の前で曲げて頭を下げている。
「吉田。兄ちゃんは無事なの?」
樹里が話しかけた。
その『吉田』と呼ばれた男性は、答える。
「もちろん無事でございます。旦那様とお話をしておられますよ」
「兄ちゃんを今すぐここに連れてこい」
「それはできません。いくらお嬢様のご命令であったとしても、旦那様の命に従うのが私の仕事でありますゆえ」
「じゃあ兄ちゃんの元に案内しろ」
周りでただ見ていることしかできない他のメンバーは、樹里の吉田へ対する強い口調に、少しビビっていた。琴音だけは『これがお嬢様か!』と驚いていた。
「それもできません」
「じゃあどけて」
「私はお出迎えと、ご案内を承って参りました。なので、ここでご案内をさせていただきます」
「案内?」
樹里の疑問符には答えず、吉田は顔を上げた。
その顔は、鼻が高く、口は半笑い、顎のラインには立派な白鬚が伸びていた。
その顔に樹里は、時運が知っている吉田の顔とは違うことに違和感を覚える。そしてすぐにあの顔は、仮面をつけていることに思い当った。
「みんな気を付けろ! 吉田は仮面をつけているぞ!」
「仮面!?」
「皆様はこれから別々の部屋へお送りいたしますゆえ、少しだけ我慢をお願いいたします」
そう言うと、全員が仮面をつけるよりも早く、吉田が指を鳴らした。
するとその場にいた吉田以外の全員の姿が消え、残ったのは吉田だけとなった。
とある一室。
悠真は吉田が指を鳴らした瞬間に、自分の身体が何者かに捕まれたような気がしたと思ったら、いつのまにかこの部屋に来ていた。
そして目の前には、赤いマスケラが立っていた。
目の前にはマスケラ、背後には外の様子が見える窓。しかし日が高いためか、部屋の中は妙に薄暗い。
「やぁ。またやられに来たのかい?」
「そんなわけない。次は勝つ」
「ハハハ。威勢のいい子は好きッスよ」
「行くぞ」
そう言って蜘蛛の面をつけた。
しかしマスケラはそれを見て笑った。
「……何がおかしい」
「いやいや。これ、実体ないし。ただの分身ですからー」
「…………」
警戒心マックスの悠真は、その言葉の真意を探ろうとした。それを悟ったマスケラは、笑うのを止めた。
「俺がこうして分身を出してまでここにいるのは、ちょっとしたゲームのルールを説明しようかと思ったんスよ」
「ゲーム?」
「そうッス。ゲームッス。旦那様がちょっと遊んでほしいっていうからさ」
「…………」
「聞いてくれるってことかな?」
相変わらずおちゃらけたようで隙のないマスケラを、悠真は仮面の奥で睨む。
「まぁいいや。早速ルール説明するッスね。ルールは簡単。俺を倒してみてくださいな」
「……それだけ?」
「それだけッス。もちろんこの今見えてるのは実体がないから数には含まないけど、これから出す九体のマスケラを早く倒せば君の勝ち。もしも君がやられたら君の負け。ね? 簡単でしょ?」
ケラケラと笑うマスケラ。
悠真は小さく笑う。その小さな笑みがマスケラにも届いた。
「何がおかしいんスか」
「願ってもいないチャンスだと思ってね」
「チャンス?」
「あなたへの対策は嫌ってほど考えてきたんだ。二回目も負けたら屈辱だし」
「一回負けたらもうそれだけで屈辱だけどねぇ」
「だから次は負けない。もう負けない」
悠真の真剣な声は、マスケラから笑みを取り除くには十分だった。
「まぁいいッス。これは他の四人も同時に始めるから、もしもあとで会えないお友達がいたとしても、それはその子の責任なんで、俺のせいじゃないって思ってほしいッス」
「フッ。誰も負けないって」
「はぁ……まぁいいや。じゃあ始めようか」
赤マスケラの前に、黒やら赤やらのマスケラが計九体現れた。
「じゃあゲームスタート」




